10 クリエの静かな怒り
声のした方を振り向くと、短髪の茶髪に左頬にはキズのあるガタイのいい男性と、その後ろに若い男女のペアが居た。
「あれ? なんか大変な事になってるって聞いて来たのに。なんで宴会なんてやってんだ?」
見た目30代くらい見え、鎧や武器を持っている冒険者で、その姿を見た静香がクリエたちに囁いた。
「あの人が、レミラさんを魔物と勘違いして倒したと言って来た冒険者です」
それを聞いた瞬間、ミヨンたちだけではなく、男性たちを知る多くの村人が冒険者を睨んだり冷めた目で見つめたりしている。
クリエはお猪口をテーブルに置くと、リーダーらしき頬に傷のある男性の前に行き、ノルエステのギルド員だと自己紹介をした。
冒険者も自分をAランクの「ガレット・クレイドル」と豪快に笑いながら名乗る。
「しかし、ノルエステはこんな子供にまで仕事を任せるなんて、そんなに人に困ってるのか?」
どうやらガレットはクリエの事を細かく知らないらしい。
嫌味のような言葉をクリエはスルーすると、今回の顛末を話し、生活の全てを失いかけた村人たちに謝る様に言う。
「は? あれがフェニックスだって? どこにそんな証拠があるんだよ! だったらそのフェニックスを連れて来てみせろ」
なぜか認めず反論するので、クリエがレミラの方を見て頷くと、レミラは少し空に浮かび、光り輝くフェニクッスに姿を変える。
その姿でガレットをひと睨みすると、再び女性の姿に戻った。
「あれが証拠だけど、まだ足りないかな? そもそもどうして君は火山に居たの?」
「あ? そんなの決まってるだろ。前からここは魔物の目撃情報があったからな。魔物を倒せば名が上がる。それに、困っている人だって助かって一石二鳥って奴じゃないか。あんな鳥がフェニックスなんて思うかよ」
どうやらガレットは伝承を良く知らず、何も考えずただ火口にいた魔物に見えたレミラを倒そうとしただけだった。
確かにレミラがガレットと戦った時は完全に力を抑えていたので、知らない者が見ればちょっと豪華な羽を付けた大きな鳥に見えたのかも知れない。
「でも君は間違いを犯したよ?」
じっとクリエはガレットの目を責める様に見つめる。
「……お、俺は悪くないぞ。あんな所に紛らわしく居たのが悪いんだろう。それに普段俺たち冒険者は命がけで魔物を倒してるんだ。少しぐらいのミスがなんだよ!」
「ここで住んでる人も、生きてる存在全てが、いつも命がけだよ? 君だけが特別じゃない。知らなかった事は仕方ないけど、悪い事をしたら謝るのが筋じゃないかな?」
「はっ! 俺たちの揚げ足しを取るしか能のない奴らが一緒にするな。あんたらは、いつも後からの調査ばかりで、最前線の矢面に立つ俺たちの何が分かるって言うんだよ?」
「……あいつ処すか」
アニスがぼそっと呟いたが、ミヨンとウィルは首を横に振る。
さらにガレットはリゼを見つけると声を掛けて来た。
「あれ? あんた確かエレクトラ商会の会長さんだよな? どうだい、良かったら俺のスポンサーになってみないか?」
声を掛けれたリゼが立ち上がるとクリエの傍に立った。
「失礼ですが、他に誰かスポンサーになられている方は?」
「小口だが複数だ。そろそろ大口のスポンサーが欲しくてな。俺に投資すればきっと儲かるぜ」
自信満々に言うガレットをリゼは値踏みするように見ると、軽い溜息を吐いた。
「論外です。貴方に投資するメリットがありませんね。Aランクですのに、小口しかいないのがその証拠です。大口が欲しいのなら、もっと品性も磨いて下さいませんか?」
「なっ! そこまで言う事ないだろ! これだから金持ちは本当の価値を見ない奴ばかりだ」
「それに、わたくしはすでにクリエ様のスポンサーですので」
と、クリエの肩にそっとリゼが手を乗せると、ガレットはニヤっと嫌な笑みを浮かべる。
「あー、そいうい事か。あんたの趣味が合わないってわけね。さすが会長さんだけあって、特別な感性をお持ちだ。こんな子供が好みなんてなぁ」
「……」
クリエは黙ってガレットの言葉を聞いていたが、やがてゆっくりと静かに口を開いた。
「君は結局なぜここにいるのかな? 迷惑を掛けた人たちには謝らない、僕の仲間の事を悪く言う。何がしたいの?」
「ん? まぁそうだなぁ……確かあんたが一応解決したんだよな。わかったよ。じゃあ、何か一つ簡単なお願いくらい聞いてやるよ。それでいいだろ? ほら、何か言ってみろよ」
「……」
暫く無言だったクリエは、やがてニッコリと笑い、
「じゃあ、歯を食いしばって下さい」
「え?」
と、次の瞬間、クリエの拳がガレットの胴体にぽすっと軽く当たる。
同時に高密度の魔力が炸裂し、地面を擦る跡を付けつつ、遥か後方にきりもみしながら吹き飛んだ。
防壁まで吹き飛ぶと、激しく打ち付けられたガレットは気を失う。
驚きのあまり目が点になっているガレットの仲間二人にクリエが声を掛けた。
「死んではいないよ。暫く入院生活だけどね。気が付いたら彼に伝えておいて。次、僕の仲間を侮辱したり、罪の責任を取ろうとさえしなかったら……溶岩にぶち込むぞって」
『は、はい!』
クリエの得も言われぬ笑顔に、仲間の二人は背筋を伸ばして礼儀正しく頭を下げると、慌ててガレットの元へ駆け寄り、二人で担いで温泉村を出て行った。
クリエは大きな溜息を吐くと、村人やミヨンたちが居る方に振り返る。
そして少し顔を赤らめ恥ずかしそうに言った。
「ごめん……我慢できなかったよ」
クリエの言葉に暫く静寂が辺りを包み込む。
だがやがて盛大な歓声と拍手が巻き起こり、宴会は大いに盛り上がる中、夜遅くまで続いていった。




