占い
食糧を買ったとしても帰るまで時間があるので、じいやと共に目ぼしい物のチェックだけすると、やることが無くなってしまった。
「そう言えばみんな占いのことを言っていたけど、すごく重要視してるのね」
「そうですな。この世界の者は日常的に占ってもらうことが当たり前なのです。どこの町や村でも占い師はおりますから、姫様も占ってもらいますかな?」
「お金は?」
「かかりませんよ。それで生計をたてている訳ではありませんからな」
タダで占ってもらえると聞けば、占って欲しいと思うのが当たり前だ。じいやは近くの人に占い師の場所を聞き、案内をしてくれると言うので私たちは向かった。
案内された場所は普通の民家で、看板も何も掲げていない。連れて来てくれた人にお礼を言いながらも、本当にここなのかと思ってしまう。
玄関から中を覗いて見ると、小さなキッチンしか見えず人の気配を感じない為、大きな声で呼びかけてみた。
「すみませ〜ん! 占って欲しいんですけど〜!」
「はいはい……足が悪くてねぇ……奥までどうぞ」
か細い老婆の声が家の奥から聞こえ、私たちは勝手に立ち入るのにビクビクしながらも、言われた通りキッチンを通り抜け、リビングであろう場所へ向かった。
そこにはヒーズル王国の占いおババさんに負けず劣らずの、小さくてシワシワのお婆ちゃんが座っていて「どうぞお掛けくださいな」と、笑顔で私たちをテーブルの対面にある椅子へと誘導した。
私たちは「失礼します」と静かに椅子に腰掛けた。私は金運を占ってもらうか仕事運を占ってもらうかと悩んでいると、「では占いましょうかねぇ」とお婆ちゃんは手元に道具を用意して微笑む。
日本のように知りたいことを占うんじゃないんだ! と、軽くカルチャーショックを受けていると、テーブルの上に広げたマットに小石を数個転がし始めた。
それはどう見てもそこら辺にある普通の小石で、これで占うのかと驚いた。どんな結果が出るんだろうかとドキドキする。
「……困惑……知恵……」
お婆ちゃんは小石を見つめ、ポツポツと言葉をこぼす。困惑というのが占い結果なのかと困惑していると、お婆ちゃんは顔を上げた。
「はいはい。結果が出ましたよ。……ここだけよく分からなかったのだけれど、お嬢ちゃんはこの世界のことをよく分からないのかねぇ? でもこの世界の子でしょう? ……今のお嬢ちゃんはそれで困惑していると出たんだよ」
小石を転がしただけなのに、それは当たってる!
「そしてそちらの殿方は、このお嬢ちゃんの分からないことを教えなさいと出たよ。お嬢ちゃんは分からないことはこの人に聞くんだよ」
なんか微妙な結果になったな、こんなものかと思っているとお婆ちゃんは続ける。
「お嬢ちゃんは何か大きな物を背負っているんだねぇ。でも大丈夫。他の人が思いもつかない知恵を振り絞り、人々の役に立つことをたくさん成し遂げると出たよ。……あとは……お金に執着心があるのかねぇ? 先は長いけど、お金に困らない日が来るから安心してね」
お金に困らないなんて、貧乏脱出するということだわ! お金の話で私が握りこぶしを作り、この日一番の反応を見せたのでお婆ちゃんは「あらあらまあまあ」と笑う。
「なんだかねぇ、こんなにも見え辛いのは初めてでねぇ。少し曖昧になってしまって悪いねぇ」
「いいえ! 先は長くても、お金に困らない生活が出来るならそれでいいです! こちらこそ突然押しかけてごめんなさい。あの……お代は……?」
いくら無料と聞いても気になって、一応聞くだけ聞いてみたけど、やっぱりお婆ちゃんは「いらないよ」と笑う。
だけど「はいそうですか」と、すぐに帰ることが個人的に出来なくて、せめて何かしようと考えた。
「じゃあ肩を揉ませてください」
「肩を……揉む……?」
お婆ちゃんは不思議そうな顔をしているし、じいやも私が何を言っているのか分からないようで、こちらが驚く。
「あの……肩に触れてもいいですか?」
お婆ちゃんは不思議そうな顔をしながらも「いいよ」と言ってくれたので、お婆ちゃんの背後に回る。
そしてありがちな「痛かったら言ってくださいね」と声をかけ、私はお婆ちゃんの肩を揉み始めた。
「……………………はぁぁぁぁ〜!」
それまで静かだったお婆ちゃんがいきなり声を出したので、驚いて手を止めると「き……気持ちいい……」と言っている。
それを聞いてやる気が出た私は、感謝の意を込めて首・肩・腕を念入りにマッサージした。
美樹はご近所のご老人たちのマッサージをいつもしていたので、ツボというツボを熟知している。
「……はぁぁぁぁ〜……」
「お婆ちゃん凝ってましたよ」
「コッテ??」
一通り終わりお婆ちゃんに声をかけると、聞いたことのない表現だったのかお婆ちゃんは首を傾げた。
「えぇと……筋肉が固くなって血の巡りが悪くなっていた……って言えば分かるかな? ちょっと張り切ってやっちゃったので、これからすごく血が巡って逆に怠くなっちゃうかも……ごめんなさい! 可能なら、このままお昼寝するとスッキリすると思います」
「なんだか体が熱くなってきたよ。……知恵ってこういうことだったんだねぇ……」
お婆ちゃんはそう呟きながら明らかに眠そうになっていたので、私たちは再度お礼を言って帰ることにした。いい夢見れるといいね、お婆ちゃん。
ちなみにじいやも肩揉みが気になるらしく、私に熱い視線を送っていたけど、少し疲れたのでスルーさせてもらった。