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崩壊のディーア  作者: 朔望
(A)零刻 -理想郷と偽りの星-
21/90

Release0021.戦に立つ狼煙(09)




 一暉は頭が回ることもあり、自分に出来ることと出来ないことのラインをきっちり弁えている。


「二位……《黒閃》……ガム……二位……」


「なあミツキ。呪術師にジョブチェンしかけてるこのインテリ、どうにかならない?」


「わ、わたしだって分かんないよ……」


 天井で見えるはずのない空を仰ぎ見続けながらぼそぼそと呟く一暉の背中を那由多が押し、コロセウム第一会場へ。艦内内装を継ぐ無機質な通路はどこも幅広いので、人波の中でもおしくらまんじゅうすることなく進んでいく。

 やがて現われた広大なフィールド、その円形観覧席の適当なとこで腰を降ろす。場所の指定はないので、もちろん観戦し(やす)いよう一番近い最善席から三、四段目あたりを確保。

 エントランスロビーでもらったスポーツドリンクを一口飲んでから「あ、そうだ」と思いつき、気付けの意味で一暉の口にもその手に握られた同じ飲料を飲ませようとしたところ、既に那由多が実行中。ストローが咥えられると自動機械のように黒ずみが上がった。だがそれが口に届く前に下がったりを繰り返す。

 飲んでるのか飲んでないのか分からないね、なんて那由多と顔を見合わせると、那由多はゴム製コップを縦横に圧力を掛けて揺さぶる。それでも目立った変化がないので、那由多は一瞬げんなりした顔で溜息を吐いてから突然握りつぶした。

 バシャ! っと弾けとんだ内容物が一暉の顔を濡らしてから盛大に拡散する。


「わぁ!?」


「ごほぇ、おっほぇ……っ!? ……な、なにすんだよ!?」


 どこかのお花畑でも見てそうな一暉の意識が戻ってきたから良かったものの、やるなら事前に伝えて欲しかった。スカートちょっと塗れた。


「いや、始まる前からこんなんじゃ見てらんねぇって思って。シャキっとしろよ。僕達が必要とする最高レベルの許可証は、最低でも百位圏内じゃないともらえないんだからさ」


 言って、いつの間にか手に収められたハンカチを一暉の顔に擦り付け始めた。それを半目で眺めることにする。

 星の探索権利の許可証というのは、段階的に範囲と時間の制限が指定されており、レベル5まで存在する。件の《境界》は行くだけならレベル3でも構わないが、私達は前人未到のその先を夢見ているのでレベル5の取得は必須だと考えていた。

 前人未到と言いながらそうやって上に二段階あるのも不自然な話だが、レベル4については深夜帯での探索行動が認められるようになり、5はもう完全なる自由の身と言い換えても差し支えない。どこへでも、いつでも好きにしろといった感じにオールフリーダム。上層部への定期報告は変わらずしなければならないらしいけど。

 ただまあ、未来の自分達の行動方針がどうなるかはまだ未定ではあるが、外側がどうなってるか分からない以上、やはり上を取るに越したことはない。私と那由多に関してはもう維持するだけもOKなわけだし。

 一暉は今のままじゃ少し心配だけども……。


「そ、そうだな……このままだと置いてきぼりくらうのは僕だしな……よ、よし!」


 パチンと一暉は頬を叩く。肌が微妙に赤くなるほど強かったそれは心機一転出来たつもりだろうが、その表情にはまだ不安が残っているように見えた。

 無意識下のものか。どうにか勇ましく立ち上がって欲しいけど……。

 とはいえ、そうやって緊張や不安から気が落ち着かないのは無理もないことだって私も分かっている。そして、それは脳に必要な拒絶反応だ。


「まあでも、相手はあの《黒閃》だし。ナユタみたいなお馬鹿はともかく、警戒はしなきゃね。お馬鹿を除けば実質学園一位と当たるってことなんだし」


「お、おいおい……」


「ナユタの言いたいことも分かるよ? でも、私は下手に緩い態度で臨まれるよりはいいかなって思う」


 実質一位。アストロイ学園のトップ。つまり、最強者。たとえ模擬戦であっても、私とてそんな人と当たろうものなら身を固めずにはいられなかったはずだ。というか、学園全体を見てもそうならない人なんて、恐らくこのお馬鹿以外にはいない。一暉じゃなくたって同じということだ。

