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「ごめん!遅れた」


集合時間を10分遅れで到着した私は先に来ていた3人に頭を下げる。

決して寝坊したとか、集合時間を間違えてたなんてわけではない。色々あったのよ、色々。でもそんな私の苦労を知る由もない友人の一人は不機嫌そうな声で私を迎え入れた。


「今、ちょうど30分。遅れてはないけど、ギリギリだ。もう少し余裕もってこいよ」


その友人…佐々倉が自分の腕時計を見て私を睨んだ。


あれ、10分遅れじゃないの?もしかして、私の腕時計狂ってる?


「仕方ないじゃん。私の家がここから1番遠いんだから。それにねえ、私だって好きでギリギリに来たわけじゃないの。さっきまで色々立て込んでて…」

「言い訳を聞きたいわけじゃ…」


遅れてもいないのにかかわらず、不機嫌な佐々倉の態度にムカついてついつい言い訳を並べてしまった。


「まあまあ、2人とも落ち着いて。莉奏、走ってきたから髪も服もボロボロだよ。ちゃんと直さないと。で、翔和。ギリギリだったかもしれないけど、遅れたわけじゃないんだから許してやりなよ」

「そうそう。別に時間に遅れたって減るものはないんだし。それより、早くケーキ食べにいこーよ」


愛華と美蘭乃が調和をとってくれたお陰で佐々倉は不服そうな顔をしながらも、口を閉じた。


「ちょっと、莉奏?色々とボロボロだって。女の子なんだから身なりをちゃんとしないと!」


歩き出そうとすると、美蘭乃が私を引き留めて、髪や服を整えてくれた。


「さーて、あれがケーキ屋かな?莉奏、早く行こー」


美蘭乃から解放され、愛華にケーキ屋のワゴンの場所を聞こうとしたらいつの間にかケーキ屋のワゴンを見つけていたらしい美蘭乃から再び手を引っ張られた。


美蘭乃って華奢な見た目に反して力が強いから抵抗しようにも出来ないんだよね。なーんて思いながらされるがままにズルズルと引きずられてワゴン車へ……ん?


「待って!」

「どうしたの?莉奏」


私が唐突に大声を出して美蘭乃を静止させたもんだから、3人の視線が一気に私に集まった。


「あれ、何?」


私の人差し指を追うように3人の視線は動いていく。


「……洞窟?」


愛華が言ったように私の指が指し示した先には、ちょうど私達が入れるくらいの大きさの穴がある。防波堤として高く積み上げられた石垣の一角がぽっかりと開いていた。何だか地下に繋がってそうな雰囲気だ。


「あんな穴、あったっけ?」


ここら辺によく来ると言っていた愛華が呟く。


「行ってみよーよ!ケーキ屋はその後で行けばいいし。気になる!」


美蘭乃が駆け足で穴に向かっていった。


確かに気になる。普通そういう穴があったら誰しも気になると思うんだけど、その穴がつい先日まで無かった可能性があるとなると余計に好奇心がくすぐられる。


けど、あの穴の先に何があるか分からない以上入るなんて怖すぎる。真っ暗闇で奥の様子が分からないのだ。もしかしたら進んでいる途中で真っ逆さまに落ちることだってあるかもしれない。今はもう日も落ちそうだし、勿論懐中電灯だって持っていない。足元が見えないのは危ない。


そんなことを考えていると、美蘭乃がいつの間にか洞窟に足を踏み入れる直前の状態になっていた。


「ちょっと美蘭乃!?危ないよ!」


引き留めようと美蘭乃に呼びかけたけど、止まらない。声に反応する気配もない。


「美蘭乃?」


愛華達も彼女の異変に気がついたのか、慌てて駆け寄って、肩を叩いて大丈夫?と呼びかけた。


「美蘭乃!?しっかりしてよ!ねえってば!」


愛華が突然美蘭乃の前に立ちふさがって、肩を揺さぶり始めた。美蘭乃の頭は落っこちちゃいそうなくらいに激しく前後に揺れてる。


そんなに揺さぶったら危ないよ!そう言おうと開けた口を閉じた。愛華が立ち塞がってるのに加え、頭を揺さぶられているのに、奇妙なほど足はゆっくり、ゆっくりと前へ前へと進んでいた。


「ねえ、どうしよう!?ミラの目に生気がないの!」


愛華はいつにもなく焦った表情で私を見た。


生気がない?生気が無いってどういうこと?何で、突然そんな状態になったの??


