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世界の創造主は、仲間達と問題の後始末ばかりします。  作者: 灰色
サイドストーリー1 ミミックの宝物
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2 セレン・スタイン

 セレンが去って数日経っても、ミヨンのやる事は変わらなかった。

 たまに来る宝を求める者が魔法トラップの影響で殺し合い、それを見届けて最後の一人を不意打ちで殺す。

 ミヨンには不思議でならなかった。帰還率の低い危険な場所になぜわざわざ来るかと。

 死ねば全てが終わり・・・。

 なぜそう考えないのか。

 あるいは死の先に何かあるのだろうかと考えるが、やはりミヨンには分からなかった。


「こ、こんにちは・・・」


 不意にダンジョンの宝物庫には相応しくない挨拶が聞こえた。

 気になってチラっとミヨンが見てみると、それは数日前に助けたセレンだった。

 セレンは一人で来ており、また大きな鞄を肩からぶら下げている。

 そして周囲を見回すと、目の前の財宝には目もくれず、宝箱を片っ端から開け始めた。

 宝箱の中身を取る訳でもなく、次々と開けては閉めてを繰り返し、やがてミヨンの番が来た。

 宝箱が開かない事を確認すると、


「あ、お前だな? ようやく見つけたぞ。この前の礼を言いに来たんだ」


 笑顔でミヨンに話しかけ、その隣に座った。

 そして大きな鞄から肉やワイン、チーズといった食べ物を次々と取り出してはミヨンの傍に置いていく。

 その行為にミヨンは絶句していた。

 今まで一度宝を手に入れた事に味を占め、同じ人物が来る事は合ったが、ミヨンに話しかける者は誰一人居なかった。

 もっとも二度来た者のほとんどは欲を出して死んだが。


「おーい、聞こえてんだろ? 頼むから反応してくれよ。このままだと箱に話しかけてる変な人になってしまう」


 一応セレンが自分は変な人だと認識している事に、ミヨンは安堵した。

 正気でやっているならまだマシ・・・いや、それはそれで別の意味で怖いなと思った。

 あまりにしつこく話しかけて来るので根負けし、魔法で文字を書いた。


『何のヨウだ? また宝でもホしくなったのか?』

「違う違う。さっきも言っただろ? 礼だよ礼。これはそのお礼の品だ」


 目を開けて広げられた食べ物の数々を見る。

 食材そのものから、調理されている物があった。


「私の実家は食堂でな。これはうち自慢の食材と料理なんだ。食べてくれ」


 笑顔でぐいぐい来るセレンに負け、ミヨンは箱の左右から腕を一本ずつ出すと器用に口へと運ぶ。


『・・・確かにウマいな。これがリョウリか』


 普段ミヨンが食べる物はここに来た者の死体か、たまにそれらが持っている携帯食くらいだった。

 宝物庫に漂う魔力だけで生きていけるため、食事も基本的には必要がない。


「そうだろそうだろ! うちは街でもまぁまぁ繁盛してる店だからな。口に合って良かったよ」

『ヨウジが終わったらな、さっさカエれ』


 ミヨンは文字を書きながら、器用に料理を口へ運んでいく。

 調理されたご飯は、ミヨンにとって世界が変わるほど美味しかった。

 ただ素直に言うのは、なんだか癪に障る気がして平静を装う。


「そうもいかない。本当に礼を言いたいんだ。ありがとう・・・あんたのおかげで妹を助ける事が出来る」

『そう言えば、そんなコトを言っていたな』


 あの時のセレンと男性の会話は、全てミヨンは聞いていた。


「今年15になる妹がいてさ。クロエって言うんだ。生まれつき病弱で、早めに本格的な治療しないと死ぬかも知れないって言われてたんだ。でもここの宝のおかげで一気にその治療費が溜まったんだよ」

