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お祝い

 翌日、ぐっすりと眠っているとけたたましい声が聞こえてきた。


「カレン!スイレン!起きろ!」


 慌てた様子のお父様の声に私たち姉弟は驚き飛び起きる。


「いいから!早く外に!」


 昨日の石炭の件が頭に浮かび、火事かと思いスイレンの手を引っ張り外へと走った。そして外へと出ると広場に人がたくさん集まっている。


「お父様!何が!?」


「あれを見ろ」


 これは本当に火事かと思いお父様に問いかけると指をさす。その指の先を見て驚いた。


「木が……」


 数日前に私たちが植えた森のベッドの苗木たちが一晩で成長し、森とまではいかないが見事な林になっている。そして川の近くから採取したあの木は立派な大木へと成長していた。木々の根元には草も生え、クローバーも驚くほど地下茎を伸ばし広範囲にわたって緑の絨毯が広がっている。


「……ぃやったー!!」


「カレン!すごいよ!」


 バンザイをしたまま飛び跳ねる私にスイレンが抱きついてくる。私たちは抱き合ったままワーワーと騒ぎ林を見つめていた。そしてふと気付く。


「畑は!?」


 その言葉に反応し、走れる者は走って畑へと向かう。そして畑を見た全員が驚きの声を上げる。


「やったー!」

「カレン様!ありがとうございます!」

「これはすごい!」


 口々に喜びの言葉を叫ぶ民を掻き分け、畑を目にして驚いた。いつもはヤングコーンのような大きさのトウモロコーンを芯ごと食べていたが、目の前には日本で売られているような立派なトウモロコーンが鈴なりに実っている。いつも見るような水分の足りない葉や茎ではなく、深いみどりのそれは艶々としていて背丈も大人の身長ほどある。私は目の前のトウモロコーンに手を伸ばし、片手で茎をもう片手で実を持ちパキっと収穫した。そして皮を剥いてみると、眩しいほどの黄色の粒がぎっしりと詰まっていた。私は恐る恐るそれにかじりついた。


「……あっまーい!!」


 かじりかけで申し訳なかったけど、それをお父様に手渡すとお父様も恐る恐る口に運ぶ。


「……なんだこの甘さは!?今までのは何だったのだ!?皆の者!食事の時間にしよう!」


 我先にと畑に人が群がるかと思っていたけど、ヒーズル王国の住民は行儀良くお父様の言葉に従い広場へと向かう。森の民として遥か昔から教えられてきた道徳心の賜なんだろう。畑に残ったのは私たち家族とじいや。五人で収穫してもまだまだ実っている。そして他の畑を確認すると、作物たちは花を咲かせていたのであと数日で収穫出来そうだ。そして広場にトウモロコーンを運んだ時に思いついた。


「みんな!もう少しだけ我慢してくれる?今日はお祝いよ!スープを作るわ!」


「スープとは何?」


「えっと……汁物よ!」


 お母様に聞かれ汁物と答えるとお母様は目を輝かせる。お母様は料理が好きらしく、簡単な汁物とはいえ久しぶりに料理が出来ると喜んでいる。すると興味を持ったのか数人の女性が集まってきた。そして一人の女性を見てお母様が声を上げる。


「まぁ!ハコベ!体調は大丈夫なの!?ナズナまで!」


「レンゲ様。ご心配をおかけして申し訳ございません。もう大丈夫です。そしてカレン様。夫が無礼を働き申し訳ございません」


 私に頭を下げるハコベと呼ばれた女性は見るからに弱々しく儚い印象の女性だ。でも何に対して謝っているのかが分からずしどろもどろになる。するとお母様が驚きの一言を言った。


「ハコベとナズナは姉妹なのよ。ハコベはタデの奥さんよ」


「……え?……えーーーー!?」


「そしてナズナはヒイラギの奥さんなのよ」


「えーーーー!!」


 ナズナさんはほんわかとしている見るからに優しそうな女性で、ヒイラギの奥さんと言われてもお似合いとしか思えないけど、ハコベさん!後で馴れ初めを聞かせてもらおう!まずは料理が先!

 私はその辺に転がっている石で簡易かまどを作り、こういう時の為にと購入した大きな鍋を二つほど持って来てもらいかまどに置く。鍋に水を入れるのはお父様とじいやが手伝ってくれ、その間に私たち女性陣は包丁を使い芯から実を削ぎ落とす。プリプリの黄色い実は大皿に入れ、残った芯を小さくぶつ切りにしてもらう。そしてその芯を鍋に入れる。


「お祝いだから、廃材を使うのを許して」


 とお父様に言うと「全く構わない」とかまどに廃材を入れ火まで起こしてくれた。ちなみに火起こしはどこかに仕舞っていたまい切り式の火おこし器を使っていたので、スイレンが食い入るように見ていた。日本の現代人だと火を起こすのも一苦労しそうなのにお父様は簡単にやってのける。

 体感で十五〜二十分ほど芯を煮て、柔らかくなったのを確認して一度取り出す。ちなみにヒーズル王国は箸もスプーンもフォークも使うので、使い慣れた箸で芯を取り出した。


「みんな、火傷に気を付けながら出来るだけ細かく刻んで」


 女性陣は包丁の使い方に慣れたもので、右手で柄を握り左手を包丁の背にあてがい、みじん切りのように細かくしていく。フードプロセッサーもないのに驚くほど細かく刻んでくれたそれを、これまた何かの折に使おうと買って寄せておいた布に載せる。


「お父様!じいや!出番よ!」


 鍋の上に布を持っていき、二人に絞ってもらうと少し色のついた液体が搾り出される。限界まで絞られた絞りカスは肥料に使えるので一旦寄せておく。そして塩しか調味料がないので塩だけで味付けをし、トウモロコーンの実をいくらか入れてまた煮込む。


「出来た!」


 さすがに大鍋を持って歩けないので困っていると、みんなバラックの中に食器は残していたようで木の皿を持って鍋の周りに集まってくれた。動けない人の分は動ける人が運んでくれる。スープとトウモロコーンの実を配り終え、私たちはいつものようにみんなで食事を始めた。


「甘い!」

「汁の味わいがいい!」


 トウモロコーン料理は大好評で、久しぶりに料理をした女性陣も満足そうにしている。もっと作物が増えたらレパートリーも増えるし、定期的にこういうのをやりたいな!

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