 《黒閃(こくせん)》――黒河愛。黒閃とは、彼女の戦闘技能から連想され付いた異名だ。異名は特に名を馳せる者達に対し、周囲の人間達が勝手に呼ぶようになる非公式のものだが、そうして当人を差し置き持て(はや)されるということは、また群を抜いて強いことの証明でもある。

 なので異名持ちと呼ばれる者は大抵の人にとって敬意と畏怖の対象であり、その中でも上から数えてすぐの人物ともなれば、一暉が不安定になるのも頷ける。ならない方がおかしい、とまでは言わないが、ならない精神力をお持ちであればかなり見上げたものだ。

 緊張で本来の力を発揮出来ないのは確かに良くないだろう。だが、だからといってこれ以上安易な言葉で元気付けようとするのもきっと一暉のためにならない。厳しい言い方をするなら、そういったところで弱る精神力も、それは最初から当人が鍛えるべきモノの一つであるはずなのだ。


 ――ちなみにこの異名の付けられ方だが、大体は中等部にある《広報部》という小団体がネット掲示板へネタを貼り出し、そこへ閲覧者のレス――意見や評判などが有象無象に混ざり合って勝手に決定される。念を押すが、やはり当人の知らないところで、である。

 「どこよりも速く、どこよりも正しくアナタにお届け! アストロイパブリックなんとかかんとか、略して《アプリで(APRD)!》」。確かそんな風に謳っていたような気がする人気の電子集会場だったか。ありがちなキャッチコピーだが、利用者数はかなりの数だと伝え聞く。

 アルカディアの情報というものは、一貫して艦内放送に頻出するアルカディアニュースというメディアがほとんどを担っている。しかしサブカルチャー格式については、各方面多種多様のホームページや掲示板などが個人でも立てることが出来るので、大衆媒体の裏面はそこそこに乱雑していたりする。

 学園中等部のいち部活動が打ち立てたという《アプリで!》もその一つで、毎日アルカディアのどこでもうるさく走りまわっている開設者の彼女を見るに、日々更新が絶えず賑わっているはずだ。その名の通りアプリケーションなんかもリリースしているので、誰でも使い易く、片手間で綺麗に纏められた記事を見れるわけだし。

 私は……あまり見ないことにしている。部長たる立場の人がとてもアグレッシブ且つ熱烈な人物であるお陰で、悪気がないことは伝わるんだけど、そうであったとしてもあることないこと含め結構好き勝手やるイメージだから。

 決め手はやはり、過去に一度、私に関しての記事を見た瞬間だ。

 忘れたくても忘れられない、あの恥ずかしい文字列。それに添えられた私のくったくない笑顔。直後の自分がどう言い飾られるのか知る由もない、というのは結構怖いもので、いつかの自分を引き戻せるならその笑顔はマジでやめとけと言いたい。今ならまだ回避出来る、騙されるなと。

 …………あ~。あまりじゃなくて、もう二度と見ないかな。




「私だってもしあの人と模擬戦することになったら、始まるまで憂鬱な気分になっちゃうかな。……その上の席でふんぞり返ってるお馬鹿にはならないけどね、むしろ高みから引き摺り下ろす。屍になってもこの手で足を掴み続ける」


 我ながら恐ろしいことを言いつつ、那由多を見る。一暉の顔をハンカチで適当に拭き終わった那由多は、それを次元の狭間に放り込んでから「へっ」と笑った。


「なんだ宣戦布告か? ここで僕の入学してからの歴史をおさらいしたらその口がどうなるか試してみたいぜ」


 その言葉に、思わずこっちも「ふふん」と鼻で笑って返す。

 宣戦布告程度に小さく出たつもりもなければ、何を今更な。私がそんなことで臆するとでも思ったのだろうか? 那由多の経歴なんて手に取るように分かるのに。


「一年次最終順位が史上最年少にしてトップ5入り。二年次の一学期終了時点で首位獲得。そこから現在に至るまで独占状態。学園生どころか、先生達すらもはや誰も疑うことはしない頂点の座。学園の歴史に殴り書きする少年現る、なんて言ってる人もいたなぁ。……で、他に何かある?」


 髪をかきあげ、ドヤ顔を送る。


「お、おう……知った上での度胸より、あのミツキサマが僕のことを網羅してる方が驚き。歴史に殴り書きなんてワードは本人も知らなかったところなんですが……も、もしかしてファン!?」


「もう、調子に乗らないで。ナユタがどれだけ強かろうが、こっちは勝負事以前にアンタの友達ってだけ。その馬鹿さ加減に付き合うのも、もう三年目なんだよ? それ以上でも以下でもないよ」


