1.新しい朝の光景。
ここから第1章です。
魔王討伐後のゆるゆるコメディ(当社比)をお楽しみください。
また、☆などで応援いただけると励みになります!
――そんな一夜を過ごし、翌朝。
俺は早々にベッドから抜け出して、家の外で自宅用の薪を割っていた。
「……これが、勇者のやる仕事か?」
「おう、起きたのか」
「むー……」
リリスが起きてきたのは、もうほとんどの丸太を割り終えた頃。
見事なまでの爆睡をかましていた彼女は、いまだどこかボンヤリとした表情でこっちを見ていた。この朝の弱さは、旅をしていた頃の魔法使いと似た空気を感じる。
それなら対処法は分かっていた。
俺は近くにある井戸の前に立って、新鮮な水を汲み上げる。
「ほら、顔洗え。サッパリするぞ」
「おー……」
そしてリリスに告げると、やはり覚醒し切っていないらしい。彼女はフラフラとした足取りで俺のもとへとやってきた。ただ、そこからまた意識が飛びそうになっていたので――。
「――ほれ!」
「ひゃあああああああ!?」
俺は桶の水を手ですくって、少女の顔にかけた。
夏季だといえど、井戸の水はキンキンに冷えている。それをマトモに喰らった魔族長は、甲高い悲鳴を上げながら全身を震わせた。そしてようやく目覚めたのか、キッとこちらを睨んで八重歯をむき出しにしながら吠える。
「何するんだ、この!」
「おおっと! そっちが眠そうにしてるからだろ?」
そんでもって拳を振るうので、俺は軽く回避。
思い切り空ぶったリリスはバランスを崩し、どういう流れか桶を思い切りひっくり返した。その結果、中に入っていた冷水は見事に宙を舞い、彼女へと降り注ぐ。
「うぎゃああああああああああ!?」
全身ずぶ濡れになった少女は、村全体に響くような声で叫んだ。
俺はそんな間抜けた魔王の娘を見て、思わず笑う。
すると――。
「ぐあああ!! 笑うなぁぁぁぁぁぁ!! 殺してやるからなああぁぁ!?」
分かりやすく地団駄を踏みながら、彼女はまた喚き散らした。
早朝のカディス。起きている数名の老人たちが、何事かと小首を傾げていた。
◆
「で? 殺してやる、と啖呵を切った割には……」
「うるさいな。濡れた衣服で戦う馬鹿がどこにいるんだ」
――などと言い訳しているが、この少女はシレっと朝食を摂っている。
今朝のメニューはこんがり焼いたパンに、シャキシャキのサラダ。お世辞にも贅沢なそれとは呼べないが、腹を満たして活力を得るには十分な量だった。
何なら旅をしていた頃には、こんな食事でさえご馳走だったのだ。
「俺たち、普通に戦ってたけど……?」
「野蛮な人間と一緒にするな。アタシは彼の魔王の娘だぞ?」
「さいですか」
しかしながら、どうもリリスには通じないらしい。
濡れた服の代わりに俺のものを貸しているが、着心地に納得がいかない様子。先ほどから隙あらば生地の質が悪いだの、縫い目の糸がチクチクするだの言っていた。
もっとも幼い少女のワガママなんて、王家の姫様の高飛車に比べればたいしたことはない。アレはもう別格で、相容れないというのが分かり切っていた。
「ところで、今日はこの後どうするんだ?」
「……むぅ」
そんな折に、俺は話題を変えようとそう訊ねる。
するとリリスは少し考え、こう言った。
「お前の弱点を探そうと思う」
「………………」
物凄く真剣な表情で。
……それ、俺に言って良いのか?
「そういうお前は何をするんだ」
「あー、俺か?」
そんな内心のツッコミをぐっと堪えて。
俺は彼女の問いに答えた。
「俺はいつも通り、村の周辺のスライムを狩るよ」
「スライム……?」
この八年間、ずっと続けてきたルーティンだ。
なので特に違和感なく言ったのだが、リリスにはそれが引っかかったらしい。しばし考え込むようにしてから、少女は意を決したようにこう言うのだった。
「なら、アタシもそれに同行しよう!」――と。
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります!
応援よろしくお願いします!!