微かな温もり
昨日の夢日記にストーリー性をいれたもの
「あんたってやつはー…」
駐車場に停めた車内で通話をしていた。相手は母親。
月2回の生存報告と現状報告をするのが一人暮らしの条件だった。家の親は過保護だが変なところで甘い。
まあ、30にもなって実家暮らしはそろそろ脱するべきと、あちらも判断してくれたのが幸いだった。
「仕事が立て込んでて…ごめんよ」
毎月1日と15日、遅くとも夜9時には連絡を入れる。そうしないと翌日に自宅に乗り込んでくるのを既に体験している。
が、今回はそういかなかった。
「まぁ、無事で良かったわ。この前のほら、地震はシャレにならなかったから」
「こっちより母さん達の方が危なかったんじゃないか」
「現役のお父さんがいるから、こっちは大丈夫よ」
呆れたように聞こえるのは昔からだ。父は建築に携わっており、昔は現場、現在はプロジェクトの担当をしている。
念願のマイホームは地盤が強くて山や海がない土地を選び抜き、結果として『那綱区』と呼ばれる平坦な都心の郊外に実家を構えた。
そろそろ話も終わるだろうと車内を出る。キーのボタン1つで鍵をかけ、『施錠したよ』と、可愛らしい女の子の音声が通話にのってしまう。
「あんたまだそれ使ってんの?」
「俺の勝手だろ」
「まぁいいけど…それじゃそろそろ切るわね」
「うん、おやすみなさい」
「はいよ、りゅーへいもおやすみ」
無象の技術を内蔵する端末が静かになる。画面が一瞬暗転したのを確認してポケットに戻し、目と鼻の先の我が家、マンションに歩を進める。
エレベーターのボタンは20階まである、10階以上は勝ち組が住んでいるのだろうか?だとすると俺は負け組か。無意味な考察をしていると暖色になっていた3の色が消えた。
扉が開くと欠伸が出た。何者からも攻撃されない空間に帰れる安心感からか。年かもなと戯言を吐くと部屋の前に女の子がいた。
正確には301号室。俺の部屋の隣だ。
12月の息が見えるほどの寒い中、日も落ち冷たいコンクリの床に体育座りで。
お久