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第3話
「失礼ながら金谷川様、いったい何の『犯人』のことでしょうか。私どもが知らぬうちに、この近くで事件が起きているのですか?」
部屋の隅から発言したのは、緑原家に仕える使用人夫婦のうち、夫の方だ。尤もな質問であり、招待客たちの何人かが頷いている。
「いえいえ、そうではありません。ただ……」
聡一郎は、照れ笑いを浮かべながら頭をかく。
「陸の孤島になってしまいましたからね。何か起きそうでしょう? その場合、事件を未然に防ぎたいのです」
「事件を未然に……。そのお気持ちはわかります」
今度は使用人夫婦の妻が口を開く。彼らは以前の『緑原家連続殺人事件』で、大切な一人息子を失っていた。犯人を目撃したことが理由の、偶発的な犠牲者だった。
もしも事件を途中で止められたら、死なずに済んだはず。その意味では、自分はこの老夫婦に恨まれているかもしれない。いやそれを言うのであれば、この場の全員から恨まれてもおかしくはない。
聡一郎が内心で自嘲したタイミングで、バチッと音がして、部屋が真っ暗になった。