8 使徒「ミヨン・フェイカー」
金髪の男は、這う様にミヨンから逃げるが、その先にはアニスが居た。
二人は男を挟み、ミヨンが口を開く。
「お前はどこまで知っている?」
「さ、酒場に何があって、何をして……誰が関わっているのか全て! 何でも全部話すから、い、命だけは助けてくれ!!」
武器を捨て、泣き叫ぶ情けない男の姿があった。
「当たりみたいね」
「そうだな、こいつの情報があればほとんど終わりそうだ」
「な、なんでも聞いてくれ、全て正直に話すから……」
「それをどうやって証明する? 命欲しさに嘘をつくかもしれないだろう?」
「嘘なんてつくか! た、助かるなら何でもする」
「そうか、何でもするか……」
男の言葉にミヨンが薄い笑いを作った。
「心配するな、全て知っているなら何もしなくていい」
「へ?」
「ただ……私に食われろ!」
次の瞬間、ミヨンの上半身が縦に裂ける。
そこから巨大な四本の腕と、馬くらいは丸のみ出来るほどの大きく醜悪な口が現れた。
「ひ……あぁあぁああ!」
男の狂気にも似た悲鳴がスラム街に響く。
四本の腕が男を掴み持ち上げると、幾重にも不格好な牙が待ち構える口の中へと放り込まれ、咀嚼された。
ボキボキ、グチュグチュと、嫌な咀嚼音のみが辺りに響く。
やがて音が無くなると、ミヨンはさっきまでの女性の姿に戻った。
「なるほど、そう言う事か。あのクソ野郎が!」
ミヨン・フェイカー……それは本名だが、偽名でもあった。
彼女の種族はミミック。宝箱に擬態して冒険者などを襲う。
ミミックは食べた対象が多ければ多いほど強くなる性質を持つが、強くなるだけで、擬態は本来の姿である宝箱にしかなれない。
しかしある出来事でクリエから神の力を授かり、使徒となった時に力と名前も貰った。
力として捕食した存在の容姿だけではなく、記憶や声、癖、魔力の性質なども完全に得る事が出来るようになった。
もはや擬態と言うよりは、存在の略取になる。たださすがに特殊すぎる能力などは真似できなかった。
また容姿だけでいいなら、見ただけでも擬態できる。記憶や声などは無理なのでバレやすいが。
基本的に記憶や姿は古い物から順に消えて行くが、特に覚えておきたい事は消えない。
物や道具も複雑な物でないのなら、一部分で形を変える事もなども出来た。
魔族であるため実年齢は100歳を優に超えており、今の姿は基本的に見せている擬態で、本来は宝箱だった。
アニスやウィル並みに、クリエに重い愛を持っているが、そういった事に対しては奥手であり、恥ずかしがり屋でもある。
「あ、なんか怒ってるとこ悪いけど、あれもついでに食っといて」
アニスがミイラになった男の死体を指差す。
ミヨンは仕方ないといった感じで軽く溜息を吐いた。
片腕が上下に裂けると、巨大な口になる。
口から出た舌は、男の死体や転がっている武器を器用に口へ運んでいった。
地面に付着している血も、舌で舐めた部分が綺麗に消えてく。
一分も経たず、スラム街には男たちが居た痕跡が何一つ残らず掃除された。
「あとはあっちだな。まぁ、ゆっくり向かうとするか」
「そうねぇ。早く行ってやる事増えても面倒だしね」
と、二人は静かになった酒場を後にして、少し離れた場所へ歩き出した。
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スラムの酒場から少し離れた場所にある広場では、一人の男がアニスとミヨンの様子を眺めている。
遠くが見える遠望の魔法を目に掛けており、何が起きたのかはハッキリと捉えていた。
「これは予想外……まさかあそこまで強いとは。下手を打つと我々も殺されかねない。噂とは本当に役に立ちませんなぁ」
「当たり前です。クリエ様は可愛く、可憐で、強く、美しく、もっとも愛される存在。その使徒である私たちが弱くあってはならないのです」
男の背後から声が聞こえると共に、一本の剣が首筋に当てられる。
「ドレイクさん、盗み見は終わりましたか?」
ウィルがドレイクの首筋に背後から剣を添えていた。
ドレイクは両手を上げると降参する。
「待った! 戦う意志はありませんって! ちょっと興味があって見てただけなんです……だから、その許してくれませんかね?」
と、両手を上げたままドレイクがウィル方に振り返る。
その瞬間、ヒュっと風を切る音が聞こえ、ウィルの首が宙を舞った。
ドレイクは振り返った瞬間に剣の抜いて、ウィルの首を跳ねる。
それは一瞬の出来事であり、素人の技ではなかった。
「申し訳ないですな。一応、目撃者は少ない方が安心出来るので。しかし、これからどうするか……」
地面に転がったウィルの首を、ドレイクは冷めた目で見つめている。
「何、全てをクリエ様にお話されればいい。あの方は優しい方ですので、分かってくれますよ」
「!!」
地面に転がったウィルの首が、笑顔でドレイクに話しかけていた。




