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有坂神霊縁  作者: iotas
28/63

3 夕麗 Lost In Logic (6)

 有坂も少し息を吐いて話を続けた。

「この前提で話をするよ。まず亮月は神隠しらしきものを『目撃』した。ただその時点では単に人が急に居なくなったレベルの話だからね、騒ぐような話じゃない。――だけど少し気になったから、『神隠し研究会』なる奇妙なものを設立しているという、土師君のところに話を聞きに行った。あまり期待はしてなかっただろうけど――」

 ――自分の見間違いかもしれない、からか。

「そうしたら意外なことに土師君も昔、同じ場所で神隠しを目撃したという。亮月は『神隠し』に確信を持ったので――いつものように私たちを巻き込んで調べようと思った」

 亮月は目を逸らす。

「でも、巻き込もうにも、亮月は全然情報を持っていない。そこで、土師君を使って『神隠し』に信憑性を持たせようと思った。それで昨日一緒に部室にやってきて――」

 

 そこまで有坂が言うと、ぱんと亮月は手を打った。

「大せーかい。まいりました」

 長谷川には少し疑問が有った。

「でも、それだったら、わざわざ一昨日の『神隠し』があったことを僕たちに伝えなくても良かったんじゃないですか? 五年前に『神隠し』があったんだっていうだけでも――」

「いきなり五年前の話とか、すげえ不自然じゃん。私はさ、五年前と一昨日に同じ場所で『神隠し』があったってことを話せば信憑性が出るかなって思ったの。―― 一昨日の事件の情報はわからなくてもね。でも、甘かったな」

 そういって亮月はふう、と息を吐いた。顔が少し赤い。陽気に振舞ってはいたが、自分の行動を一個一個追及されて、ストレスを感じていたのかもしれない。

 長谷川は何か言葉をかけようかと思ったが、何も出てこない。

 困って有坂のほうを見ると、彼女はすでに興味を失ったらしく本を開いていた。

 窮まった長谷川は「それはいいからさ」などと中途半端に慰め、

「亮月は一昨日、何を見て何を見なかったんだ? そこを話してよ」

と訊いた。沈黙するよりはマシだと思った。

 亮月は頷く。

「一昨日だね。私、ちょっとあの神社の前を通らなくちゃいけなくなったんだ。ま、どうでも良い用事だったんだけどさ。えーと……なんだっけ、ヤ――ヤヨボー」

「野暮用」

「それ。ヤボヨー。んで、あの道を通ったのが七時くらい。夜のだよ。すっげ暗くてさ。土師さんも言ってたけど、マジ怖いの。昨日は長谷川もいたから平気だったけど」

 そう言えば昨日、有坂も怖いとか言っていた。

 亮月は、

「あんなの平気なのお前ぐらいのもんだぜ」

と言う。――余計なお世話だ、と思う。

「それはともかく、私が見たことの話だな。と言っても、私もおんなじなんだよ。鳥居の裏に人が立っててさ。あ、人っていっても直接見たんじゃないのな。影が見えたんだ」

 そう言って机の上に手を載せる。右手が亮月で、左手が人影を表現しているらしい。

「参拝かと思ったけど、ずっと鳥居の裏に立ってたから、なんかおかしいなと思ってたんだけど」

「――なんかあったんだ」

「そ、車」

「車?」

 そう言って、亮月の左手が右手の後ろから近づく。

「車が後ろから、すげえスピードで来てさ。慌てて道の端に移動したんだけど。そんなことやってるうちに」

 ――いなくなってたんだ、亮月はそう言って、両手を引っ込める。

「目を離したのって、五秒とかだぜ? そんで、全くどこにもいなくなっちゃうのって変じゃん。んで、おっかしいなあとか思いながら、鳥居の前まで行って色々調べたんだけど」

「なにもなかった。だから――」

 長谷川の言葉に亮月が頷く。

「ああ、人間って消えるんだーって思った」

「消えないよ! あとツッコミついでに言うけど、さっきの手の動き全然意味わからなかったよ!」

 ――とにかくわかったのは、彼女が見たものが土師の見たものの枠を越えるものではなかった、ということか。

 長谷川から肩の力が抜ける。

「調べてみてなんかなかったの」

「なんか――? どうかなあ。私にとっては消えたってのがすげえ事件だと思ったからさ。それ以上の話が求められる? みたいなこと考えてなかったしなあ――いや」

 亮月が小さい声でつぶやく。そうして、ちょっと頭を上げて何かを思い出すような仕草を見せる。

「なにかあったの」

「なんか――」

 そう言いながら、亮月が頭の上に右手を伸ばす。

「こう、長い棒みたいのが」

「なんだよそれ」

「まごのて」

 ――まごのて?

「まごのてってあの孫の手?」

 話をこっそり聞いていたらしい有坂が、長谷川の言葉に反応を見せる。

「なにそれ。孫の手? どういうの」

「背中とかを掻くときに使う棒ですよ。先端が手みたいな形になってんの」

「あー。大きい耳かきみたいのね。あれ孫の手っていうんだ」

 彼女はちょっと感心したような表情をすると、

「で、なんで孫の手が出てくるの」

と言った。

 亮月は悩むように、しかめつらをする。

「ううん。なんだろ。なんかさ孫の手みたいな影が一瞬見えた気がしたんだよね。こう、上に突き上げる感じに」

「へえ……なるほどね」

 有坂が一人納得するように頷く。

「なんか思いつきます?」

「ぜんぜんわかんない」

「わからないんですか」

 そのやり取りの何が面白かったのか、亮月が声を上げて笑う。

「で、困ってるわけだよ。長谷川」

 ――なんかないの? と言われるが、わかるわけがない。

「ビデオに何か写るのを期待するしかないね。――そういえば」

 ――あれってどうなったんですか? と長谷川は有坂に問う。

 ビデオは有坂が毎日登校時間に回収して映像を確認し、下校時に同じ場所にまた配置することになっていた。

「どうなったって、何が写ってたかってこと? なんも写ってなかったよ。まだ一日目だし」

 どうやら空振りだったらしい。いくらあの場所の様子を撮影していても、何も写ってなければ手がかりは得られない。


 結局その後、カメラの防水対策などを三人で少し検討し、今後の成果に期待するということで、話を終えた。

 その日の帰り支度をしていると、亮月が話しかけてきた。

「ところで、昨日何も写らなかったことで、一つ分かったことがあるよな」

 亮月は言う。

「神隠しは毎日起こらない」

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