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恋バナ

「モクレンはね、伝説を作った男なのよ」


 ナズナさんは笑いながら続ける。


「私たちは身体能力の高い村の出身だったの。でも産まれた子どもの全員が身体能力が高いとは限らないでしょ?だから親は子育てをしながら適性を見るの。そして十歳前後で適性の合った村に預けられるの。三日に一回は自分の家に帰るのよ」


 森での暮らしをほとんど聞いていなかった私とスイレンは、その面白い習慣を興味深く聞く。


「私は植物採取を主にする村に、レンゲとナズナは手先が器用な村に行くことが決まったの」


 ハコベさんは語る。


「誰が見てもモクレンはレンゲに恋をしてたのよ。小さな頃からね。だからレンゲが他の村に行くことを嫌がったモクレンはとんでもないことをしでかしたの」


 笑う大人たちの話の続きを知りたくて私たちはせがむ。


「私たちは早い人で十五歳くらいに結婚をするの。でも私たちは当時十歳前後よ?なのに結婚をすればレンゲは出て行かなくてもいいとモクレンは単純に考えたのよ。結婚の申し込みには自分が得意なことを披露するのだけど……ははは!」


 ナズナさんは説明しながら笑い出す。


「当時村一番の狩人がベンジャミン様でね。ベンジャミン様の再来と言われていたモクレンはベンジャミン様のところへ行ってこう言ったの。『嫁のいないベンジャミン様に言うのは心苦しいが、嫁にしたい女がいるから狩りの極意を教えてくれ!』ってね。村中が笑いに包まれたわ。ベンジャミン様は困りながらもモクレンの素質を評価してたから付きっきりで極意を教えたのよ」


 話し手はハコベさんに変わる。


「ある日『ちょっと狩りに行ってくる』とモクレンは村を出たの。騒ぐモクレンがいない間に私たちは他の村へ行かされたわ。心配ではあったけど村の掟を守ろうと私たちは必死に学んでいたある日、モクレンが戻って来たと連絡があって私たちは家に戻ったの。ね、レンゲ」


 話を振られたお母様は真っ赤になっている。それをニヤニヤと見ているナズナさんが話を続ける。


「驚いたわよ!まだ子どものモクレンが、子どもとはいえベーアを二体両肩に担ぎ、服の中には食べられる小動物を入るだけ詰め込んで帰って来たんだから!そして『レンゲ!妻になれ!』って叫んだのよ」


「情熱的……」


「お父様すごい……」


 私たちはおとぎ話を聞いているように聞き入っている。


「でもね、結婚は早すぎるって大人たちに言われて、結局私は十五歳まで他の村と行き来する生活だったのよ」


 お母様はもじもじとしながらも懐かしそうに語ってくれた。私はハコベさんにも聞いてみた。


「タデとはどう結婚したの?」


 するとハコベさんも真っ赤になりつつも答えてくれた。


「タデもヒイラギも身体能力が高くてとても器用な人で、そういう人は全部の村を渡り歩くの。私は生まれつき体が弱かったから、自分の為の薬草を取りに行っては森の中で動けなくなっていたのだけど……どこで具合が悪くなっても、狩りの最中や食べ物の採取や木材を調達に来たタデに不思議と出会って……ある日『……放っておけない』って言われて……」


 両手で頬を押さえ真っ赤になるハコベさんはとにかく可愛らしかった。


「私とヒイラギは話が合ってね。いつも話しているうちに自然と結婚しちゃった」


 ナズナさんはあっけらかんと笑う。そして私はあの話を思い出す。


「ハコベさん……こんなこと聞くのもあれだけど……お子さんは……」


 すると真っ赤になっていたハコベさんはこちらに向き直る。


「違うのよ。タデが言ったことは本当にごめんなさい。子どもは私に似てしまって、生まれつき体が弱かったの。私もこの土地に来て動けなくなってしまってお乳も止まってしまったし、あの子ももうお乳を吸う力も失くなってしまっていたの……」


 聞かなければ良かったと激しく後悔していると、ハコベさんはふんわりと笑った。


「この国がもう少し安定したらまた子どもを産むわ。ナズナはまだ子どもがいないし、同じ歳のいとこを産むのが夢なの。あの子のことは悲しかったけど、その悲しさを乗り越えて次の子を必ず産むわ。だから、この国をお願いね」


 最初の弱々しくて儚い印象はどこかへ消え去ったハコベさん。実はとても芯の強い女性なんだと思った。だからこそあの難しいタデも惹かれたんだろう。お母様たちには「このことはお父様たちには内緒よ」と約束させられた。そして私たちを呼ぶお父様の声が聞こえて来たとき、私たちは顔を見合わせて笑いあった。

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