4.人間と魔族、二つの視点。
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――そんなこんなで、リリスから説明を受けること小一時間。
「なるほど。つまり次期魔王の座を争って、俺の首を狙っている……と」
「そういうことになるな!」
何やら脱線しまくっていたが、要約するとそういう話らしい。
魔族の有力者の中で各々の派閥が存在し、各勢力が次の天下を狙って動いている。リリスもその一人ではあるが、考えもなし、食料もなしに俺のところへ奇襲をかけるあたり、人材やら何やらが不足しているのは明らかだった。
世界の滅亡を目論んだ魔王の娘にしては、かなり残念だ。
俺はどこか遠い目をしながらも、彼女にこう訊ねる。
「それで、リリス。お前は今から、俺と戦わなければならないわけだが……」
「あぁ、そうだ。だから、いざ尋常に勝負……ふわぁ~……」
「………………」
その問いかけに答える少女は、満腹に気分が良くなったのだろう。
大欠伸をしながら、涙目を擦っていた。よく観察してみれば微かに前後に揺れているので、相当な眠気がやってきているのだろう。
正直なところ、このような相手に戦う気は起きない。
たとえ命を狙っているとしても、無防備に近い相手に手を上げるのは気が引けた。
「……どうする? 今日は休戦にするか」
「ふぬぅ、そうしてもらえると助かる」
「お、おう……」
なので提案すると、リリスは蕩けそうな声色でそう言う。
どうやら、限界が近いようだ。
「寝るなら、そこのベッド使って良いから」
「……お前はどこで寝るのだ?」
「あー……床で良いよ」
気の利いたソファーもない部屋の中だ。
客人を床に寝かせるわけにもいかないので、俺は少し考えてからそう答える。すると先ほどまで眠そうにしていたリリスは、怒ったように眉をひそめて声を上げた。
「それは駄目だぞ! たとえ敵でも、恩義には礼節をもって応えなければならない! アタシが床で寝るから、ウィリスはちゃんとベッドで寝るのだ!!」――と。
それはいったい、どのようなプライドからくるものなのか。
俺は今までにない剣幕で迫られ、思わず言葉に窮してしまった。それを了解と受け取ったのか、少女は鼻を軽く鳴らしてから、しばし沈黙し――。
「あー……でも、毛布だけ借りられるか?」
どこか気恥ずかしそうに、そう言うのだった。
◆
「すぅ~……すぅ~……」
「………………」
いつもは静かな部屋の中に、自分以外の寝息がある。
俺はその感覚にイマイチ馴染めずに、妙に目が冴えてしまった。こうやって誰かと一つ屋根の下で眠るのは、仲間たちと旅をしていた時以来か。
実家で、ということを言えば、旅立つ前までさかのぼるが……。
「それにしても、暢気な魔族長様だな……」
仇敵の程近くで大人しく眠っているリリスを見やり、俺は思わずそう呟いた。
このような状況になるなど、想定の範囲外。しかし現状として、実際に起きているのだから無視はできなかった。そうなると、俺が取るべき行動はなにか。
元とはいえ、勇者だったのだ。
決まっているはず。
「………………」
この魔族の少女を殺すのは、きっと簡単だろう。
しかし、俺にはその決断ができなかった。
「リリスには、何の罪もない」
何故なら、健やかに眠る彼女には罰せられる事柄がないからだ。
それはあくまで人間側基準、ということになるが。
「それを考えると、俺は魔族側にとっての大罪人、か……」
勇者として戦っていた時から、覚悟はしていた。
それでも、実際に口にされると正直堪える。
『お前の手によって、魔王であり、最愛の存在であった父を殺された』
リリスの言葉が耳に蘇った。
俺は一度、深く息をついてから仰向けになって天井を見上げる。
そして、こう結論付ける。
「まぁ、いまは良いか……」
――なるようになる。
俺はあえて、問題の先延ばしを選択するのだった。
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