3.カニカニパニック!
タイトルも、内容も少しふざけてます(食べたいものから着想を得て)
応援よろしくです!
――それは、なんとも立派な蟹だった。
湖面から立ち上がった様は威風堂々としており、荘厳という言葉すら相応しいと思える。そんな蟹型の魔物は巨大な二つの爪を高らかに掲げ、完全に腰が抜けたらしいリリスに襲い掛かろうとしていた。スライムにすら敗北する少女だ。この相手に勝ち目があるとは思えない。
「た、助け……!」
「大丈夫か、リリス!」
俺が駆け付けると、彼女は年相応の表情を浮かべていた。
今にも泣き出しそうな幼さの際立つそれからは、昨日から見せていた虚勢など欠片ほども感じられない。おそらくは、こちらがリリスという少女の素なのだろう。
そう思いつつ、俺は少女と蟹の間に割って入った。
そして上着を脱いで、彼女に手渡す。
「いいか。あまり下手に動くんじゃないぞ?」
俺の服を受け取って羽織った彼女は、何度も頷いてみせた。
そのことを認め、こちらは木剣を取り出して蟹に改めて向き直る。相手が変わったとて、蟹の魔物は怯む様子はなかった。どうにも、かなり凶暴化しているらしい。
いったいどうして、こんな化物みたいな魔物がここにいるのか。
謎がさらに増えてしまったが、今はそれどころではない。
「さーて……今日の得物は、少しばかり歯応えがありそうだ」
湖面からゆっくりと這い出てくる奴さんを見つつ。
俺は静かに、意識を集中させる。そして――。
【キシャアアアアアアアアア!!】
――蟹型の魔物は、その巨大な爪の一方を渾身の力で叩きつけてきた……!
こちらには動けないリリスがいる。
そうなると、回避は不可能。喰らえばただでは済まない一撃をも、受け止める他なかった。木剣は役に立たない。スライムのような相手には十分だが、分厚い装甲を砕くには至らない。だったら次の手段として考えられるのは、一つしかなかった。
「へっ……久々に使うな! ――【プロテクション】!!」
――そう、魔法による防御。
俺が手を前に突き出すと、爪は半透明の障壁によって弾かれた。
それによって蟹型の魔物は体勢を崩すが、しかし決定的な隙にはならない。すぐに戦闘姿勢に戻った相手は、物凄い速度で右へと移動した。
それは魔法で強化した俺よりも速い、そう感じる。
だが相手は『蟹』だ。
横への動きが速いだけなら、対処法など幾らでもある。
「おっと……そっちは、行き止まりだぞ?」
俺は手を翳して、短く魔法を唱えた。
「そらよ! ――【グランドウェイク】!」
すると蟹の行き先、その大地が隆起して壁となる。
結果的に相手は行き場を失くし、動きが一段と鈍くなった。俺はその隙を見逃さず、一気に距離を詰める。魔物は俺に向かって両方の爪を叩きつけようとするが、そうなると――いよいよ弱点ががら空きとなった。
装甲の薄い場所。
すなわち、蟹の腹部……!
「……おらぁ!」
そこへ目がけ、俺は木剣を力の限りに突き出した。
思ったよりも反発があったが、許容範囲内。剣は魔物の腹部を突き破り、周囲には金切り音のような断末魔の叫びが響き渡った。
徐々に蟹は身体を維持できなくなり、やがて――。
「終わったか…………ん?」
――魔物がいた場所に転がったのは、死んだ小さな蟹と魔石だった。
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります!
応援よろしくお願いします!!