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ギリアムがミリーを何とか引き離し、少年を手招く。
「こんにちは、セオ」
やっと、ミリーが挨拶した。
セオは首を左右に軽く振り、口を尖らせる。
「まったく、いい大人が…ミリー姉ちゃん、恥ずかしくないの?」
ミリーが椅子から立ち、セオの動きやすさ重視の布服の乱れた襟元を綺麗に整えてやる。
「ふふーん、全然恥ずかしくないよー。何、何、カサンドラには恋人同士がイチャイチャしちゃいけないって法律でもあるわけ?」
「ちぇっ。せめて子供の前ぐらいは節度を保ってよ」
「セオが子供!?」
ミリーが笑う。
「何だよ! どう見たって子供だろ?」
「えー? ならず者たち4人とナイフ1本で渡り合う子供?」
「ちょっ、それは子供かどうかと関係ない! オレが言ってるのは年齢」
「はいはい、もういい!」
ギリアムが両手を打ち、2人が口を閉ざす。
セオがギリアムの対面の席に座ると、ミリーは元の位置に腰を下ろした。
ギリアムが机の上に1枚の紙を広げる。
そこには首飾りの画が描かれていた。
極めて写実的で、まるで実物のようだ。
「何これ?」とセオ。
「昨日、受けた依頼だ。ある爺さんがこれを探してる」
ギリアムが人差し指で床を指す。
「カサンドラの地下道のどこかにあるらしい。充分な報酬を約束してくれた。前金も貰ってある」
「へー」
セオが画をしげしげと眺める。
「そういうの珍しくない?」
「確かにな」
ギリアムが頷く。
「どこかで俺の噂を聞いたらしい。自分でいろいろ手配するのが面倒だそうだ」
「ふーん」
セオが画をミリーに渡す。
「綺麗なネックレス!」
ミリーが顔を綻ばせる。
「探せるか?」
「本気で言ってるの?」
セオが肩をすくめた。
「地下道を行き来するストリートチルドレンで、オレが知らない奴なんか1人も居ない。あいつらが見つけられないなら、その首飾りは地下道には存在しない。断言できるよ」
「確かにな。何日かかる?」
「うーん」
セオが顎に手を当てて、考え込む。
「1週間…ボーナスがあれば2日は早くなるかな」
ギリアムが懐から小さな袋を出し、セオの前に置く。
ジャラッと音が鳴った。
セオが袋を懐にしまう。
「それと」
ギリアムが続けた。
「首飾りを見つけても、絶対に触らせるな。これは徹底しろ。そのままの状態で俺にまず報告」
ギリアムの真剣な眼差しに、セオが癖っ毛をイジリながら、クスッと笑う。
「やっぱり、何かあるんだ。面白そう!」
「笑いごとじゃない。お前の仲間を危険に遭わせないためだ。絶対に守らせろ」
「了解」
セオが席を立つ。
「じゃあねー」
ミリーが手を振る。
セオはそれに軽く手を振り返し、部屋を出ていった。
「さあ」
ギリアムが両膝を両手でポンッと叩く。
「イチャイチャする!?」
「せん!」
断言したギリアムが「サントスー!」と呼ぶ。
セオが出ていったドアから、禿げ頭の大男がヌッと入ってきた。
ギリアム商店の番頭、サントス、35歳。
筋肉質な身体を小さくして、ギリアムの前に立つ。
「お呼びですか?」
ギリアムが首飾りの画をサントスに渡す。
「至急、マーリンと連絡を取ってくれ。この首飾りの情報が欲しい」
サントスは無言で画を受け取り、会釈して部屋を出ていった。
「マーリンって?」
ミリーが訊く。
「知り合いの魔法使いだ。魔法道具関係なら知らないことはない」
「へー、すごい」
感心したミリーが、首を傾げる。
「ん? どうしてネックレスを調べるの?」
「ああ」
ギリアムがニヤッと笑う。
「念のためさ」
「………何か心配?」
「用心深さは常に必要だ。さもないと」
「さもないと?」
ギリアムが自分の首を右手親指で掻き切る仕草をして見せる。
「あっという間に終わる」