作戦会議2
スイレンと共に外に出ると、さっきまで集まっていた国民たちは、もはや家とは呼べない日差しを遮るだけのバラックの下でみんな横になっていた。動くのも辛いんだろう。
私の姿を見ると、みんな気力を振り絞って立ち上がろうとするので、「休んでて! 命令よ!」と王族の権限を使って休ませた。
バラックの横を民たちの視線を浴びながらスイレンと共になんとか歩き、畑に向かってもう一度トウモロコーンを詳しく見てみる。生育状況から、やはり水も栄養も足りないようだ。
しゃがんで土を掘ってみると細かな砂状で、どこまでもサラサラとした、土と呼んでいいのか分からない赤い土が続いている。水分もほとんどない。
「カレン、何か分かったのか?」
いつの間にかお父様とお母様、そしてじいやが後ろに立っていて、お父様に質問された。
「……土が悪すぎる。この土を変えなきゃ、作物も植物も育たない。あと水が圧倒的に足りない」
至極当たり前のことを言ったつもりだったけど、それを聞いたみんなに驚かれた。かなり豊かな森に住んでいたせいか、土に良し悪しがあるのを知らなかったようだ。
そして森はそれなりの降水量のあったらしく、植物に水をやるという感覚もなかった。森での常識はここでは通用しない。
そのことを告げると、お父様が口を開く。
「なるほど……土の色が違うだけかと思っていたが……そんな違いもあったのか……」
「うん。森の土は黒かったんじゃない?」
そう聞くと、お父様もお母様もうなずく。
「私がいた世界と同じとは限らないけど、土には目に見えない小さな微生物ってのがいて、それらが朽ちた木や葉っぱを分解して栄養にしてくれているの。でもこの土にはほとんどいないと思う」
サラサラの土を手に載せ、それを見つめながらそう言うと、みんなが驚きと無念さが入り交じった溜め息を吐いた。
「……大丈夫。私、決めた。この土地に森を作る。その為に土を作るよ! そしたら作物もぐんぐん育つから!」
「そんなに簡単に土が作れるのか?」
決意を口にしても、到底信じられないような話のせいか、呆気にとられたお父様に代表して聞かれる。
「簡単ではない……かな。でもいくらかは木が生えていたんでしょう? 可能ならその切り株や根を掘り起こしたい。あとは今生きている植物や木を探したい」
私の言葉にお父様たちや民たちは、顔を見合わせている。
「そうか……カレンがそう言うのならやろう。最近では体力を使わないように、水汲み以外はほとんど動かないようにしていたからな。なんたって食事も一日三回に減っていたからな」
苦笑いで話すお父様の話に思考が止まる。
「……食事が減って……一日三回?」
そう聞けば、元々の食事量は一日に五回〜六回だったそうだ。どれだけ食いしん坊なんだと思って、思わず微笑みながら空を仰ぎ見る。すると太陽が先ほどからほとんど動いていないことに気付いた。
疑問に思い一日の時間を聞くと、四十八時間と言う。地球の二倍ではないか。呆然としてしまった。
さらに平均寿命を聞くと、この世界では二百歳前後と言う。けれど、この国には百歳を超える人がほとんどいなくなってしまったとお父様は言う。
こんな状況だから、体力が弱っている人から亡くなっているんだな……。この状況を変えなきゃいけない。私には貧乏暮らしのノウハウが豊富にある。やってやろうじゃないか!
「そういえば、このトウモロコーンの葉っぱや茎はどうしているの?」
ふと疑問に思ったことを口にした。
「茎は水分補給の為にかじっております。……とはいえほとんど水分はありませんが……。葉っぱは尻拭きに使っておりますよ?」
尻拭き……? そうだった。トイレに行くと、なんか固くて使いにくいと思ってた。だとすればトイレも考えなきゃいけない。確か、ただの穴を掘ってしてたよね?
「紙はないの?」
女子には大切なトイレ事情を思い、真顔で質問をする。
「紙など! 高級すぎて王室くらいしか使えませんよ! シャイアーク国の王室ですら、余程のことがない限りほとんど石版に文字を刻んでおりますよ?」
まさかの石版発言に唖然とした。うん……材料さえ確保したら作ってやるわよ……もちろんトイレもね。
考えることが増えて、頭がキャパオーバーした私は唐突に話題を振った。
「今から川に行くことは出来る?」
「カレン……頭が疲れちゃったんだね」
スイレンは苦笑いで私の頭を撫でる。さすが双子の弟だけあって見抜かれてる。
「ちちち違うわよ! 川を確認したいだけよ!」
慌ててそう強がれば、お父様とじいや、そして見たことのないものを見たいというスイレンと一緒に川へ行くことになった。
私は自力で歩くと駄々をこねたけど、当然ながら病み上がりだからと説得され、使い込まれた荷車の荷台にスイレンと共に載せられた。
荷台には水を入れる為の革の袋の他に、私が何かを見つけ、持ち帰る為の袋や入れ物を用意してもらった。けれどそんな私に、お父様もじいやも「この土地には何もない」と言う。
何もなければ仕方がないけど、これは私の冒険の始まりだ。初めての外の世界を、思ったよりも怖がることなくはしゃぐスイレンと一緒に、この世界を知るために冒険に出た。




