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 その正面にユリシスが腰掛けると、リディアが途端に怪訝そうな顔をした。


「どうして座るの?」

「どうしてとは?」

「もう待たないって言ったじゃない。呼び出しておいて何だけど、もう戻っても大丈夫よ」


 あっさりとそんな事を言うリディアにユリシスは口の端を上げて微笑んだ。


「確かに君にはその手は使えないでしょうけど、今のあなたでも王を喜ばせる事は出来ますよ?」

「……どういう意味?」

「閨の本に書いてありませんでしたか? そういう行為は何も子作りの為だけにする訳ではない、と」


 意地悪に言うとリディアは分かりやすく顔を真っ赤にして、次の瞬間にはすぐに青ざめ椅子ごと後ずさる。


 ユリシスはそんなリディアに椅子ごと近寄ると、真正面から顔を覗き込んでニコリと微笑んだ。


「いきなり最後までは無理でしょうから、少しずつ慣らしていきましょうか。でなければいつまで経っても君はここから出られませんもんね?」

「ひっ!」


 リディアの本意がどうあれ、スパイ活動のような事をしようとしていたのは気に食わない。


 ユリシスは立ち上がってリディアの手を引くと、そのまま細い腰を抱き寄せ耳元で囁く。


「早く世継ぎが生まれると良いですね、リディア」

「い、いい! 自然に身を任せるわ! 無理しないで!」

「無理などしていませんよ。大抵の男は相手が誰であれ喜ぶものです」

「さ、最低じゃない?」

「そうですよ。王族など最低な者ばかりです。スパイはそんな最低な男どもを相手にしないといけないんですよ? 君に出来ますか?」

「……無理よ」


 そっと視線を伏せたリディアにさらに追い打ちをかけるように言う。


「そうですね。君には向いてません。でも私達はもう夫婦だと言う事をうっかり忘れていたようです。それによく考えれば大陸一の美姫にお相手をしていただけるなど、こんな光栄な事はありませんし」

「み、見えないって言ってたじゃない!」


 焦るリディアをこうして抱きしめていると、不思議とおかしな気持ちになりそうになる。


 なるほど、これが支配欲かと納得しながらユリシスはリディアを抱き上げベッドまで運び、サイドテーブルのランプをつけて青ざめるリディアを見下ろした。


「電気をつければ話は別です。さぁ、それでは練習を始めましょうか、リディア」

「い、嫌よっ! 自然に! 自然に任せましょうよ!」

 


 さんざんベッドの上でリディアを虐めて満足したユリシスは、隣で疲れ果ててぐったりと惰眠を貪るリディアの顔を見つめながらふとついさっきまでのリディアの反応を思い返していた。


「大陸一の美姫、ですか。これはカイロスではひとたまりも無かったのでは?」


 そう呼ばれているだけあって、どれだけ乱れてもリディアは美しかった。思わずこのユリシスでさえ本当に最後まで手を出しそうになったほどだ。


 すんでの所でどうにか堪えてお仕置き程度に留めたが、それでもリディアには十分過ぎるほどの刺激だったらしい。


 途中で突き飛ばされる事も覚悟していたけれど、リディアはユリシスを拒絶したりはしなかった。


 そんなリディアをユリシスは少しだけ可愛いと思ってしまった訳だが、すぐさまそんな考えを払拭し悪人に徹したのは言うまでもない。


 リディアの本当のここでの役目は、あくまでも囮だ。ヴァルグレンを煽るための道具に過ぎない。それ以上の感情もそれ以下の感情も持ってはならない。


 いずれ家臣にリディアを下賜するのであれば、なおのこと綺麗なままで送り出してやりたい。それがせめてものリディアに出来るユリシスの罪滅ぼしだ。

 

            ※

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