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「さて、それじゃあ一応、世界一不幸なお姫様にどうしてこんな事になったのか、経緯を聞いておきましょうか。どうぞ?」


 初夜だと言うのに甘い言葉一つ無く、笑顔でそんな事を尋ねてくるユリシスにリディアは思わず半眼になる。


「本気?」

「本気ですとも」


 その目を見てリディアは大きなため息を落とした。


「信じてくれなくても構わないけど、いいわ。全て話すわ」


 むしろ聞いて欲しい。ここに至るまでに何があったのかを。あれは今思い出しても腸が煮えくり返りそうな出来事だった。


 そんなリディアの思いを察したのか、ユリシスがおかしそうに笑って言った。


「ええ、是非」

 


 事の起こりは半年前。


 リディアが隣国ヴァルグレンの王子、カイロス・ヴァルグレンの誕生会に出席した日に起こった。


 カイロスは婚約者だ。誕生日には毎年本人からメッセージカードやらドレスやらが届いて招待状という名の手紙が届いていたのだが、今年は何も無かった。


 少しだけ不審に思いつつも、ヴァルグレンの王から直接招待状が届いたのでリディアは意気揚々と馬車に乗り込んだのだが——リディアを待っていたのは、地獄の入口だったのだ。


 まる二日かけて辿り着いたヴァルグレン城は、何だか物々しい雰囲気に包まれていた。


「何かあったのかしら」


 思わずリディアが馬車から顔を覗かせ、向かいに座っていた護衛のホルスに尋ねると、ホルスもまた首を傾げている。


 やがて馬車が城の門をくぐり停車すると、ホルスはリディアに言った。


「姫、俺が先に様子を聞いてきます。まだ動かないでください」

「ええ、分かったわ。気を付けて」


 そう言って馬車を下りていったホルスは、その後戻って来る事は無かった。何故なら、彼が馬車を下りた後すぐにリディアはヴァルグレンの騎士たちに捕らえられたからだ。


「放して! 放してちょうだい! 一体私が何をしたというの!」


 どれだけ叫んでも騎士たちは表情も変えずにリディアの腕を掴んで引きずるように歩き始め、そのまま舞踏会の会場まで連れ出された。


 ドサリと会場の中央に投げ出され、リディアは無様にもその場に倒れ込んでしまう。


「ようこそ、リディア」


 その声にハッとして顔を上げると、そこには憎しみに溢れた表情でこちらを見下ろすカイロスが居る。そしてその隣には、リディアの知らない女がカイロスの腕を掴んでまるで小動物のように震えていた。


 一体誰だろう? そんな事よりもこんな大勢の前であんな風に男性にしなだれ罹るのは良くないのではないか。


 そう思ってリディアは毅然とした態度で立ち上がると、その娘に視線を向けて言う。


「あなた、その腕を放しなさい。はしたないわよ」


 至極真っ当な事を言ったつもりだった。


 ところが、リディアの言葉を聞いてカルロスの顔がさらに怒りからか赤くなる。


「黙れ、この罪人が」


 その一言にリディアは固まった。罪人? リディアが? 一体どういう事だ。


「何のお話? よく分からないのだけれど」

「この期に及んでもまだ白を切るのか。流石、悪役令嬢だな」

「……は?」


 思わず低い声が出たが、聞き捨てならない。誰が悪役令嬢だ。いくら婚約者でも言って良い事と悪い事がある。


 リディアがカイロスを見上げると、カイロスは絶望したような顔をして口を開いた。


「お前が俺に近づいたのは、我が国の内情を知る為だったという事はもう調べがついている。その為にこのセシリアを利用したという事もな!」

「え、誰?」


 状況が飲み込めなくて頭の中に疑問符が沢山浮かんでいるリディアを他所に、カイロスは次から次へと皆の前でリディアがしたと言う悪事を挙げ連ねていく。


 けれどそのどれも身に覚えのない物ばかりだ。そもそも他国の内情をリディアが知るはずがないというのに、そこに違和感を覚えなかったのだろうか?


 すると今度は後ろからもう一人誰かが引きずられてきた。その女性を見てリディアはハッとする。


「あなた! あの時の——」

「この方です! 王子! この方が私を馬車の中に軟禁して問い詰めてきたのです!」

「ええ!?」


 その女性には確かに見覚えがあった。


 あれは数ヶ月前の事。今日のようにカイロスに招かれてここへやってきた時、彼女の馬車が立ち往生して困っていたので馬車が直るまでの間、話し相手になったのだ。


 彼女は酷くお喋りで、それこそ国の問題事や今起こっている内情を聞いてもいないのにペラペラと話しまくり、颯爽と修理を終えた馬車に乗り込んで去っていった。


「ちょ、ちょっと待ってちょうだい! あれはあなたが勝手に——」


 勝手に話し倒した挙げ句に礼の一つも告げずに去っていった彼女とまさかこんな形で再会する事になるとは思ってもいなかったが、愕然とするリディアを他所にカイロスの冷たい声がホールに響き渡る。


「黙れと言ったはずだ、リディア。幸いな事に我が国の核心に触れる事は守られたようだが、まさかお前がスパイのような事をするとはな。心底がっかりだ。自国の者なら今すぐここで切り捨てただろうが、あいにくお前は他国の姫なのでそれは出来ない。だが、今日ここで長年続いたアルヴェルとの友好条約は終了し、お前との婚約も破棄する。二度とこの地に足を踏み入れるな。連れて行け」


 カイロスの言葉を聞いて騎士たちがリディアの腕を掴んだ。


「ちょっと待ってちょうだい! 何かの誤解よ! 私は何も——」


 どれだけ叫んでもカイロスはリディアに背を向け、見たこともないセシリアという女性と共にホールの中央へと楽しげに戻って行く。


 そんな二人をリディアは恨みがましく見つめながら、城を追い出されたのだった。


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