青春時代のかたすみに
大人は青春を無駄にするなとか言ってくるが、よくそんな事が言えたものだ。
それは後から見ればの話で、当の本人は生きることだけで精一杯なんだ。そこにその時間を無駄にするとか、無駄にしないとか。そういう思考が起こる訳がないんだ。
だから僕たちは青春を無駄にするんだ。無限の可能性を前に、目を瞑って耳を塞いでやり過ごすんだ。
僕は今から死ぬ。ああ、止めないで。止めたって無駄だよ、もうビルから落ちてるんだもの。自由落下の真っ最中さ。僕はこれから重力に従ってコンクリートの染みになるんだ。
こういう時って変に冷静だよね。だからって何が出来る訳でも無いけどさ。そうだよ、何が出来るわけじゃないんだ。僕がこうやって叫びたくなっても、何が出来る訳じゃないんだ。
僕が人生を終わらそうと思ってビルから飛び降りても、結局何が変わったわけでもなかったんだ。ただ、僕が頭を傾けて、自由落下した。それ以上の何の意味もないんだ。
僕のそれまでのなんでもない日常と、この状況は地続きなんだ。僕はこの世の理から逃れようとして、結局逃げられてすら居ないんだ。
僕の日常の失敗も、僕の支配不可能な激情も、僕の日常で延々感じた不快感も、僕の変わろうとする意思も、それと相反するような僕も、僕が僕という物から開放されるには不十分だったんだ。
僕は結局夢見てただけで 揺り篭で揺れて何かを感じて泣いたあの頃から何も変わっていなくて 今も束縛が自分自身の怠惰から重力に変わっただけで 僕は何も出来ず死んで そこからは何も生まれず 人々は僕の脳漿の上を変わらず歩いて 僕は僕として最期まで苦しんで ただ死ぬんだ
『彼はどういった様子でしたか?』
『どう、と言っても普通でしたよ。自殺なんてしなさそうな、ただの普通の青年でした』
『彼が自殺未遂を起こした事についてどう思いますか?』
『どうして自殺なんかしたんだろうとは思いますね。植物人間になったんでしょう?そこは可愛そうですね』
『そうですか。有難うございました』