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ヒーズル王国

 恐る恐る建物から外に出ると、久しぶりに感じる日の光を眩しく感じる。一瞬目が眩み目を瞑ると、お父様に肩を抱かれた。


「カレン様!」「スイレン様!」「大きくなられて……」


 そんな声が多数聞こえ、声の主を探そうとゆっくりと目を開けると、目の前に既にたくさんの国民がいた。いたけれど、どの人も痩せこけボロをまとい、明らかに健康そうな人はいなかった。子供の数も極端に少ない。


 その国民の後ろにはバラックのような建物が点々とし、あまりの光景に私は自然と涙を流してしまった。

 それを拭うことなく空を見上げれば、雲一つない真っ青な空が私たちを見下ろしていた。そして周囲を見回せば、日本ではほとんど見ることのない赤い土や砂の大地に草木が一本も生えることなく、視界の隅から隅までどこまでも広がっていた。


「……どうして……どうして私とスイレンはぬくぬくと何も困らずに生きてきて、どうしてみんなはこんなに痩せているの!?」


 気付いてしまった。私とスイレンは痩せ型ではあるけど、いわゆる標準体型だ。左右をよく見れば、お父様もお母様もじいやもかなり痩せていた。私が感情のままに声を荒らげると、一人の老婆が一歩踏み出した。


「泣かないでくだされ。大きくなられましたなカレン様、スイレン様。お二人の未来を占いました婆でございます」


ボロボロの服を身にまとい、しわの刻まれた顔を笑いじわに変え、占いおババさんは私たちに一礼をし話し始めた。


「どうか泣かずに、怒らずに。私たちは今この時のために、お二人を大事に大事に守ってまいりました。これは私たち民の真意でございます」


 笑顔で優しく諭すようにおババさんは話す。歌っているかのような話し方は、私の心をほんの少し落ち着かせた。


「……食べ物も衣服も私たちにくれたのね……? あなたたちは食べ物はどうしているの……? 動物は……?」


 涙を流し、震える声で私は問いかけた。


「……ほとんど動物がおりませんでしたが、私とモクレン様とで狩り尽くしました。目に見える範囲に生えていた少量の草は、私たちが全て食べ尽くしました。エサがなければ動物も参りません。そもそもまだいるのかどうか……」


 じいやの言葉にまた両目から涙がこぼれた。どれだけひもじい思いをして、この国の人たちは暮らしているんだろう。ついに私は両手で顔を覆ってしまった。


「私は……ヒック……ただの小さな子供で……みんなを救う力はない……! ……けれど、みんなにはない知恵がある……だからその知恵を……グスッ……みんなの為に使う!」


 私は涙を拭いながら顔を上げた。涙で視界がボヤけ、前なんて見えない。


「今日明日に幸せになれる訳じゃない……けれど……一年先、二年先、そしてみんなの子孫のために……この国を発展させよう……だからみんな……力を貸して……」


 泣きながらではあるけど、感情の赴くまま思ったことを口にした。貧乏ほど辛いものはないんだ。私とスイレンの為に、こんな生活を強いられてきたみんなの為に、私は一国の姫として恩返しをしなければならない。


「……じいや、国民の数は?」


「はい。こちらに来た時は三百人はいたかと思いますが、今は二百人いるかどうか……」


 あぁ……きっと病死だったり餓死したりしたんだろう……。前世の私と一緒だ。あんなに苦しい死に方はない……。この王国からはもう餓死者は出したくない……。


「……今の食糧の調達方法は?」


「はい。見様見真似で畑を作ってみましたが……上手くいかず……」


元々森の恵みをいただいて生活していた森の民は、里や農村の一般的な暮らしが分からないらしく、ましてやこの何も生えていない土地に来て相当苦労したのだろう。

 畑を見せてもらうと、バラックの陰に小さな畑が数個あった。


「栄養があると言われるトウモロコーンという野菜でございます。ですが年々実を付けなくなってまいりました」


 近付いてその野菜を確認すると、トウモロコーンは限りなくトウモロコシに似ていた。けれど背丈は大人の腰ほどの高さしかなく、土の表面は見るからに乾き、土……というよりも砂に近いせいか栄養はなさそうで、茎や葉はどう見ても水が足りず乾燥している。


「……水は? みんな水はどうしているの?」


 乾燥から連想した、生きる為に必要な水について聞いた。


「ここから西へ数キロほど歩きますと川がございます。動ける者は毎日水を汲みに行っております」


「汲みに? 川は洪水になったり氾濫しないの? 雨は?」


 私はじいやに矢継ぎ早に質問をする。


「洪水は一度もありませんでした。川は一定の水量を保ち雄大に流れております。雨は降らないこともないですが、森に比べるとかなり少ないですな」


 やること、考えることが多すぎて頭が追い付かなくなってきた頃、ずっと静かだったスイレンが口を開いた。


「……僕……なんとなくだけどカレンの考えていることが分かる。あと……ここが緑でいっぱいになる未来が見えた……気がする……。カレン、僕も頑張るからみんなでここを変えよう」


 そう言ってスイレンは私の手を握った。国民たちは口々に「預言だ!」と騒ぐ。今は村人にしか見えないこの人たちを立派な王国民にする為に、私とスイレンは家に戻り作戦会議を開くことにした。


「みんな! もう少し我慢して! 絶対に私が……私たちが幸せにしてみせる!」


 子供の戯れ言だと本気にしないだろうと思ったけど、国民たちは涙を流して喜んでくれた。彼らにとって、占いおババさんの言った『救世主』という言葉だけが心の支えだったんだろう。

 今この時から、私とスイレンは本物の救世主になろうと誓い合った。

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