カレンのリベンジ
粘土を捏ねて捏ねて捏ねくり回し、程よい硬さになったところで木枠を用意する。空気を入れないようにその木枠に粘土を詰め、まだバケツに残っている水を手に付けて表面を軽く濡らし近くにある砂をさらっとまぶす。そしてそっと木枠を外すとレンガの完成だ。
「あとは同じ物を作って干せば、日干しレンガの出来上がりよ」
シャガとハマスゲは感動と尊敬の眼差しで私を見つめ、それからレンガを干すスペース作りやデーツの葉を細かくちぎったり水を汲んで来てくれたりした。私が最初に水を汲んだ場所で粘土を採取した痕跡を見つけたようで、バケツにそれを入れて来てくれた。ただ日干しレンガを作るにはこれは入れなくても良いのだが、ちょっと試してみたくて入れることにしたのだ。途中からは二人も作業を手伝ってくれペースが早くなる。
楽しい作業は集中し過ぎてしまい、声をかけられるまで時間の経過に気付かなかった。何か周りが騒がしいと思い顔を上げると、水路建設チームと樹皮加工チームが集まっている。そろそろ夕方だからと私たちを呼びに来たらしいのだが、いつの間にか大量に作られていた日干しレンガを見て騒いでいるようだった。
「これはカレンが作ったのか!?」
「あ……お父様。私だけじゃないわ。シャガとハマスゲも作ってくれたのよ」
こちらの二人も初めての作業にハマってしまったらしく、私同様自分たちで作ったレンガの数に驚いている。三人で夢中で作ったレンガは乾燥により少し縮み一般的なレンガの大きさに収縮していた。大きめに木枠を作ってもらって正解だった。
「でもねお父様、まだ終わりじゃないの。一度広場に持って帰りましょう」
そうなのだ。美樹が小学生の時に作ったレンガはここで作業を終わらせたのだ。一般的に日干しレンガは雨の少ない地域で作られ使われる。雨と湿気の多い日本で、しかも小学生が作ったのはそもそも失敗だったのだ。だが今は全ての条件が揃っている。
シャガとハマスゲを中心に先に作られたレンガを荷車の荷台に敷き詰め、その上に作られた順にそっとレンガを載せる。私とシャガ、ハマスゲは他の人たちが使い終わった空のバケツや樽などに地面下の粘土や川原の粘土を詰め込む。それも荷車に載せ、建設チームの荷車も加工チームの荷車も荷台の一部を空けてもらい、そこにもレンガを積み込み全員で広場へと戻った。
広場へ戻るとレンガの完成をみんなが喜んでくれるが、完成ではないのだ。
「みんな喜ぶのはまだ早いわ。まだまだこれからなのよ」
苦笑いでそう言うと動揺が広がる。日が暮れる前に作業を終わらせようと思い、私はレンガを降ろしてもらうように頼み、その中から乾燥が進んだ物を選ぶ。広場から離れた場所のクローバーを強引に引っこ抜き地面を露出させ、そこにレンガを積み上げて行く。あえて隙間を開けるようにして下部は積み、外周は隙間が出来ないように積んでいく。中は隙間を開けつつも物が置けるようにして積み上げ、子どもの背丈の高さ程に積み上げた外周の上半分だけに水で練った泥を貼り付ける。この時点でほとんどの日干しレンガが無くなった。簡易の窯の完成である。
次に焚き木や薪を分けてもらい、火種を起こしてもらって窯の下部に火をくべる。あとは火を絶やさずにしばらくこのままだ。それが終わればしっかりと乾燥した窯になる。実際には数週間じっくりと乾燥させれば火にも強くなるらしいが、ここまで作ってしまったら早く次の段階に進みたい。
時折追加の焚き木を入れたりしながら食事の準備を手伝い食事を済ませてしまう。少々行儀が悪いが早食いをし、食器の片付けをまだ食べているスイレンにお願いし簡易の窯の確認に向かう。
窯の周りをぐるりと一周し問題がないかを確認する。火は燃え尽きそうになっており、外側のレンガも特に割れたりひびが入ったりはしていないようだ。焚き木用の枝を手にし、レンガを叩いたりつついたりしてみるが問題なさそうだ。窯の上部に貼り付けられた泥もそのまましっかりと乾燥しており、どうやら問題なく完成したようだ。火はこのまま放っておいても間もなく消えるだろう。
いつの間にか近くにはお父様やじいやを始めとした男性陣が興味深そうに立っていた。振り向くとワクワクとしたようにお父様が声を上げる。
「カレンよ!完成したのか?」
「えぇ。最高の仕上がりよ」
私の返答に拍手と歓声が巻き起こる。
「おぉ!ではこれで……」
じいやが意気揚々と声を上げるのを途中で制する。次に言う言葉が想像できたからだ。
「完成したのはレンガを作る為の窯よ」
いたずらっぽく笑うとみんなは理解が出来ていないようで困惑している。
「私が求めているレンガはこの日干しレンガではないの。でもこれはこれでちゃんと使える物だから、みんなも必要であれば言って。今日はもう暗くなってしまうから、明日からが本当のレンガ作りの開始よ」
私は握りこぶしを作り決意を新たにする。今この世界での年齢は小学生の時の美樹とそんなに変わらないが、美樹が死亡するまでに溜めた知識でそれを凌駕してやるわ。




