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 何かまたおかしな勘違いをしているのだろうなと思いつつ、ユリシスはリディアに背中を撫でられていた訳だが、本当の所を言うと今の時点ではリディアとの結婚が一番理に適っていた。


 万が一サラとあのまま結婚などしていたら、ヴァルグレンに一瞬で攻め込まれていただろう。


 リディアとの結婚の影響は国内外問わず至る所に出ていると考えて良さそうだ。


「ところでこのお菓子はどこのです?」


 砕けた焼き菓子を食べながら問いかけると、アーサーが菓子を包んでいた包装紙を取り出した。


「新しく出来たらしい。城のメイドたちの間で流行ってるらしいぞ」

「マイロも知ってたわ。ここのシュークリームとプリンが絶妙なんですって。ぜひ食べてみたいわ」

「そうなんですか? それは無いのですか?」


 何気なくアーサーに目をやるとアーサーは困ったように頭をかいている。


「いや、買おうとは思ったんだけど男一人であの列に長時間並ぶのがちょっとな……焼き菓子は並ばずに買えたんだよ」

「なるほど。では今度は私が挑戦してきましょう。それまで我慢していてくださいね、リディア」

「え!? え、ええ。あまり期待しないで待ってるわ」


 ユリシスの提案にリディアは分かりやすく引きつった。どうやらユリシスがやる事成すこと全て罠か何かだと思っているようだ。

 


 その日の午後の事だ。屋敷の中は一時騒然としていたが、今はもう静まり返っている。


 リディアも完全に落ち着いたようなので部屋へ戻ったユリシスの元に、珍しくマイロが尋ねてきた。


「王、いえ、ユリシス様」

「マイロにそう呼ばれるのは随分と久しぶりですね。どうかしましたか?」

「ええ……」


 マイロは悲しげに視線を伏せると、意を決したように顔を上げる。


「リディア様への扱いについて、少し申し上げたい事があります」

「リディアへの? 何か彼女から聞きましたか?」

「いいえ。リディア様は何も仰いません。ですが、私がもう我慢出来ないのです」

「珍しいですね、あなたがそんな事を言い出すのは」


 マイロはユリシスの乳母だ。そういう意味では唯一生き残った身内のようなものである。マイロは昔から控えめでユリシスに何か口出しする事は無かった。


 そんなマイロがこんな風にユリシスに意見してくるのは珍しい。


「子どもを作らなければこの屋敷から出る事は許されないなどという嘘を、リディア様は本気で信じていらっしゃいます。ですが、ユリシス様にその気などありませんよね?」

「そうですね。相手がリディアだからという訳ではなく、今の状態で世継ぎなど作るべきではないと思っています」

「ではそれを伝えて差し上げてください。リディア様は毎晩あなたが来るのを待ち、その度に意気消沈されております」


 それを聞いてユリシスは首を傾げた。


「待っているのですか? 私を?」

「ええ。責任感が強い方なのか、それともここから一刻も早く出たいのかは分かりませんが、毎晩待っておられますよ」

「そうですか。それはちょっと……予想外でしたね」


 なるほど。リディアはどうやら本気で子作りをしなければこの屋敷から出る事は許されないと思っているようで、その為には嫌いな男に抱かれる事も厭わないようだ。


 しかしまさか毎晩待っているとは思ってもいなかった。


「分かりました。今晩はそちらで休みますとお伝えしておいてください」


 別に手を出すつもりも無いが、初夜の時のように煙に巻いて適当に寝かしつけてしまおう。


 そう、思っていたのだが。

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