3 高級食材ゲットだぜ
村から少し離れた森の中に魔物の集団が居た。
熊に犬、それに少し大きめの鳥の形をした魔物が10体ほど群れを成して村へ進んでいる。
「魔族は居ないな。ただの魔物なら問題なさそうだ」
ミヨンが魔物の集団を見て呟く。
世界には「魔族」と「魔物」が存在していた。
魔族は特定の種族以外の総称になっており、特殊な能力や魔法を持つ者を指す事が多く、広義的な意味合いになっている。
さらに一定の知能があり、他種族と交流関係が持てる存在を指し、魔族=悪ではない。
一方、魔物は動物に近い存在を指していた。
ほぼ本能しかなく、いくら魔力が高くて強大な存在であっても、知能が低い場合や交流関係を持てない場合は魔物として分類される。
「確かに大した事なさそうね。周辺の魔物が集まって来たのかしら? さっさと倒して、温泉に入ってリゼが持ってきたお酒が飲みたいわ」
「私はリゼが持ってきた服とか調理器具を見たいですね。特にクリエ様に似合う装飾品を……」
アニスとウィルの心はすでにリゼの持ってきた品物に囚われていた。
そんな時に魔物を観察していたリゼが口を開く。
「あの魔物たち、出来ればあまり傷付けず倒して下さいません?」
「どうして?」
リゼの隣に居たクリエが聞いた。
「あれ、全部高級食材ですのよ?」
「美味しいの?」
「美味しいだけでは無く、皮もなども良い値段になります。あの熊、良く見れば鼻が豚になっているでしょう?」
「確かになってるね。細かい事に気が付くなんて、流石リゼだね」
クリエに褒めれたリゼは頬を赤く染めると、大げさにその場で恥ずかしそうに悶える。
リゼに言われミヨンが細かく観察すると、見た目は熊なのに耳と鼻の部分は豚ような形状になっており、犬もよく体形を見れば、猪の様にも見えた。
「確かになんか鼻は豚っぽいな?」
「あれは熊豚という、熊と豚の混合種なのです。部位によって熊の硬さと豚のジューシーな柔らかさがあり、硬い所は噛めば噛むほど味が染み出て来る。貴族の間で好まれていますのよ」
「それはそれは……ぜひ食べてみたい」
「他の魔物も混合種ですので、味は保障しますわ」
魔物は時に食用や特定の部位などが高価で取引される事があった。
基本は野生だが、たまに実験動物が逃げ出して繁殖したケースもあり、生態系に問題を起こす時もあるが、今回のように自然の恵みに変化している時もある。
「これは料理のしがいがありますね。このウィルが後で美味しく調理して差し上げましょう。と言うわけでアニス、血抜きは任せますよ」
「美味しい食べ物の為なら任せなさい。皆は魔物の足止めとかよろしくね」
「では、そろそろ高級食材の確保と行くか」
ミヨンの合図でクリエを除いた四人が戦闘態勢に入った。
ミヨンは右手を剣、左手を鞭のような太いひも状に変える。
魔族のミミックである彼女は、クリエから得た力により捕食したモノへ擬態 (変化)でき、特殊な物を除き、記憶や声、魔力の性質なども手に入れる事が出来る。
ウィルは魂や呪い、闇に属する魔法が得意であり、黒い呪われた細長い腕を自身から数本出すと、周囲を取り囲むように配置した。
そして、アニスの身体から自然と血が湧き出ると、血は右手に集まり、透き通る赤い結晶の槍へと姿を変える。
血そのものがアニスの魔力であり、魔力が血でもあった。
他者の血を吸い取り自らの魔力に変え、不定形であるが故に様々な形に変化させる事が出来る。
「まずはお前からだ!」
木の陰からミヨンの太い鞭が犬型の身体を締め上げると、素早く近づいて足を斬る。
悲鳴を上げてその場から犬型の魔物は動けなくなった。
異常を察知した熊型の魔物がミヨンに襲い掛かるが、予め潜ませていたウィルの魔法の腕が熊を何重にも巻いて動けなくすると、腰に携えていた剣で心臓を一突きする。
それらをアニスが槍で突き、干からびない程度に血を吸って行った。
透き通っていた結晶の槍はたちまちその赤さを増していく。
そして複数の鳥型の魔物が上空へ羽ばたいて逃げ始めるが、
「あれはわたくしが対処致しましょう」
リゼがそう言うと、身に着けている指輪の宝石が一瞬光る。
すると、複数の鳥型魔物に目掛けて、石つぶて、火球、風の刃が器用に鳥の翼を攻撃して撃ち落としていく。
さらに水の泡が鳥の顔を包むと、息が出来ずそのままやがて墜落した。
リゼは魔力が高いエルフらしく、魔法を扱う事に長けている。
身に着けている装飾品のほとんどが、魔力をさらに効率よく使うためのマジックアイテムだった。
豪商であるリゼはその立場から、誘拐や他の商人からの嫉妬で命を狙わる事もあり、少なくとも自分の身は十分に守る実力を持っている。
護衛はどちらかと言えば、商品を守る為に存在していた。
護衛も冒険者ではなく、エルフの国の専属護衛であり、非常時を除いて信用できる者しか雇わない。
「皆手際がいいね。僕は何もしなくて楽だったよ」
残っている魔物も次々と仕留められて行き、その光景を見ていたクリエが満足そうに言う。
しかしここで一つの問題が出る。この10体ほどある食材の運搬方法だった。
「これ、どうやって持って帰るの?」
アニスが転がっている魔物たちを見る。
リゼが顎に手を当てながら考えを言った。
「村に戻って、また取りに帰って来るのはちょっと面倒ですわね。かといってこの量を一度に運べるのかと言われると……」
「ならここはミヨンにお願いしましょう」
リゼの疑問にウィルが答えると、腐敗が進まないように魔物たちを冷凍魔法で凍結させた。
そしてミヨンの方を見る。
「これ、一時保管してもらっていいですか?」
「仕方ないな。豪華な飯のためだ」
ミヨンはやれやれといった感じで言うと、片腕を大きな口に変化させ、次々と口の中へ放り込んでいく。
元が宝箱のミミックである事から、捕食以外に保管する事も出来た。
「つ、冷たい、さっさと帰るぞ。身体が冷えて敵わん。あとで温泉で温まるか……」
「相変わらず、クリエ様の使徒たちはいろいろと便利ですわね。わたくしも使徒になりたいなぁ」
あっさりと問題が解決し、リゼがチラチラとクリエを見る。
リゼにとっては力が欲しいと言うよりも、もっとクリエに近づきたいというのが本音だった。
「うん、僕自慢の使徒だからね。でもリゼはまだ駄目かな」
笑顔でクリエが答える。
可能性がある事を否定はしない。逆に言えば、確定的に言う時は決定事項でもあった。
そして村へ戻ろうとした時、大気を振動させるほどの大きな咆哮が遠くから聞こえて来た。
『!!』
森に居た鳥たちが一斉に逃げる様に飛び立ち、鹿などの普通の野生動物もどこかへと走り去る。
クリエたちが声の方を見るが、何かが来ている様子は無く、ただ声だけが遠くから聞こえていた。
「今の……何?」
アニスが珍しく真剣な表情で言う。
他の者も普通の魔物とは違う、魔力の含まれた咆哮を危険視していた。
ただクリエだけは何かを考える様に首を捻り、ウィルが声を掛けた。
「どうかされたのですか?」
「ん~……今の声、昔どこかで聞いた事があるような、ないような?」
ハッキリしない答えがクリエから聞かされる。
ただそれ以降その咆哮は聞こえず、気にしても分からないので村へ戻る事になった。




