4.規格外の戦いを経て。
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その男の戦いは、圧巻だった。
的確な判断に加えて、高速詠唱によって相手の動きを封じる。そして隙を逃さんとする乾坤一擲の一撃に込められたのは、勝利への向かって進む間違いのない自信だった。
これほどまでに洗練された戦闘をリリスは、いまだかつて見たことがない。
無駄がない。とかく、すべての動きに無駄がないのだ。
「す、ごい……!」
だから、自然とそんな声が漏れる。
それと同時に彼女は、自分がこんな規格外の相手に勝負を挑んだことを恐怖した。もっとも相手にすらされていなかったわけだが、そんなことは問題ではない。
いま、最も重要なのは彼と自分の立っている場所の差だった。
言うまでもなく、距離的な話ではない。
「届かない。絶対に……」
かつて魔王と呼ばれた父と、対等に相対した者。
すなわち、尊敬する者を超える存在。
そんなウィリスと自分の間には、隔絶とした差があったのだ。
リリスはそれに微かな悔しさを抱くが、ほんの一瞬のこと。すぐにその感情は羨望へと変化して、いてもたってもいられず彼女は立ち上がった。
預かっていた上着をかなぐり捨てて、彼のもとへと駆けるのだ。
そして――。
「ウィリス! いや、師匠!! 頼みたいことがある!!」
リリスは瞳を輝かせて、ウィリスの背に抱きついて叫ぶのだった。
◆
「――アタシを弟子にしてくれ!」
少女が背後から抱きついてきたかと思えば、何か息巻いている。
俺はまた、面倒なことを言い始めたな、とか考えながらため息をついた。おおかた今の戦いを見て、一時の興奮に身体を突き動かされているに違いない。
そのような感情に踊らされて始めたことは、まず絶対に実りはしないのだ。
というか、そもそも俺は弟子を取る気がない。
だから振り返りもせずに、足元に落ちている魔石を拾い上げた。
そして同時に、息絶えた小さな蟹も。
それらを見比べて、考え込む。
「頼む! どんなに厳しい鍛錬でもする! だから弟子にしてくれ!!」
背後では小動物が嬉々として、何かを騒ぎ立てていた。
俺はそのことを完全に意識の外に追いやって、思考を巡らせる。何故なら、この戦いの結果には大きな違和感があったからだ。
いま手元にあるのは、何の変哲もない蟹。
魔力の類は秘めておらず、すなわち魔物の一種ではなかった。それが指し示す意味というのは、あるいはこの魔石に秘密があるのではないだろうか……。
「なーあーたーのーむー! しーしょーうー! おーねーがーいー!!」
「………………」
だが、そんな思考の合間に子供の駄々が割って入ってきた。
俺は無視を決め込もうとするが、その声は次第に大きさを増していく。
「でぇーしぃーにぃーしてってぇーばぁー!!」
「だああああああああああああああああ!? うるさいな、お前!?」
そのため、ついに堪え切れずに叱りつけてしまった。
そして振り返ると、そこには――。
「…………ぶふっ!?」
素っ裸な少女が、立っていた!!
辛うじて目を逸らしたが、貸した上着はどうした馬鹿が!?
「ん、どうしたのだ師匠?」
「馬鹿お前、近寄るな! 上着を渡しただろうが!!」
だけど彼女は、気にした素振りもなく接近してくる。
どうやら興奮のあまりに、自分の状態を忘れている様子だった。そんなわけなので、狼狽える俺に向かって躊躇なくリリスは距離を詰めてくる。
そして、そこでもう一度言うのだった。
「頼む、弟子にしてくれ!!」――と。
こうなると、俺にはもう為す術がなかった。
彼女に目を覚まさせる意味でも。
「分かった! 分かったから、頼む!! 服を着てくれえええええええ!?」
そう、絶叫するのだった……。
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