3 夕麗 Lost In Logic (21)
「ダメだ! 動かない!」
亮月が悲痛な声をあげる。
「何押しても、モーターの駆動音が全くしないし、壊れてるのかもしれない……」
長谷川がそういうと、亮月は既にすっかりと元気を失っていた顔をますます暗くして訊く。
「――携帯とかつながる?」
長谷川と有坂は自分の携帯電話を取り出して確認する。
「ダメみたい」
「私も」
あまり期待はしていなかったが、こうなるとエレベーターが動かない限り絶望的である。
「――どうしよう」
「まさか、こんなところで遭難するとはね」
「一生出られないってことないよな?」
亮月は少し紅くなった顔でそう訊くが、長谷川には答えようが無い。彼女はその姿を見て、うつむいてボソりと何やら呟く。長谷川の耳にまでは彼女の言葉は届かなかったが、有坂はそれでなにかを察したらしく、一つ息を吐いて笑う。
この笑いが何を意味しているのかはわからないが、少なくともこの状況下に置かれて笑うことができるのは、有坂ぐらいのものだということは確かだった。
――それにしても普段はあんなに臆病なのに。
会ってから一ヶ月を経過した今でも、長谷川には有坂の心がわからない。
冷酷な奴
優しい人
大らかな娘
臆病な人間
図太いところがある
無感情でよくわからない
感情表現が豊か
これらは全て、人が有坂を評したものだ。これだけ複雑な感情を小さい体の中に収めて、強そうに見えて脆く、脆そうに見えて強い彼女は、一体どこに向かうのだろうか。
――余計な心配かもしれないけど、と長谷川は思考を停止させる。
気持ちが暗くなってくると色々と考え始めてしまうが、その多くは時間の浪費にしかならないことを長谷川は経験上知っていた。
ただ、この後の彼女の一言は、長谷川の心を少し明るくさせた。
「たぶん、もう一個他に出入口がある……と思う。自信ないけど」
その言葉で亮月が顔を上げる。
それを確認して有坂は提案した。
「だから、それを探さない?」
彼女は明るい声で言った。――きっと、努めて明るくした声で。