3 夕麗 Lost In Logic (12)
「これってどういう――」
鳥居の柱が左右に開いたその瞬間から、心臓は速いビートを奏でたまま収まらない。
「あの。ちょっと待って。今、考えるから」
有坂は見てわかるほど動揺していた。
もう一方の亮月は普段より落ち着いているように見える。彼女はずいと前に出て腰に手をあてて、胸を反らす。
「簡単じゃん。長谷川は犯人が、この――孫の手。孫の手を使って鳥居を登ったと思った。そんで、長谷川も鳥居を登ろうと思って、孫の手をこの鳥居の窪みにひっかけた。そしたら、なぜか鳥居が開いた。たぶんさ。窪みのとこにスイッチみたいのがあったんだ。ってことはさ、私たちが鳥居だと思っていたものは、ただの鳥居じゃなくて隠し部屋だったんだな。忍者屋敷みたい」
彼女らしく話自体はあんまりまとまっていないが、多少は現状をつかんでいる。
長谷川が伸ばした孫の手は、確かになにかのスイッチを押下した。その結果、鳥居の円柱の一角が左右に開き、中にはいれるようになったのだ。そしてそれが今目の前にある「部屋」なのである。
長谷川は口を開く。
「じゃあ、神隠しの正体ってこれってこと? 消えたように見せかけて、この鳥居の中に隠れた――」
「見せかけるって意図はなかったんじゃねえの。普通に入ろうとしたのを誰かに見られただけで。でも、わかんないな、なんでこんなとこに入ったんだろ」
と、言いながら亮月は鳥居の中の部屋を覗き込む。
「――あれ? お、すっげ。これただの部屋じゃないぜ。見てみろよ」
そういって、彼女は中に入って手招きする。「危ないよ」と言おうと思ったが、それよりも中がどうなっているのかという興味の方が優った。
「なになに。あ、結構、中って広いんだね。――え?」
――エレベーターだ。
「エレベーター?」
有坂も部屋を覗き込み、あ、と小さい声を上げる。
鳥居の中はただの部屋ではなかった。部屋の壁は鳥居にそぐわない鉄製のものだったし、天井には蛍光灯が裸のまま設置されている。そして入口に近い壁には、丸型のボタンがついている。ボタンの表面には、上下と開閉がそれぞれ記されている。
亮月は感動したように言う。
「これ年代モンだぜ。ボタンとかキノコみたいだし。昭和三十年ぐらいっぽいよな? 年はテキトーだけど」
「年はいいけどさ。なんでこんなものがあるの。鳥居の中だよ? 非常識だろ」
長谷川の言葉に、亮月は笑う。
「あるんだから仕方ないじゃん」
そうして、何故か腕をまくるような動きをして、
「よし、ボタン押してみようぜ。あ、有坂さんも早く入って。三人ぐらいなら、入れるよ」
と言って有坂を促す。
「ちょ、ちょっと待ってよ。それアブナイんじゃないの。少し調べてからの方が。――あ」
有坂は何かに驚いたように声を上げて、慌てて中に入ってくる。
それを見た亮月は不思議そうな顔をする。
「どうしたの、いきなり」
「いや、人が歩いてきたから。ビックリして」
それを聞くと亮月は軽く笑って言う。
「――それさ。有坂さんが神隠しになっちゃうんじゃないの。――ま、いいやテキトウにボタン押すか。このボタンで下に行くんじゃないか?」
そう言って彼女は下のボタンを押す。やはり古いものらしく、ボタンを押すだけでも、キィという錆びたような鈍い音を立てる。そして、ボタンが押された途端、ガラガラと大仰な音を立ててドアが閉まり、室内は完全な暗闇に閉ざされる。
このまま下まで真っ暗なままなのだろうか、と不安に思っていると、頭上からパチパチと音がし始める。そして、蛍光灯に明かりがともった。見ると、亮月が何かのスイッチを押したらしい。電灯のスイッチ付きのエレベーターというのは見たことがないが、元々真っ当なエレベーターとも思えないので驚きはない。
ふと重力が弱まり、エレベーターが下がり始める。
――どこに行くんだ、長谷川は不安になりながら、ただエレベーターが下るのを待つしかなかった。