達人
手持ち無沙汰になってしまった私は糸作りに参加しようと思い、みんなが輪になって座っている場所へと向かった。イチビたち四人はどうするのかと思っていたが、私に付いて来てしまった。それは別に構わないのだけれど、みんなとコミュニケーションを取れるのか不安に思っていたがどうやら杞憂だったようだ。
「みんなこっちに座りなよ!」
糸作りをしている中でムードメーカーのナズナさんは笑顔で手を振ってくれる。無口な四人組も「おう」等と言いながら腰を下ろし作業を手伝い始めた。私以外とは上手くコミュニケーションを取れるようである。
そんな様子が微笑ましいなと思いつつ私も腰を下ろし、糸を紡いでいる人たちを見回すと意外な人物が混ざっていた。私は立ち上がりその人の隣まで行き再度腰を下ろした。
「おババさん!体は大丈夫なの?」
「姫様、お気遣いありがとうございます。今日からおババも手伝わせていただきますぞ」
おババさんは血色の良くなった顔をくしゃくしゃにして笑う。初めて見たときは歩くのもやっとな程に弱っていたけれど、食べることに不自由しなくなってきたおかげかおババさんは日に日に元気になってきていたのだ。私は嬉しくなりおババさんに抱き着いた。
「一緒に作業が出来て嬉しいわ。おババさんも糸を作ってくれているのね」
おババさんはスピンドルを持って糸を紡いでいた。すると隣に座っていた民に声をかけられた。
「姫様、ジャスミン様は王国一の手芸が上手な方なんですよ」
おババさんの本名はジャスミンという名前のようだ。
「ほっほっほ。歳をとりましたから昔より技術力が衰えておりますよ。そのうちレンゲ様に追い越されるでしょう」
そんなことを言ってはいるが、今日初めて触ったであろうスピンドルを難なく使いこなし誰よりも早く、そして上手く糸を紡いでいた。
「おババさんの作る糸、すごく上手だわ」
「二百年くらい前にこの道具があれば良かったと先程から思っておりますよ」
二百年……おババさんの年齢が気になったが、あえて聞かずにスルーした。
みんなの手元を確認すると、樹皮を裂いたり糸にしたりとオッヒョイの木の糸作りばかりしている。振り返り樹皮を干している場所を確認すると、チョーマの繊維がたくさん干されているのに気付いた。
「ねぇ、私チョーマで縄を作ってもいいかしら?」
誰に問いかけた訳ではないが、みんな「もちろん」と肯定してくれたので、干し場からチョーマの繊維を持って来ておババさんの隣に座る。繊維が少し乾いているなと思っていると、横からすっと手が伸びてきた。驚いてその手の持ち主を確認するとそれはシャガで、バケツに水を入れて持って来てくれたようだ。
「ありがとうシャガ。本当に気が利くわね」
そう声をかけると照れたように頭を掻いて元の場所へと戻って行った。
私はバケツの水でチョーマの繊維を湿らせ縄をなっていく。すると隣にいたおババさんが手を止めその様子を見ていた。
「姫様、お上手ですね。どれ、おババも久しぶりに縄をなってみましょう」
おババさんはスピンドルを地面に置き、チョーマの繊維を半分掴み取る。私たちの間にバケツを置き二人同時に縄をなう。一心不乱に作業をしていると周りのざわめきに気が付いた。何かと思い顔を上げるとみんながこちらを見ている。どうしたのだろうと小首を傾げているとみんなの声が聞こえてきた。
「すごいわ」
「ジャスミン様と変わらない速さよ」
隣を見るとおババさんも手を止め辺りを見回している。すると反対隣に座っていた民に声をかけられた。
「姫様!皆驚いているのですよ!ジャスミン様と同じような速さで縄をなっているのに、ジャスミン様のなった縄と遜色ありませんもの!達人の域ですよ!」
「え?」
そう言われおババさんの縄と見比べて見るが、私からするとただの縄である。上手いも下手もあるのかと思ったが、散々だった自分の糸作りを思い出せばやはり得手不得手があるのだろう。
「私、やっぱり糸よりもこっちのほうが得意みたい」
そう言って笑うとみんなもつられて笑う。一人一人の顔を見て笑っていたが、いつの間にかイチビたちがいなくなっていることに気が付いた。
「あれ?イチビたちは?」
その私の疑問にナズナさんが答える。
「チョーマを取りに行くって言ってたよ。二人の速さを見てすぐに無くなるって思ったみたい」
そう言ってナズナさんはおどけてみせる。噂をすればなんとやらで、ナズナさんの後方の森から大量のチョーマを採取してきたイチビたちが出て来る。私たち全員が注目していることに気付くと驚いて一度歩みを止めるが、すぐに歩き出しチョーマを水に浸ける。その様子を見ているとオヒシバが私を見る。
「……姫様の為に備蓄を切らさずにおきますので」
要するに採取から繊維を取るところまで全てをやってくれるらしい。
「本当に助かるわ。ありがとう」
微笑んでそう声をかければ四人組はまたモジモジとしだし、糸作りをしている者たちに笑われるのだった。