『そうか、ヨかったな。だからもう来るな』

「そんな邪険にするなよ。なぁ・・・なんであんたはあの時、私を助けたんだ?」

『・・・それがココのルールだからだ」

「ルール?」


 このダンジョンの責任者は変わった趣向を持っていた。

 宝物庫に仕掛けた欲望を増幅する魔法トラップは、自身に対しての欲望にしか作用せず、自分以外の誰かの為に来た場合は影響を受けない。

 このトラップのせいか、ダンジョン自体の魔物の数は少なく強くも無いため、比較的宝物庫までの道のりは簡単な部類だった。

 そして、トラップが発動しなかったその時は、宝を持って行く事と必要であれば助けても良い許可が、番人であるミヨンにはダンジョンの責任者から出されていた。


『気にしなくていい。ただ、オマエには宝を持っていくケンリがあった。それだけだ』


 流石に細かいルールを話す事は出来ず、適当にミヨンはぼやかした。


「そうか。なんにせよ、お前には恩しかない。本当にありがとう」


 セレンはミヨンに満面の笑みを浮かべる。


『・・・言いたいコトは分かったから、もうカエれ』


 残っている料理を手早く食べると、手でセレンを追い返そうとする。


「分かった、分かったって! ここ普段そんなに人来ないんだから、ゆっくりしてもいいだろうに」


 不満を言いながらセレンが立ち上がる。

 帰還率が低い事もあり、実際あまりこのダンジョンに訪れる者は少なかった。

 そして帰ろうとした時、


『待て。これはリョウリの駄賃だ』


 ミヨンは安めの宝石を一つ、セレンに投げて渡した。


「え? いいのか?」

『お礼だろうが、タダでモラう事はプライドがユルさない』

「そうか・・・ああ、そうだ私は『セレン・スタイン』って言うんだ、そっちは? ずっとお前とかあんたとか呼んでたからさ」

『ナマエなんてない。好きにヨべばいい・・・いや、もうこんな所には二度とクるな』


 ミヨンの言葉を聞きいて少しの間があったのち、セレンは悪戯っぽい笑みを作る。


「またな!」


 そう元気に手を上げてミヨンに別れの挨拶をするとダンジョンを去り、ミヨンはそんなセレンの後ろ姿を呆然と見つめている。

 こんなに長く誰かと一緒に居た事も話した事も、ミヨンが生きてきた中で初めての出来事だった。


******


 セレンが元気よく去って行った数日後。

 セレンは宝物庫に着くとミヨンを見つける為に、宝箱を無造作に開け始めた。

 それを見たミヨンは心の中で溜息を吐くと、宝箱の両端から腕を出して、地面をバンバンと叩く。

 気付いたセレンは笑顔でミヨンに近寄ると、持っていた大きな鞄から食べ物を取り出して地面に置いた。


「そっちだったか。目印くらい付けてくれよ」

『・・・オマエはバカなのか?』


 ミヨンは思わず呆れながら魔法で文字を書いて答えた。

 そもそもトラップの一つして存在しているのに、分かりやすい目印を付けるミミックがどこにいるのかと。


「あー、そう言えばあんたはトラップだったな。悪い悪い、すっかり忘れてたよ」


 笑顔でセレンが言いながら、ミヨンの身体をバシバシと叩く。


『それで、今日は何のヨウだ?』

「そうそう! 妹のクロエがさ、近々退院出来そうなんだよ! お前から貰った宝で治療費が払えたから、ついこの間手術も無事終わってさ。術後の経過観察が終わったら自宅療養と通院でなんとなりそうだって」


 嬉しそうなセレンが堰を切ったように話し出した。

 それをミヨンは並べられた食材を食べながら聞く。

 不思議となぜか前よりも美味しい気がした。


『・・・なぜオマエはそれをワタシに話す? カンケイの無いコトだ』


 ミヨンの問いに、暫く無言だったセレンは真面目な表情で口を開いた。


「関係あるからだ。お前のおかげで私も妹も・・・いや、家族みんなが救われた。だから知って欲しかったんだ。今、私たちが幸せなのはあんたのお陰だって事を」

『シゴトをしただけだ。ダレかのためじゃない』

「それでもだよ。お陰で冒険者を辞める事も出来る」

『イヤならさっさと辞めればいい。冒険者なんてキケンで良いコトなんてないぞ』

「そうしたいんだけどなぁ。もう少しお金は貯めておきたい。でもここへ来た様な危険な仕事は受けてないぞ。安全なヤツでチマチマってやつだ」

『・・・』


 ミヨンは財宝に近寄ると、一つの小さな宝石をセレンの投げ渡す。


「これは?」

『ホドコシは受けないとマエに言った』

「・・・ありがとう」


 セレンは受け取った小さい宝石を暫く見つめると、大事そうにポケットに入れる。


「ああ、そうだ。今回は日持ちする干し肉とか持って来たから部屋の隅にでも置いとくよ。口寂しい時にでも食ってくれ」


 紙袋に包まれている食材をセレンは邪魔にならないよう、宝物庫の隅に置いた。


「じゃあ、私はそろそろ帰るよ」

『もう二度とクるなよ』

「分かってるさ・・・またな」


 最後に片手を上げてミヨンに別れを告げると、セレンは笑顔で去って行く。

 そして一人になったミヨンは心の中で溜息を吐いて宝物庫を見渡した。


『・・・』


 当たり前の空間が、なぜか少し寂しく感じられた・・・。



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