5 岐路、灯は暗澹を産み、迷妄に落ちた英雄は骸を抱く(2)
やっと見つけた隧道は、人が立って歩けるほどの高さがあった。先行して降り立った長谷川は、女子二人が安全に降りてこられるよう足元を確認し、その後に彼女達を更なる地底へと誘導した。
そうして、無事地下通路へと足を踏み入れた三人は、息をつく間もなく前進を始める。最後のローソクは、既に四分の三ほどの長さになっていた。
そして、通路は思いのほか長い。
一分、二分、三分――五分――。
十分経っても、まだ先は見えない。
気持ちは急く一方だ。
ローソクは既に半分以上を溶かしている。
早足になる。
いっその事駈け出したい、とも思う。
だが――走れない。
道は凹凸が酷く、少しでも気をとられれば転んでしまう。
しかも走れば風圧でローソクは消える。
そして後ろからついてくる二人――。
だから走れない。
せめて――
せめて少しでも長く保ってくれ、と長谷川は祈った。
そんな想いでひたすら歩く。すると突然、炎の照らす範囲が不自然に歪み始めた。
これまでただ先の見えない闇を延々と円形に照らすだけであった光が、遂に闇以外の別のものを映し出したのだ。
長谷川は期待を膨らませる。
出口――なのか。
思わず後ろを振り向く。
後ろの二人も気づいたようだった。
表情に笑みはないが、この瞬間、確かに何がしかの感情を三人は共有していた。
そのことを確認して、長谷川が前に向き返ろうとした刹那、二人の表情が突然に変わった。
いきなり影が差したような表情に、なんだろうと長谷川は思う――その間もなく――
――彼は理解する。
――壁?
つまり――そこにあるのは全ての感情を跳ね返す――土の壁だった。
長谷川は、壁が自分の顔を蒼白色に染めていくのを感じる。
その反対に亮月は顔色を一瞬のうちに紅潮させ、目元を潤ませた。
ジジジ
ローソクが火の勢いを強める。
もう――何も考えられなかった。
目の前が暗くなりかけた。
すっと誰かの手が横切る。
その手は無駄のない動きでしなやかに伸び、天井につく。
「ここ」
無感情な声。
「色が違うね」
彼女はそういうなり、伸びた腕に力を込める。
ガタリ
石が動くような音がして、パラパラと砂が上から降り注ぐ。
そのまま二三回上げたり下げたりしてみせた後、彼女は満足したように長谷川の方を向く。
「開くよ、ここ」
そう言って、彼女は天井の一角を指し示した。