山羊味噌星人
カラスの鳴き声がオレンジの空に響く。夕焼けがいい感じに綺麗なんだけどな、退勤できてたら!今日も残業である。この馬鹿の指導をしなきゃいけないせいで!
「先生!私、みんなの支配者になりたいですピー」
一言目にこれである。今日も一人殺したくせに、反省の素振りもない。コイツはもう、目が死んでいる。
「何馬鹿なこと言ってんだ。君は何人の生徒を殺したと思ってるんだ!この山羊野郎!!」
馬鹿山羊はほっぺを膨らませる。
「山羊野郎とはなんですピー。生徒を侮辱するにも程がありますよピー。私は真の支配者、山羊味噌星人だピー!」
本当に気持ちの悪い奴だ。クソ宇宙人め。とっとと消えて欲しい。何か良い方法は......
「あっ、ツナ缶!」
「え!?どこピー!」
ブーン!奴は飛んで行った。
「全く、困ったもんだぜ」
山羊味噌星人の特徴は、とにかく馬鹿なことと、生徒を平気で殺すことだ。俺は教師として手を焼いている。あ、実際に焼いているわけじゃねえぜ。比喩だからな。アツッ!
「あ、先生。まだ生きてたピー?死んだと思って火葬してたのにピー」
「ふざけんな!熱いわ!殺人未遂だわ!」
「でも、私みんなの支配者だピー。許してちょんまげピー」
「くっ!」
このゴミ山羊が!!殺人鬼、山羊味噌星人。しかし、奴らにもたったひとついいところがある。それは、食べると美味すぎることだ。しかし、俺はコイツを食べるわけにはいかない。そんなことしたら懲戒免職になってしまうからだ。そのとき!
「キーンコーンカーンコーン」
「あれ?こんな時間にチャイム?ってお前かよ!語尾にピーが付いてないと誰のセリフ分からんだろが!」
「私は改心しました」
「えっ?」
突然、山羊味噌星人は丁寧に話し始める。どっかで頭でも打ったのか?
「改心したので、言葉遣いも改めることにしたのです」
「そ、そうか。でもなぜ急に?」
「私は気づいたのです。支配者の力をみんなの為に使うべきだと」
改心するならこれ以上楽なことはない。ゴミクズも俺に楯突かなきゃそれに越したことはない。結果オーライだ。
「だからピーも適切な文脈において使うことにしたのです。例えば、うんピー」
「舐めてんのかあああああああ!」
バコン!!
「うわああああああああ!」
山羊クソ野郎は窓ガラスを突き破り、空の彼方へ飛んで行った。ハッ、しまった!つい勢い余ってツッコミを入れてしまった。生徒に!暴力を!?俺としたことが......よくやったぞ!ワハハハ!これで明日からあのバカの顔を見ずに済むぜ!俺は希望の夕日に、涙が溢れそうになt......
「ただいま帰りました」
「ズコーッ!」
「おや、口でズコーッて言う人、初めて見ましたよ。先生、中々ユーモラスでいらしたんですね」
「き、君なあ。先生に向かってなんて態度を......」
「あれ?でも先生、私を突き飛ばしましたよね。先生こそ、生徒に向かってそのような態度をとってよろしかったのですか?」
「くっ!」
言い返せない。確かに、バレたら完全に失職だ。いや、待てよ。食っちまえばいいんだ。口で負けても口で勝てばいいんだ。そう思うと、俺の体に力が湧いてきた。なんか、なんでもできそう!
「そうですか。何も言い返せませんか。まあ当然ですね。あなたは生徒に暴力を振るった。あなたの教師人生もこれでおしまいでs」
「いっただっきまーす!」
「え!?」
ブスッ!俺は山羊味噌星人を串刺しにした。串を伝って山羊味噌汁が垂れてくる。ウヒョー超美味そう。
「痛え!な、何をするんですかっ!?まさか、私を!?」
「そのまさかかもなあっ!バーベキュークラッシュ!」
「うわああああああああ!」
ジュワッ!山羊味噌星人は一瞬でこんがり焼き上がった。もう、ヨダレが止まらない。かぶりつきたい。しかし!
ーシュイン!
「なにっ!?」
ボスッ!気がつくと、みぞおちに拳が突き刺さっていた。意識がグラつく。床に血が滴る。いってえなあ、チキショウ!
「瞬間移動ですよ。まあ、山羊味噌星人ですから、このくらいのことはできます。形勢逆転ですね」
しかし、絶好のチャンスだった。
「ムシャムシャ......」
「何食ってんですか!ああっ!俺のピーがないっ!?」
「クッソうんめえええええええ!」
俺はあまりの美味さに意識が飛びそうになる。恍惚......この美味、パンチよりパンチ力高い。
「クソッ!例えピーがなくても、あなたを倒すことくらい簡t......」
グチャッグチャッ、ムシャムシャ、バリバリバリッ。
「ホワアアアアアアアアアアッ!クソうめえええええ!やべえええええエエエエ!」
「!?」
気づけば奴の体の半分を平らげていた。それにしても堪らん!この美味さ!食べ物の美味しさの次元を超えていやがる。まさに桃源郷!体がユートピアそのものに至った気分!最高ッ!
「や、やめろピー!死んじまうだろピー!」
「おやモグモグ、言葉遣いはモグモグ改めたんじゃモグモグなかったのかモグモグ?」
「口の中のもん飲み込んでから喋れピー!てか食うなピー!」
「うるせぇ!必殺バタバタバターシャインラブアゲイン!」
「グワああああ!ってただのバターじゃねえかピー!びっくりさせやがっt」
「お前はもう、食われている」
「何っ!?ピイイイイイイイイイイイイイいいいいいいい!」
俺は頭部をひと口で食べた。その瞬間、世界が快感で満たされた。
「はあああっうめえええええええ!?クソうめえええええええ!?死ぬうううううううウウウウウウウ!」
山羊味噌星人の脳味噌は絶品と聞いていたが、なんだこの脳髄を貫くような果てしない美味さは!これは絶対この世の食べ物じゃない!意識を保つので精一杯だ!この危険さ、これは神食べ物かも知れない。つまりそれを食す俺は、神!俺は神だ!神だああああああ!そして、俺は余りの美味さに呆然とし、そのまま意識を失った。
目を覚ますと、俺は拘束されていた。
「な、なんだここは!?」
俺の叫び声が響く。見渡すと、見覚えのあるベルトコンベアが並んでいる。
「なんだここはピー?何馬鹿なこと言ってんだピー」
「ッ!?」
そいつの顔を見た瞬間、俺は全てを思い出した。そうだった。俺は山羊味噌星人に拘束された。そして、ここで、ここで......
「お前はここで缶詰になるんだピー。なんだピー?ちょっとヘロインの濃度が薄かったかピー。おい、薬が足りないピー!追加しろピー!」
注射器をもった数人の山羊味噌星人が俺を取り囲む。
「やめろ!待ってくれ!やめr......うわあああああああアアアアアアアアア!」
そして俺は、深い眠りに落ちる。そう、落ちる、堕ちる、陥ちる、オチル、お、ち......