湯島の月
ちっこいのの好きなお芝居に、湯島の月というのがある。何が好きって、お蔦さんと、力松のおしどり夫婦の感じが好きなのだ。
年を重ねてもいつも思い合って仲睦まじいその様子は見ているこっちまで心が和む。
そんなお芝居のことを、ちっこいのは少し気になった。細かいところは忘れてしまっている。このお芝居はどんなだったかな?
と、少し調べてみることにした。ちっこいのの良い所なのか悪いところなのかはわからないが、お芝居の事でもなんでも気になると、調べて自分が納得したら、それで良い。とても変な奴なのだ。
湯島の月は少ししか出て来ず、でてくるのは、湯島の白梅と名のついたものばかりだった。
その湯島の白梅というお話は、湯島の月とは違い、悲恋物語で、苦学生と、芸者の恋のお話。
話の内容は、知られずに付き合っていた2人だったけど、お蔦さんが、事件に巻き込まれて犯人になってしまう。でも、ただ巻き込まれただけで犯人ではない事が分かったのだけど、苦学生の恩師に、お蔦さんとの結婚を許してもらおうと向かったけど、そこで苦学生は逆に恩師からお蔦さんと別れるように説得される。
苦学生はお蔦さんを湯島天神の境内まで連れて行き、そこでお蔦に別れを告げた。
お蔦さんは、それに応じて別れた。それでも尚、別れた苦学生のことを思い続け、最後は病いの床に伏せてしまう。もう、命の灯火も消えようとしていた。そんな時、それを知った苦学生の恩師がお蔦のその容態を聞きつけてやってくる。
2人の仲を無理に割いてしまった事で、こんな事態を招いてしまった事に罪の意識があったのか、苦学生にすぐ来るように連絡をした。苦学生もまたお蔦の事をずっと思い続けていた。その話を聞き、急いでお蔦の居るところへ向かうのだけど、たぶん、苦学生が着く頃にはお蔦はもうこの世の人ではなくなっている。
この最後の場面を描かずに物語は終わっているみたい。
どことなく、湯島の月と似ている。お蔦という名前が同じ。湯島のっていう名前も同じ。違うのは、悲恋ではなく、どちらかといえば喜劇寄り。
ここでちっこいのは何となくだけど、これは、この湯島の白梅の物語を見たか、聞いたか、読んだ人物が、お蔦さんがあまりにも可哀想に思い、それならもっとお蔦さんが幸せになれるお芝居に変えてあげようと作ったお芝居が湯島の月なのかなぁ?
とそんなふうに思う。
同じように湯島天神の前で別れ話を告げられる。この時のお蔦さんの気持ちは、2人とも、同じだったんじゃないか。
どんな気持ちで別れ話を聞いてただろう?いきなり告げられたその別れ話を、素直に受け止められただろうか。嘘でしょ?ねえ、今の話は嘘でしょ?違うの?ねえ、ねえってば!!
聞いても、首を横に振られて、たぶん持ってたおみくじを落としちゃう。それ拾おうとしゃがんで、もう一度、その人の顔をを見て、ほんと?本当の本当に別れるの?って顔して見つめると思う。涙いっぱい目に溜めて。
でも、やっぱり、その人は別れるっていう。
肩から力が抜けて、へたり込むように下を向いたお蔦さんの瞳からポロポロと涙が溢れ、しばらくそうして座っているのだけど、ふと、見た先に白梅が美しく綺麗に咲いていて、それ見たお蔦さんはきっとこう言う。
あなたが生きているのなら、幸せでいられるなら、この先会えなくなったとしてもそれでも構わない。生きてさえいてくれれば私はそれで構わない。白梅が今年も綺麗に咲いている。最後に一緒に見られて良かった。
立ちあがろうとしてよろけたお蔦さんの手をとり転ばないように優しく抱き寄せたその人の。
お蔦はこの時その人の気持ちが自分と同じだと理解する。
2人、別々の方へと歩いていく。
たぶん、ここが一緒だなぁとちっこいのは想像した。
だからちっこいのは湯島の月が好きなんだなぁとなんとなく分かった。だって、湯島の月は、最後、力松とお蔦さんは幸せいっぱいなんだから。
ちっこいのはやっぱり思う。
私、女優になりたいなぁと。
そんな事を思いながら今日もちっこいのは仕事している。
ちっこいのはドジだから、仕事で失敗することも多い。今日は朝から火事になりかけて、びっくりしたのであった。