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「商人2人と傭兵。皆、小規模な商売をしてた。覚えがあるだろ?」


「………」


「この3人はある日、突然、煙のように姿を消した。全員が最後に依頼主と会っていたらしい。その依頼主は偽名を使った爺さん、あんただよな?」


「知らん…」


「いいや、それ以外は考えられない。3人はあんたに首飾りを渡したから、消えちまったんだ」


「わしは知らん…」


「あんたは本来なら自分が受けるはずの呪いを反転アイテムで逃れた。そして、まんまとネックレスを4本、集めたんだ。とうとう、あと1本。哀れな最後の犠牲者が、この俺ってわけ」


 ギリアムがシニカルな笑みを浮かべる。


「知らん! 知らん、知らん! とにかく、わしは金を払ったんじゃ! 早く、その首飾りを寄こせ!」


 老人はギラギラと妖しく輝く瞳で、ギリアムをにらみつけた。


 まるで枯れ枝の如き右手をネックレスに伸ばす。


「寄こせ…寄こせ!」


「なあ、爺さん」


 ギリアムは今度は左手を引っ込めず、優しく諭すように呼びかけた。


「そんなに先の長い人生じゃないだろ? 他人の命を奪ってまで、良い思いをしたいのか?」


「お…お前のような…」


 老人の指がギリアムの持つ首飾りに迫る。


「若造には分からん! わしは…わしは死ぬ前に…今までの不運を全て取り戻すんじゃ! そうでもなけりゃ、やってられんわぃ!」


 もはや「知らない」と言い張っていたことも忘れ、老人はさらに手を伸ばす。


 その指は首飾りの寸前にまで達した。


「よく聞けよ、爺さん。最後のチャンスだぜ。もう一度、考え直せ。その欲、本当に爺さんの望みなのか?」


「うるさい! ああ、そうじゃ、これこそがわしの望み! この首飾りがわしのひどい人生を変えるんじゃ!」


 老人は叫び、半ばもぎ取るようにネックレスを奪った。


「ひひひひひ!」


 老人が気味の悪い笑い声をあげる。


 椅子から立ち上がり、勝ち誇った表情でギリアムを見下ろした。


 まるで青年に若返ったように背筋が伸び、双眸が爛々と輝いている。


「やった! やったぞ! ついに揃ったんじゃ!」


 懐から残り4本の首飾りを取り出し、最後の1本と合わせて高々と(かか)げた。


「爺さん、幸運の発動は呪いが終わった後だぜ」


 ギリアムが口を挟む。


 ひどく悲しげな口調。


「呪い? 呪いはお前にやる! この指輪の魔力で」


 老人が左手にはめた指輪をギリアムに突き出して見せた。


「お前に跳ね返るんじゃ! 今までの3人のように消えてなくなれ、馬鹿者めが!」


 そう言った老人の笑みが突然、凍りついた。


 ゆっくりと差し出されたギリアムの右手の薬指に、自分の指輪とよく似た物がはめられていると気付いたからだ。


「爺さん、俺は魔法の専門家に首飾りの話を聞いたんだぜ。何の対策も無しにそいつを渡すと思うか?」


「う…嘘じゃ…」


 老人が呻いた。


 絶望が(にじ)んだ弱々しい声。


 一気に老け込んでいた。


「反転アイテムの効果は1度きり。まず、爺さんの呪いは反転して俺に。俺が反転した呪いは爺さんに戻る。あんたの指輪は、もう反転できない」


「ああーーー! あああぁぁぁー!」


 老人が絶叫した。


 その下半身は、いつの間にか半透明になっている。


「嫌じゃーー! こんな、こんな最後は! 違う、違う違う違う!」


 半狂乱の老人にギリアムの冷たい眼差しが向けられる。


「あんたが殺した3人も、きっとそう思ったろうな」


 しばらく後。


 完全に消失した老人の居た場所に、5本の首飾りだけがひっそりと輝いていた。


「爺さん」


 もう居ない老人にギリアムが呼びかける。


「その欲、高くついたな」






 





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