私が色々と戸惑っている間にも、美蘭乃は愛華の制止に耳を傾けることもせず、洞窟へと踏み入り、奥へ奥へと進んでゆく。


幸いまだ真っ逆さまに……なんてことは無いけど、洞窟の先が見えないからこの先に万が一があってもおかしくない。


私の本能が進ませては駄目だ。と警告の鐘を鳴らす。


「まるで何かに操られているみたいだな……」


必死に美蘭乃を止めようとする愛華の横で、じーっと美蘭乃の様子を見ていた佐々倉が呟いた。


真っ暗だけど、みんな美蘭乃の周りに集合しているから表情こそ見えないけど、辛うじてどこら辺にいるかは分かる。


「美蘭乃が!?何でよ!」

「どうして、操られるの!?」


若干パニックになっている私達は佐々倉に問ただす。


「落ち着け。俺に分かるわけないだろ。とにかく、止めないとやばいかもしれない。この先、何があるのか……」


佐々倉は単調な声で答えているけど、声が震えていた。内心焦っているのかもしれない。


とにかく美蘭乃を止めないとまずい。


そう本能で理解した私は美蘭乃の肩を揺さぶる。


「美蘭乃、しっかりしてよ!」


愛華と佐々倉は手を引っ張って何とか歩みを止めようとしているけど、どの抵抗にも美蘭乃は反応しない。


機械的にただ洞窟の奥へと足を進めている。


私は肩を揺さぶるのをやめて美蘭乃の前に立ち、美蘭乃に抱きつくことで全身を使って進むのを阻止しようとした。けど、力が強すぎて止まらない。元々力が強いけど……ここまで強くはないはず。いつもの力の倍、いやそれ以上の力を感じた。


「……水の音?」


ふと愛華が呟いた。


「えっ?…本当だ……。ねえ、潮の香りも強くなってない?もしかして、この先って……」


耳をすますと僅かに水が波打つ音が洞窟の奥から聞こえて、潮のしょっぱい香りが鼻をくすぐってきた。


「有り得ない。方向的に海の方には行っていないはずだろ」


私が何を言おうとしたのか読み取ったのか、佐々倉はやや食い気味に、自分に言い聞かせるように、有り得ないと繰り返す。


暗すぎて前も後ろも横も上も下も全く見えない。もう間近にいるみんなのことも見えなくなっていた。


一体洞窟に入ってどれくらい進んだ?


美蘭乃を必死に押さえていたからもう何メートル進んだかなんて分からない。きっと愛華達に聞いても同じだ。


…あれ?道が無くなった?


突然、踏ん張っていた足の感覚が消えた……と思った瞬間


「きゃあっ!!」


ジェットコースターが高い所から落ちる時みたいに心臓が浮く感覚を覚えながら、落とし穴にはまったかのように、真下に落ちた。


穴に落ちたかと思いきや、そうではなかった。

水に落ちたのだ。プールで飛び込んだ時のような感覚は無かった。気がついたら水の中にいた。いつの間にか周りが水で満たされていた。


なぜ突然水の中にいたの?やっぱり勘が的中してしまった……なんて考える場合じゃない!


もがいても、もがいても浮遊してくれない。下に落ちていくだけ。着衣水泳の時のように服がベタベタ肌にまとわりついて、その重みで下に落ちているような感じではない。まるでなにかに導かれるように下に、下に……


他の皆も私と同じように落ちたのだろうか。


そう思って目を開いてみると、ぼやけた視界に三人のシルエットが浮かび上がった。


三人とも私と同じようにもがいている。


完全にパニックになっていて、皆それぞれに気がついていない。


美蘭乃も様子からしてどうやら正気に戻ったみたいだ。


どうする?


とにかく、上にあがらないと皆溺死してしまう。


あと全員離れちゃまずい。


私もパニック状態にあるのに、どこにそんな冷静な脳があったのか、様々な考えを巡らせてとりあえず三人の手を掴むことに決めた。


幸い近くにいたから手を掴むのは簡単だった。


よし。これであとは上にあがるだけ。着衣水泳は何回もしてからコツは掴んでる。使えるかは微妙というか意味無いってことは目に見えてるけどやるしかない。


訓練を思い出して、既に意識を失っている三人の手をしっかり握ってもがくのを止め、力をぬく。


三人は意識を失ってて力が入っているはずがない。私は習った通りにやってる。一回実践した事もある。


それなのに…。それなのに、体は上に上がるどころか下に落ちていく。


まるで、何者かに引きずり込まれているように…

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