四日市の啓太郎
ちっこいのはまた気になって仕方ない。
四日市の啓太郎とはどんな人物だったのか。清水一家の28人衆の1人だったようだけど、調べてみても、四日市の辺りを仕切る侠客としか書いていない。
って事は、ちっこいのの、得意なやつ。
想像してみる。どんな人物か。勝手気ままに想像する。
背はすらっと高い。目鼻立ちのくっきりした男前。けどどこか憂いの影を背負う、物静かな侠客な気がする。
四日市といえば、あと少し行けばお伊勢さんにたどり着く。きっと、旅人たちには有り難い一家が、この四日市の啓太郎が仕切る一家かなぁとそう思った。
何が有り難いって、きっと、あと一息ってところだけど疲れて一服したい場所が、ちょうどこの四日市の啓太郎のいる回廊かなぁ?
この長くて細い道の横に沢山のお店が並び、人々の疲れを癒していたんじゃないかと思われる。たぶん、清水一家の28人衆のなかでも一際、異才を放っていた人物ではないかと、ちっこいのはそこまで想像して満足して今から床に入って良い夢みてくるわ。
28人衆の1人の人物像が完成した。
あとは、石松さんの事をこの四日市の啓太郎はどんな風に思っていたかを想像する。
この啓太郎から見た石松さんは、たぶん、お調子者に写ったかなぁと思う。あと自分からみたら、かなりのガサツな感じかなぁ。
啓太郎には想像つかないくらいに意味不明な人物に写って、ちょっと嫌いだったかなぁ。
で、殺された話を聞いて、そこで初めて思うかなぁ?
あー、やっぱり馬鹿な奴だな。って。
嫌いだけど、どこか憎みきれなくて、嫌いなのになんか気になって、危なっかしいから、なんかいつのまにか気にしてて、それはやっぱり28人衆っていう絆で固く結ばれているから、そりゃきになるし、死んだって聞くとどうしようもなく辛い。
嫌いなのに、やっぱりどこかで認めてるから、最終的には嫌いだけど憎めないヤツで、四日市きたら石松の世話を焼いてやるんだけど、やっぱりこいつ嫌い。って思いながら、楽しそうに回廊を歩く後ろ姿を見て、こいつ馬鹿だなぁと思いながら、いつのまにか優しい顔して石松の事を見てるんだろうなーってそう思った。
だから、
死んだ石松の墓前で啓太郎がなんて言うか考えたら。
「石さんよ、俺の縄張りに遊びに来て、楽しそうに子供みたいな顔して歩くもんだから、お前の後ろ歩いてんの楽しかったわ。忘れらんねえな、つまづいて転けて痛がってる姿。石さんおっちょこちょいだから。」
たぶん、啓太郎はここで目頭を押さえて涙が溢れるのを堪えてる。その姿がまた何とも言えないカッコ良さ!
「お前の悔し涙、俺がちゃんと取り返してくるから!だからそっち行った時はよろしく頼むよ。地獄の回廊の案内でもしてくれよな。石さん、安らかに眠ってくれな。」
って言うかなぁ。
やっぱり私、女優になりたい。
ちっこいのは四日市の啓太郎が死んだ石松さんの墓前でなんて言うか考えて、満足してこれから気持ち良く寝てやろうと考えている。
雨はやむことを知らず、ただただ降り続く。きっと明日は良い天気になるだろう。
ちっこいのの天気予報はちょっとだけ当たるのだった。