5 岐路、灯は暗澹を産み、迷妄に落ちた英雄は骸を抱く(1)
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建物の壁から、数十センチほど離れたところである。その床は、確かにうっすらと緑の色を発光させていた。
有坂は火を近づける。
よく見ると、光っているだけではなく土の色も周りと比べて微妙に薄い。
有坂は長谷川にローソクを持たせ、自分はしゃがみこんで地面に手をやり、撫でるように土を払う。そうして彼女は地面の一箇所を指し示した。
「ここ、開くね」
地面はその指し示した箇所から縦に裂け目が入っていた。有坂は更に、裂け目に沿って土を払っていく。
やがて、裂け目は五十センチほどの歪んだ正方形となった。
確かに下に何か空間がありそうだった。
――ひょっとすると――これが出口なのだろうか。
長谷川の胸が高鳴る。
彼女は、裂け目を見るなり満足したように軽く頷いて、長谷川に命じる。
「開いて」
そういって、有坂は再び長谷川からローソクを受け取り、地面を照らした。
この中で一番力がありそうなのは、確かに自分だが――と思いながらも、その合理的過ぎる思考回路に閉口する。嫌とも言えずに長谷川は地面にしゃがみこみ、裂け目に手を差し込んだ。
幸いそんなに重くはなさそうだった。
少し力を入れると、切り取られた地面はゆっくりと持ち上がる。長谷川は「蓋」のようになっていた薄い直方体の物体をそのまま反対側に倒す。「蓋」の裏側の色を見るに、どうやら木製らしい。
ドサリと音がして、蓋は倒れた。
そうして現れたのは――三人が期待していたもの。
そして、三人がこれまで疲労困憊になってまで必死になって探してきたもの。
即ち――通路だった。
それなのに――その通路が現れた瞬間、三人は喜ぶどころか、むしろ脱力したように息をついた。
そして、三人は黙ってその穴の開いた空間をジッと見つめた。彼らを歓迎するかのように、穴の中で群生しているコケが緑色に輝く。
数十秒ほどの間、彼らは様々な感情をぶつけるように一つの穴を凝視していた。
その後に、不自然な沈黙にようやく気づいたかのように、彼らはお互いの顔を見合わせ、やっと見つけたねとでも言うように静かな笑みを見せた。