カレンの疑問とうっかり
じいやに謝っただけで大騒ぎの中、私のお腹が盛大に鳴る。辺りはこんなにうるさいのに、その私のお腹の虫の爆音は全員に聞こえたようで、全員がピタリと動きを止めた。
「姫様! 今すぐ食べ物をお持ち致しますので、しばしお待ちを!」
そう言ってじいやは駆け足で部屋から出て行った。残されたのは私とお父様、お母様、そして弟の四人。今の私の家族だけだ。
「それにしてもカレン。本当に目覚めて良かった。心配してたのだぞ」
「そうよカレン。生きた心地がしなかったのよ」
「もし……カレンがいなくなったらって思ったら……」
お父様はようやく笑顔を見せ、お母様は涙ぐみ、スイレンはまた泣いている。すっごくクソ生意気な姫だったのに、家族にはちゃんと愛されていたんだなぁと思い、嬉しさがこみ上げる。
「あの……そういえば十日も眠ってたって……」
しんみりとした空気の中、聞きたかったことをおずおずと聞いてみた。
「あぁ。カレンが頭を怪我して、そのまま目を覚まさなくなった三日目に、一度目を覚ましたのは覚えているか? すぐにまた眠りにつき、そのまま目を覚まさず……そして今日だ。頭の怪我はもう治っている。怪我自体は軽いものだったぞ」
頭を怪我したってことは、頭を打ったり殴られたりしたってことかと不安になる。やっぱり姫だから、悪い奴に命を狙われて暗殺とかを企てられたのかもしれない。
「……怪我の原因は?」
怪我をした時の状況を何も思い出せないから、勇気を出して聞いてみた。
「え? カレン覚えてないの? 僕とどっちが高く跳ねられるか競争をして、着地に失敗して足をひねって倒れて頭をぶつけたの」
スイレンに「跳ねる?」と聞くと、スイレンは何回かその場でジャンプをする。……どうやら私はクソ生意気なお姫様で、なおかつお転婆でもあったらしい。すっごく複雑な心境になり、ついつい真顔になってしまった。
「大丈夫だよカレン! カレンは着地に失敗はしたけど、僕より高く飛んでいたよ!」
いや、そこじゃないんだけどな、と思っていると、スイレンは「エヘヘ」と、はにかんで笑いながら私の頭を撫でた。その笑顔が可愛くて天使のようで……あ、スイレンと双子ってことは私の顔も天使のようなのかな? この世界での希望が持てた気がした。
「姫様ー! お待たせ致しました! こちらをどうぞお食べください!」
じいやは木の皿に何かを乗せて戻ってきた。お父様とお母様は手を貸してくれ、食べるために半身を起こす。そこで気付いたのは皿の中身ではなく、私に掛かっていた肌掛けのようなものだった。綿とか化繊とはまた違った肌触りなのが気になった。
「これは何で出来ているの?」
「何を言っているんだカレン? 我らは森の民。森の恵みを使ったものだ」
お父様が私の顔を覗き込み、本気で『どうしたんだ?』と思っている顔をしている。
「森の民……? と言う割りには、ここは森の空気を感じないね?」
「「「!?」」」
私がそう言うと、スイレン以外の三人が驚いた表情へと変わったけど、お腹が空いていた私は皿から赤い何かの果物のようなものを摘み口にした。
「何コレ!? 甘〜い! ……むぐむぐ……あれ? コレ、デーツじゃない? ナツメヤシ! 干せば干すほどもっと甘くなるのよね〜。そっか、この世界にも生えてるんだ……ん? でも森にヤシ??」
日本で生きていた時は本当に貧乏だった。けどご近所さんに本当に恵まれ、私たち一家は旅行土産やお裾分けをよくいただいていたんだ。そのほとんどが食べ物だったけれど。
ある日、家の近くの健康マニアのおばちゃまが桁を間違って注文したらしく、食べきれないからといただいたのがこのデーツだった。日本で流通しているのは主に干された物で、干し柿のようにねっとりとした食感で甘いけど、今食べているのは見た目ももう少しフレッシュなので熟したすぐ後のものなんだろう。
「……カレン? 『ヤシ』とはなんだ? 私たちも名前も知らない果物だぞ? ……それに『この世界』とはどういうことだ……?」
お父様の凄みにハッとする。あまりの美味しさにうっかりと口走ってしまったけど、相当ヤバイことを言ったのか大人たちは怖い顔で私を見ている。というか、名前も知らない果物とはどういうことだろう?
「お父様! お母様! じいや! カレンは目が覚めたばかりで、とてもお腹が空いているんだよ!? まずはこの『神の恵み』を食べてから聞いたらいいじゃない!」
スイレンが援護射撃をしてくれたおかげで、大人たちの勢いが無くなった。うん、今のうちに腹ごしらえをしてしまおう。