「……そ、そうか…………」


 正直、途中から自分が変なことを口走ったと思っている。顔が熱い気がして、ぷいと那由多から逸らす。

 那由多も意外な言葉を向けられてか少しだけ恥ずかしがってるようだった。いい気味。

 と、私と那由多のあいだに座る一暉が口を開いた。


「ありがとう。二人とも」


「え?」


「なんだ? 落ち着いたか?」


「ああ、そうかも」


 いつの間にやら顔色を良くした一暉が頷く。さっきまでの落ち込みが嘘のようだった。

 どういうことだろう。何が彼を勇気付けることになったのか見逃した。

 那由多は再び空中へ手を差し出した。掲げた先に異次元の渦穴が現われ、恐れなく手を突っ込んでは簡素な黒シャツを引っ張り出し、一暉に渡す。一暉はそれを受け取ると上着を脱ぎ、塗れたシャツを着替えた。那由多は塗れたシャツを引き渡されると無造作に空気上の穴へ放り込む。

 那由多がどこにでも四次元ポケットのようなものを出現させるのはもう見慣れた光景だ。初めて見た時は目と口を大きく開けて固まってしまったものだけど。

 そんな阿吽の呼吸が通じなくなったところで、もう一度一暉が口を開いた。


「とりあえず深く考えないで、僕は、今の僕の全力を出すことに集中するよ。そうすれば後悔だけはしないと思うから」


「そう、そーだぞ。それでいいんだよ。勝ち負けなんて別に考えなくていい。むしろあの黒河と戦って、そんで一本取れたら一暉の評価が爆上がりするかもしれないだろ? いい近道じゃんか」


 そこで私ははたと理解する。


「なるほど、物は考えようね。今だけは私も那由多の言い分に一理あると思う」


 その那由多らしい考えは、いつもならおちゃらけすぎと叱咤するところだが、この場は私も頷いておくことにした。

 今の一暉に足りないのは、きっと毅然と両立出来る大らかさと、重く見過ぎない少しの楽観だったのだ。さっきの私の現実的な言葉ではそれを満たせないが、那由多の言い分が良い感じで上手く補完してくれたのだと思う。

 となると、私に足りなかったのは優しさかな。那由多の気遣いはただ単に適当なだけ、と片付けてしまえばそれまでだけど、現にこうして一暉を良い方向へと誘導しているのは認め、見習わなくてはいけない。今回、厳しさの中に優しさ、だなんて思いながら励ましの言葉を贈ったのは間違いだったみたい。

 改めて考えれば、別に今日この一回の勝負で、自分の人生の何もかもが決まるわけじゃないのだ。これは通過点の更に通過点ほどの催事にすぎず、だからこそ気掛かりにせず、逆にシステムが齎してくれたチャンスと考えた方がよっぽど一暉のためになる。ならばここは、那由多に一口乗らせてもらうのが最善のようだ。


「でもナユタ。アンタだって忘れちゃいけないことあると思うんだけど?」


「何が?」


「何がって……今日は特別試合だって先生が言ってたじゃない。特別試合自体は過去に何度か行われてるみたいだけど、今回も数年ぶりだったよね? 毎回学園生じゃない人が相手するとかなんとかって話じゃなかったっけ?」


 すると一暉が私の言葉にハッと那由多を見て、それから右手首に巻いたクロックワールドに手を付けた。

 《クロックワールド》。時計型の携帯端末機。これは過去スマートフォンと呼ばれていたモノの進化系だ。既存システムはもちろんのこと、情報、記録、娯楽管理システムが従来通りに保存され、今じゃ小規模のAR技術までもが導入されており、表示画面を中空に投影して操作することも出来る。端末同士がアクセスすればその場でホームパーティ会場を作れたり、テレビゲームなんかをマルチプレイすることだって可能だ。

 一暉は学園が運営する戦闘術の特設ページから模擬戦詳細にアクセスし、那由多の項目を見てから言葉を続けた。


「あ、こっちでも分からないのか……。変なこと考えてたお陰ですっかり忘れていたんだけど、那由多、君の今日の相手は結局誰だったんだ?」


「ああ、そういやスポドリぶっかけた時ぐらいにメール着てた気がするわ。えーっと――」


 那由多も同じように端末に手を付けた。投影フリーモードでフィールドと観覧席を背景にモニター表示。映し出されたホログラムに手を触れ操作していく。技術の進化とは凄まじいもので、所持者が手を動かしても投影位置はほぼ見る先で固定されている。端末に搭載されているなんらかの機能がそれを可能にしているとかなんとか。

