目覚め
なんて悲しい最期だろう。あの時は痛みと空腹と喉の渇きで死にそうだった。というか実際に死んだんだけど。あぁ……思い出しただけでお腹が空く……。お腹がグーグーと鳴っているわ……。あぁ……お腹が空いた……お腹が空いた……。
「……お腹……空い……た……」
「カレン!」
「カレーン!!」
枕元が騒々しくて目を開けると、そこにはお父様とお母様がいた。あれ? デジャヴかしら? 前にもこんなことがあったような……。
「目を覚ましたんだなカレン! じい! じいやー!」
「姫様ー! 今行きますぞー!」
お父様が取り乱し、遠くからじいやの声が聞こえる。……ん? さっきのは夢? 夢にしてはハッキリとしていて……あれ? カレンって? あたしは美樹って名前で……でもここでの今までの生活も思い出して……。
説明が難しいけれど、頭の中で記憶と記憶が融合して、グルグルとなってパーンとなって。……もしかして……もしかして今流行りの転生ってやつなのかも!?
「……魔法は!?」
「マホウとはなんだ!? 大丈夫かカレン!?」
お父様がそう言いながら私に抱きつき、重なるようにお母様も抱きつく。二人は力強く私を抱きしめた。……あぁ、そうだ……私はこの二人の子として産まれたんだ。前世で死んでしまったのは悔しいが仕方のないことだったし、今の私は前世の記憶を持ったまま今ここで生きている。
何かのきっかけで、やっぱり私は転生をしたらしい。そして残念ながら魔法のない世界のようだ。思わず心の中で『ちっ』と舌打ちしてしまう。
「姫様ー! 水をお持ちしましたよ!」
「カーレーンー!」
じいやが木で出来たコップに水を入れて持って来てくれ、弟のスイレンが泣きじゃくりながらじいやの後ろをついて来る。私はコップを受け取り、その水をゆっくりと一口飲んだ。
「……ぬるっ……」
私が思ったことを考えなしに呟いたせいで、その場の空気が凍った。
「カレン。じいやに謝りなさい。いくら十日以上も目覚めなかったとはいえ、お前のために水を汲んできたじいやに対して失礼だ。お前は眠りながらも少量ながら水だけは飲んでいた。その水を汲んで来たのもじいやだ」
怒りの滲んだ表情でお父様は低い声でそう言った。十日!? 十日も寝てたの!? ってそこに食い付いたらダメだ……。確かに私のことを心配したじいやが持って来てくれたんだものね。
「ごめんなさい、じいや。せっかくお水を持って来てくれたのに……スイレンもありがとう」
素直に謝るとまた空気が変わる。
「カレンが……謝った……」
「姫様が……謝った……」
なんだろう? この『クラ○が立った!』みたいに、みんなが感動しているこの空気は?
「カレン! 謝れる子になったんだね!」
今度はスイレンが抱きついて来て、私にしがみつきながらエグエグ泣いている。謝れる子って、どういうことだろう?
……そういえば……この世界での私って……。まだ半分霞のかかった頭を働かせる。記憶の大半は日本で美樹として生きていた時のものだけど、この世界で生きてきた記憶だってもちろんある。
……うーんと……うーんと……姫、姫、とみんなに甘やかされて……調子に乗りまくって……高飛車で……自分が一番で……他人なんてどうでもよくて……いや、待って。思い返せば思い返すほど、とてつもなく心が痛い。というか、客観的に見るととんでもないクソガキなんだけど……。
あ、だからそれでたまに無意識にお姫様のような「ですわ口調」が出るのか。そもそも転生して気付いたら、本物のお姫様だったわけだけれど。そりゃ謝っただけでこんなに大騒ぎになるよね……。美樹の記憶が蘇ったんだから、ダメな部分は治して、心を入れ替えてこれからは生活しよう……。