カレンとヒイラギの織機作製
さて胡椒が出来たとあらば、塩胡椒で食べたい料理はたくさんある。あれやこれやと料理について考えているとヒイラギがやって来た。
「姫、頼まれていた物が出来たよ。確認してほしいな」
「本当!?」
どうやら綿繰り機が完成したようで、ヒイラギと共に材木置き場へと向かった。二人とも足取りは軽く、まるでデートを楽しむカップルのようだ。……と、これはナズナさんに失礼ね。
「設計図に限りなく忠実に作ったよ」
材木置き場へと到着したヒイラギは、自信満々の表情でそう言った。指さす方を見れば、切り株を使った台の上に真新しい綿繰り機が置いてあった。
「触ってもいい?」
「もちろん」
綿繰り機の側に行き、そっとハンドルを回してみる。難しかったであろう『はすば歯車』の部分はしっかりと噛み合い、ローラー部分はスムーズに動く。
「すごいわヒイラギ!完璧よ!」
「姫の期待に応えられたなら何より。あとね、姫の性格を考えて他に三つ程作ってあるから」
いたずらっぽく笑うヒイラギに驚いたが、今まさに「もう一つ欲しい」と言うところだったのだ。苦笑いで誤魔化す私を見てヒイラギも笑う。
「まさかこんなに完璧に作ってくれるとは思わなかったわ。黒板とチョークンを貸して?」
手渡された黒板の綿繰り機の設計図を消し、新たな設計図を描く。本当なら「あれ」も欲しいのだが、もう間もなくテックノン王国製の物が手に入るのでそれは諦めることにする。今描いているものはヒイラギが欲していた織機だ。だけれど大型のものではなく卓上用の小さなものを描いている。そして綿繰り機が出来たので糸車の設計図も描く。
織機は卓上とは言っても幅広の大きなサイズで、簡易のものではなく綜絖という経糸を上げ下げさせる重要な装置付きのものを設計する。織った布は手前で巻いていけるようにし、緯糸を通す杼、シャトルといったほうが馴染み深い道具や緯糸を整える櫛も一緒に作ってもらう。
美樹は子どもの頃にフリーマーケットで格安で手に入れたおもちゃの織機を大事に使っていて、余った毛糸でいつも小さな作品を作っていたのだ。なので構造は熟知している。それを幅広く描いただけだ。ただ美樹の持っていたものは太い毛糸用だったので、経糸を通す溝や綜絖はかなり細かく描いた。
糸車については綿繰り機を持っていた美樹のご近所さんが所有していたので、これも使い方も構造も分かる。綿花の収穫時期になるといつも手伝わせてもらっていたのだ。
「……と、こんな感じで分かるかしら?」
黒板に描いた設計図をヒイラギに渡す。しばしそれを眺めていたヒイラギはニッコリと笑いながら顔を上げた。
「やり甲斐があるね。任せて。ただね、一つ質問があるんだ」
ヒイラギに問われた私は「何?」と聞き返す。
「この糸車があればもっと早く糸が作れるんでしょう?ならオッヒョイやチョーマの糸も簡単に作れるんじゃない?」
「そうね、そうなんだけど、オッヒョイやチョーマの糸は頑丈でしょう?糸車のほうが負けて壊れるって聞いたことがあるの。スピンドル……紡錘は持ち運びも容易だからどこでも糸を作れるという利便性もあるし」
そう言うとヒイラギは顎に手を当て考え事をしているようだ。
「ならそれに負けない硬い木材で作ってみよう。壊れたらその都度その部分を直したり作り直したりすればいいと思うよ。だって木材は豊富にあるんだから」
ヒイラギは笑顔で森を指さす。そうか。日本のように壊れたらどうしようとか、修理代をどうしようと考えなくてもいいんだ。そう思うと気が楽になった。
「そうよね……ヒイラギがいれば何かあっても安心だものね」
思ったことを口にすれば、ヒイラギは真っ赤になり私の前で初めて動揺をしている。
「姫……照れるからやめて……」
そうして両手で顔を覆い赤い顔を隠そうとしている。予想外の行動に笑ってしまった。
「もう!じゃあ早速作るから」
照れたヒイラギは走り去ってしまった。と同時に後ろから声をかけられた。
「……仲がよろしいのですね……」
驚き振り向くと、そこにはコンポストの蓋を完成させたオヒシバが無表情で立っていた。どこかもの悲しげにも見える。
「まぁ!蓋が完成したのね!オヒシバ、一緒に蓋をしに行きましょう!」
なんとも言えない表情のオヒシバに、無理に明るく笑ってそう言えば少しだけウキウキとした顔になりホッとする。オヒシバたち四人組はとても良い人たちなのだが、特に私に対してコミュ症を発症してしまうのでたまにどうしたら良いのか分からない時がある。
綿繰り機を抱え無難な会話を一方的にしながら、いや、ほぼ独り言を言いながらコンポストの場所まで行き、コンポストに蓋をする。
「すごいわオヒシバ!ピッタリよ!上手ね!」
オヒシバをとにかく褒めまくると、嬉しそうにモジモジとしている。私は苦笑いにならないように必死で笑顔を作った。彼ら四人組とのコミュニケーションはこれで正解なのかもしれないと秘かに思ったのだった。