 透き通る碧色のホログラム画面の奥を見ると、コロセウムの観覧席にはちらほらとまばらで席に座る子ども達がいた。

 座席定員数一万に対し、ここに集ったAランク帯は五百名。広さも相俟(あいま)っていくつかの会話が重なっても会場は閑散としているものだが、私達の位置取りがコロセウムの正規正面ということもあり、後ろ座席を振り向けばいつの間にやら多くの席が埋められていた。

 各々、自分の鉱石武器を眺めたりクロックワールドでゲームしたり、と開始アナウンスを待っている状態。中には《死神》や《獅王(しおう)》といった異名を付けられている知った顔も近くにある。

 あの二人、隣同士で座ってる。仲が良いなんて話聞いたことないけど……。いや、二人の表情を見るに、《獅王》が一方的に話し掛けて、《死神》が心底鬱陶しいといった感じのようだ。

 ダークブルーのフードの下では眉間に深い皺が刻まれ、その煩わしい口を閉じろとでも言わんばかりの険悪さがある。アイゼン・ヴィクテラクト。確か十四歳だったかな。順位は六位。レコン鉱石製の得物は、その異名イメージに相応しく大鎌(サイス)だ。

 そして左隣にいる茶色のつんつん頭で好青年のような人物がテオ・グラント。同じく十四歳。順位は八位。得物は大剣……というか野太刀に近いのかな。彼特有の武器らしく、本人は《アーダーグラディエガー》と呼んでいたはずだ。ちなみにこういった個人特有武器は、艦の底部階層にある生成管理所に申請すればオーダーメイドとして請け負ってもらえる。うろ覚えだが、アストロイ生の一割弱ぐらいは特有武器使いだったはず。

 それはさておき、両者とも順位は私より下だが、ここでは数字をそのまま実力に直結させるのは危険な思考である。あの二人については、申し訳ないが素行と勉学の方が足を引っ張ってるとしか考えられない。戦えばはっきりするが、多分私じゃ勝つことは難しいだろう。二人も指折りの強者なのだ。

 そういえば――

 黒河さんはどこにいるんだろう。そう思って会場全体を眺めると、人が極端に少ないと分かる西端にポツリといた。前座席の背もたれに片足を乗せ、自身が身を預ける椅子に浅く、そして背を預け切るように座っていた。

 頭にはホログラムヘッドフォンが装着されている。顔は俯きげで瞳は閉じられているため、なんだか寝ているように見えるが彼女なりの精神統一法だろう。私も音楽によるリラクゼーション効果は非常に素晴らしいと思うところがあり、学園でも自室でも那由多と一暉がいない時間なんかはよく聴いている。特に授業の合い間にする予習復習の時間なんかは周囲の騒音をシャットアウトするのに持ってこいだ。……まあ、逆に音楽さえも邪魔になってしまう人種もいるみたいだけど。

 私が好きなのは基本的に男性ボーカルで洋楽、しんみりと落ち着いたやつならなんでも、といった感じ。

 あの人は何を聴いてるんだろう? 全然分からない。

 最強者、そして刀使いが心を委ねる音楽……か。イメージが合うと言えば、風、水……とか? ……え? まさかだけど自然環境音とか聴いたりするのだろうか。波音なんかはよくヒーリング効果なんて言われるものだけど。……流石にそれはないか。


「あれ、どれだ」


 不意を突く那由多の声に意識を戻す。未だ画面を漁っているこの状況は一体。


「なにしてんの?」


「いやぁ、なんか要らんメールが毎日毎時送られてくるもんで、どっかに埋まってるっぽい」


「はぁ? まさかうさんくさいキャンペーンとか手当たり次第にアドレス提供してないでしょうね?」


「~♪」


「あ・き・れ・た」


「いやほら、割引だのプレゼントキャンペーンだのの単語見ると、ついつい目が眩むだろ!? イツキだってそうだよな?」


「いや全然? というか、ナユタ別に金銭的に困るような生活してないじゃないか。学園っていう大きな後ろ盾があるんだし――」


「え? いや?」


「「え?」」


 揃って頓狂な反応を示すと、首を傾げた那由多が「ああ、そうか」と語り手を宙に放る。


「言ってなかったっけ? なんか知らんけど差し止め食らってんだよね。だから優遇なんて話、今の僕には無関係」


 ………………差し止め?


