プロローグ 世界救済の勇者、帰還。
新作を勢いで投げる勇気!
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「やったわね! ついに魔王を倒したわ!」
「世界に恒久的な平和がもたらされるのか……!」
「ここまで戦えたのも、すべて勇者ウィリスのおかげ」
仲間たちは魔王城の最奥で、歓喜に沸き立っている。
それもそのはずだろう。何故なら、この旅の最大目標であった魔王討伐をついに果たしたのだから。まだまだ世界平和というものには遠かったが、いずれ訪れる平穏な日々を思い描かざるを得なかった。
だが、そんな中で――。
「ちょっと、ウィリス! なんで泣いてるのよ!?」
俺は大粒の涙を流していた。
仲間たちは驚き、俺の方へとやってくる。
そして、そのうちの一人がニヤニヤしながら言った。
「……なるほど。さては、喜びのあまりに感情が高ぶったか」
それを聞いて、他の二人は納得したように頷く。
たしかに念願とされていた魔王討伐を果たしたのであれば、それも十分にあり得る話だ。故郷の村を出てかれこれ五年、毎日のように戦いへ身を投じていたのだから。
しかし、俺が涙した理由はそれがすべてではない。
魔王討伐によって戦いが終わる、それ以外に歓喜した理由とは――。
「やっと……」
俺はそれを誰にも聞こえない声量で、小さく口にした。
「やっと、村に帰れるのか……」――と。
――要するに、俺はホームシックにかかっていたのだ。
何やら意味の分からない儀式に巻き込まれて、やれ勇者様だと祀り上げられて旅立つこと五年。ようやく俺は義務を果たして、故郷への帰還を許された。
そのことが嬉しくて仕方ない。
だから初めて、人目をはばからずに号泣したのだった。
◆
「おい、あのオッサンって……」
「あー……アレが有名な雑魚スライム狩りだろ?」
――聞こえてるぞ、おい。
俺は夏の日差しに額の汗を拭いながら、遠巻きに俺のことを揶揄する若者に内心でツッコミを入れた。見たところ新人冒険者のようだが、装備に着られている様がよく分かる。
そんな相手に悪口を叩かれ、さすがに少しだけムッとした。
しかし、それ以上に面倒事になる方が嫌だ。
「よい、しょ……っと」
だから俺はあえて聞こえないフリをしながら、作業を続ける。
森から調達した薪を納品するという大切な仕事だった。王都ガリアのように栄えている場所なら、きっと必要のない役割だろう。魔道具の類で明かりを灯し、暖を取れば事は済む。しかし田舎の、さらに田舎であるここカディアでは必須だった。
俺の故郷であるこの村には、そのように優れた品などない。
あるのは目に優しい緑、青い空に綺麗な水。あり余る自然に囲まれ、とにかく空気が美味しい。しかしそんな場所が、俺はとかく好きで仕方なかった。
「あぁ、ウィリスさん。今日もありがとうね」
「気にしないでくれ、ミランダさん。……腰の具合はどうだい?」
「お陰様で。貴方に貰った薬で、かなりマシになったよ」
「そりゃ、良かった」
そう考えていると、薪の納品先の家主であるミランダ婦人が現れる。
彼女は朗らかに笑いながら、何度も頷いていた。俺はそんな相手の様子に安堵と、どことなく心地良さを抱きつつ、薪を所定の位置へと運び込む。
「それにしても、こんな辺鄙な場所にいて良いのかい?」
「…………ん?」
そうしていると、ふいにミランダさんがそう口にした。
俺が首を傾げると、彼女は少しだけ困った様子でこう続けるのだ。
「だってウィリスさんは、元とはいえ勇者様だろう? それなのに、こんな片田舎で毎日雑用や、スライムの駆除ばかり……」
……勿体ない、と言いたいのだろうか。
あるいは『自分たちのような者に構わなくても良い』のだと、そう言いたいのかもしれなかった。たしかに、そのように告げられることは多い。
俺はミランダさんの語るように、魔王討伐を果たした元勇者だ。
しかし、カディアでそれを知るのは一部の者だけ。
「良いんですよ。俺は、それで」
「でも、王都に行けばもっと良い暮らしができるのだろう?」
そんな彼らにとっては、俺の行動は不思議で仕方ないのかもしれなかった。
何せ自分のやっているのは、そのまま奉仕活動に他ならないのだから。とても世界を救ったとされる勇者の行動とは思えない。そのことは、俺が誰よりも理解していた。
だけど、俺はこれで良いのだ。だから――。
「俺にとっての一番の暮らしは、ここでの生活ですから」
意にも介さず、そう答える。
俺は、これで良い。
たとえ『雑魚のスライム狩り』と揶揄されても、構わなかった。
何故なら世界の命運よりも、俺は平凡無事な生活を望んでいるのだから……。
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