6 月下に無限を求めて(2)
――登る。
有坂と亮月の姿は見ない。見ると心が弱くなりそうな気がした。
二人もそれを察知しているのか、黙って長谷川の様子を見守っているようだった。
――亮月も――あいつ、やろうと思えば静かにできるんだな。
長谷川は心の中で小さく笑う。
――ひょっとすると、もう二度とあの天真爛漫な笑顔を見ることはできないかもしれない。
一瞬だけそんな考えが頭をかすめたが、長谷川は首を横に振ってそれを否定する。そしてもう一度、手を窪みにつける。
――ここから先は、誰も助けてくれない。
このことを心の中で確認する。
――全ての自分の行動の結果は、全て自分に降りかかるんだ。自分――だけに。
ならば――登れる。
一歩目はすでに決まっていた。その一歩目――右足――をゆっくりと上げて最初の窪みに乗せる。
体を安定させておいてから、左足を二つ目の窪みに乗せる。――二歩目。
――なんだ簡単じゃないか。
油断は禁物と思いながらも、体の緊張が少しほぐれる。
――三歩目――四歩目――五歩目。着実に、テンポよく登り進んで行く。
長い年月を経てきた道にしては、意外なほど足場がしっかりしている。
洞窟の中だから、多少は風化が避けられたのかもしれない。
――二十歩目。地上から七メートルぐらい離れたところで、長谷川の足が止まる。
――思ってたよりも窪みが浅い。二十一歩目に足をかけようとしていた窪みは、十五センチほどの奥行きしかなかった。
長谷川の足のサイズは二十五センチ。ここに足をかけると、その三分の一弱は中空に浮いた状態になるということだ。
そして悪いことに、それよりも上の窪みもこの窪みと同じ程度――下手をすると更にへこみは小さいようだった。
下よりも地上に近い分、風化のスピードが早いのかもしれなかった。
長谷川は思考する。
――このまま行っても落ちるだけだ。
そんな考えが頭をよぎり始める。
首筋に冷たい汗がにじみ出す。
――百パーセント落ちるわけじゃない。
落ちない可能性も十分にあると思う。
だが、この高さでリスクを負うのは躊躇わざるを得なかった。
ビルで言うと、大体三階ぐらいの高さだろう。だから落ちても、打ち所が悪くさえなければ、骨折ぐらいで済むかもしれない。
しかし、その落ちた先に敷かれているのは固い岩盤である。
――その事実が長谷川に理屈以上の恐怖心を芽生えさせていた。