3 夕麗 Lost In Logic (10)
急に振られて、長谷川は戸惑う。
何も考えないわけではなかった。思いつきはしていたが、言おうか言うまいかこれまで迷っていたのだ。
「ええ」などと曖昧に答えながら、更に逡巡する。
その間、亮月は「なんだよぅ」などと言いながら、不貞腐れながら突っ立っていたが、長谷川の回答には興味が有ったらしくすぐに後を追ってくる。
全くアイデアがないわけではない。
鳥居の様子
鳥居を照らす光源からの距離
そして孫の手のような道具
この三点の要素を組み合わせると、今長谷川が考えている推理に辿り着くのはそう難しくない。そして、その推理の通り「犯人」が行動をとっていたとしたら、きっと「神隠し」は発生するだろう。
しかし――突拍子がなさすぎる。何度思考を繰り返しても、必ずそういう結論に行き着く。そして、毎回そこに行き着く度に、長谷川は自信を失う。
――やはり、間違っている。
浅知恵と笑われるぐらいなら、いっそ何も発言しない方が良い。それが今までの長谷川のスタンスだったし、今回の件もそうやってやり過ごそうと思っていた。
だが――目の前に屹立する鳥居がその態度を否定する。
すでに鳥居までたどりついてしまった。
そして長谷川の正面で、次の言葉を待っている二人。
ここまで来ておいて「何もありません」と言えるだろうか、と長谷川は自問する。
小心極まっている自分に訊くまでもなく、答えは簡単に出た。
――できるわけがない。
「――一つだけ」
ボソりと独り言のように言う。すると、
「ほんと? すげえ。やるじゃん長谷川」
などと亮月はすぐに反応するし、有坂も
「聞かせてよ」
と急かすように言い出す始末である。
二人の姿を見た長谷川は、地獄の釜の前に並ぶ亡者のような気分になる。
そして長谷川は、きっとこの夕暮れの中でさえ青白く映っているであろう顔をほんの少しだけ上げて、自分の愚考を披露し始める。
史上例を見ないほど推理に自信のない探偵を話の中心に据えて、神隠し事件の解答編が始まった。