「「……はぁ!?」」


 その無頓着さには流石の一暉も驚いたようだった。私も思わず腰を上げてしまった。

 一瞬にして呆れに煮えくり返った腸をどうにか沈着させ、再び腰を落ち着ける。コロセウムだというのに材質に拘った各座席は、まるでオペラ劇場モノと間違えているのではというぐらいにふんわりとキャッチしてくれた。作った人は何を考えているんだろうと突っ込みたいところだが、ここコロセウムは元々プラネタリウム劇場であったらしいので、改築の折、倒れこみ座席をそのまま再利用したのだろう。


「ちょっと待ってくれナユタ。それいつからだ?」


「あ~……、一年前……とか?」


「ど、どう突っ込めばいいんだ、それ……」


 一暉が頭を抱える端、はたと嫌な予感が背中にピッタリとくっついた気がして、私は出来るだけ自然を装いながら(多分顔は出来てない)那由多に問う。


「……? ね、ねえナユタ。念のため聞くけど、普段私を出汁にしてマグネットストーンを集めてるのって――」


「ん、生活費」


「ど畜生ガ首絞メタロカですとろい」


「ま、待て待て! こっちだって必死に生きてるんだよ、必要事項なんだ! 昨日だって二食やすっちいインスタントで――」


「自業自得でしょーガアアァアア!!!」


「あああああああああ――ッ!!?」


 んー、耐えられなかったよね。

 那由多のスポドリ、爆散四散。




 模擬戦のルールも単純なものだ。制限時間五分。一方が戦闘不能になるか、参りましたと辞するか。刻限で決まらなければ、より疲弊していた方が敗者となり、それすら判断が難しいのであれば()む無く引き分けとなる。

 その開始アナウンスはとっくに行われ、フィールドではAランク一順目同士による壮絶な戦いが繰り広げられている。目立った人材はまだ出ていないので、私達は未だに分かってないエキシビション選手を探っていた。コロセウム全体に轟く銃声と歓声、それから剣戟と爆発音まで、全て耳に慣れきった音だ。

 A帯は基本的に一つのフィールドで八組、第二コロセウムも使うので、一順で十六組の計三十二人ずつで進行する。その間の待機者は違反をしない限り何をしていても構わない自由が認められている。具体的には観戦よし、闘技場を出て何かの用事を済ませるもよし、席で惰眠を貪るもよし。開始後、各自の試合時刻と閉幕時に姿を見せればそれでいい。

 で、事前に確認した情報では私が十二順目、珍しく一暉が十五順目(いつもは一から五ぐらい)で、那由多が最後の十六順目。なので時間的余裕はまだ結構残されていた。


「――そっちは見つかった?」


「こっちはないかなぁ、クズ男は?」


「お願いしますその呼び方やめて欲しいですありました」


 システム機能を使ってアカウントを一時的にリンクさせ、三人三端末で那由多のメールボックスを漁ること数分。

 一暉のように服を着替えた那由多は随分と萎縮した様子でそう言った。

 クロックワールド対応アプリケーションというのは、それこそ何から何まで網羅しているぐらいの様々なジャンルが存在する。そしてメールアプリという種類もなになに用とかいって用途に特化した感じでいくつかあるのだが、那由多の端末には現存するメールアプリ十二種類が全て入っていた。道理ですぐに見つからないというか。

 キャンペーン云々といった話があったように、多分複数アカウントを保持して、尚且つ切り替えを単純化する目的なんだろう。意地汚さが垣間見えるが、それも方法の一つではある。

 けど、それで自分でどれがどこからのメッセージが届くのかを把握出来ていないのだから本末転倒である。本当お馬鹿。救いようがない。那由多の性格を考えれば、まあ予想通りと言えば予想通りなんだけども。

 将来、しっかり者とくっつかないととことんダラけるタイプだろうなぁ……

 なんて思いつつ、「で、誰なの?」と自分のクロワを閉じながら促す。


「んーとな」


 余程前置き文とかが長かったのか、那由多は何度かスクロールしてから投影モードに切り替えた。


「……ほお。だってよ?」


「どれどれ拝見――」


 ――…………え!!?!?


 という声は私だけのものではない。一暉の声を合わせただけでもない。フィールドを発生源とする戦闘ほどの大きさではないにせよ、もっと何重にも積まれた鈍重な響きが会場の一角で沸き立った。

 那由多のクロワが空中に浮かせたモニターは、背後座席の子ども達の目にも映り、チラと見たほぼ全員に同じ反応をさせたのだ。


「――ろ、ロベルト・アンドリュー!?」


 誰かがそう叫んでから、しばらく(どよめ)きが続いた。




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