表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/103

93話 山脈ムカデ


「うっわ!? ちょ……、なんすか、あのムカデ!」


「山脈ムカデじゃないの!? ちょっとアンタ、あれの相手出来る!?」



 突如現れた山脈ムカデを青い顔でエアリスが指さす。

 魔力をほぼ使い切ったエアリスと小向ではあんな大物の相手は到底できない。

 地鳴りと共にこちらに真っすぐ向かってくる二匹の山脈ムカデを見て、リリアは面倒そうな表情を浮かべる。



「以前倒したことがあるわ。ただ2匹同時はきついかも」


「エアリスと小向! 一匹は俺が相手をするぞ! だからお前らはあっちの連中を頼む!」



 エアリスと小向が悲壮な表情を浮かべた瞬間、地表から信太郎の声が届く。

 エアリスが視線を下げると魔物の屍の山で手を振る信太郎が、遠巻きに信太郎を取り囲む魔物へと指をさしているのが見えた。

 どうやらエアリスたちがリッチと戦闘している間、ずっと魔物の群れを蹂躙していたらしい。生き残った魔物の数はせいぜい3000といった所だろう。

 連合軍の生き残りと手を組めば、魔力が尽きかけているエアリス達でもどうにか対処できるかもしれない。

 生存の可能性が高くなったことで明るい顔つきになったエアリスが信太郎へ向かってぶんぶんと手を振る。



「分かったわ! 小物はこっちに任せてアンタはムカデの化け物を倒してきなさい!」


「おう!」



 エアリスの言葉を聞いた信太郎は矢のように山脈ムカデへと飛び出していった。




「うっは~、さすがにでっけぇなー」



 山脈ムカデへと走り寄る信太郎は、感心した様子で山のような巨体を見上げる。

 高さは30mほどだが、長さ数キロはありそうな巨体だ。

 そのまま信太郎に気づかず直進してくる山脈ムカデだったが、信太郎が足元に飛びつこうとした瞬間、跳ね上がった。

 上半身を浮かせ、獲物に飛び突こうとする蛇のように身構える。その視線の先はもちろん信太郎である。



「こりゃ思った以上にヤバそうだな~」



 先ほどまで吞気な表情を浮かべていた信太郎も冷や汗を浮かべ、いつでも飛び掛かれる用意クラウチングポーズをとる。



 ベヒーモスと山脈ムカデはどちらも災害級の魔物で、縄張り争いをすることもある。すなわちほぼ同格の存在なのだ。

 山脈ムカデも信太郎も、そのどちらもが確信していた。

 ――目の前の生物は自分を殺しうる敵だと。



 次の瞬間、大地を踏み砕きながら爆走する山脈ムカデが信太郎へと迫る。

 オリハルコンすら容易に噛み砕く猛毒の顎を躱した信太郎は、山脈ムカデの足元を掻い潜りながら足を粉砕していく。

 だが山脈ムカデの外殻は非常に硬く、再生能力も高い。



「うおおぉぉっ!! 気合いだぁっー!! ん? ……うぉっ!?」



 壊した足があっという間に再生されていくのにもめげずにひたすら攻撃をしていた信太郎が突然吹き飛ばされる。

 信太郎を踏みつぶそうと山脈ムカデがゴロゴロと寝転がったのだ。

 まるで癇癪を起した幼児のような攻撃だが、山脈ムカデほどの巨体が滅茶苦茶に寝転がればもはや災害である。

 地震や地割れが発生し、大地が削れて岩の破片が弾丸のように撒き散らされていく。相手が信太郎でなければ致命的な攻撃である。



「うっわ~、あっぶねーな! マジでびっくりしたぞ」



 天変地異の如き暴力の中で、信太郎は山脈ムカデの外殻に釘のように指をめり込ませてへばり付いていた。



「なんかいい方法ねーかな? ……そうだ! ガキの頃、父ちゃんに読んでもらった……なんだっけ? そうだ、一寸法師だ! アレのマネをすればいいんじゃね?」



 信太郎は暴れ狂う山脈ムカデの体節の隙間へと全力でこぶしを突き込み、穴を開けると再生する前にその穴へと潜り込む。



「おっしゃぁ! このままいったらぁ!」



 体内に潜り込んだ信太郎は力を全開にして猛り狂う。

 ゴース戦以降初めての全力全開だ。そのまま体内で暴れ狂い、内側を破壊しながら信太郎は山脈ムカデの頭部を目指す。

 一寸法師も驚くエグさだ。

 どちらかと言えばアマゾンに住む危険な肉食魚、カンディルのように見える。

 これにはさすがに山脈ムカデも参ったのか、耳障りな絶叫を戦場へ響かせた。



「おっしゃぁ! これは勝ったな!」



 信太郎が勝利を確信した瞬間、肉壁を貫いて飛び出してきた巨大な牙に食いつかれた。体内の信太郎を殺そうと山脈ムカデが自分の胴体ごと噛み潰したのだ。



「うおぉっ!? マジ痛ぇぇっ!! なっ、なんじゃこりゃぁ!?」



 どうにか動物的直観によってとっさに両腕を突き出し、直撃を避けられた信太郎だが、その代償は重かった。

 山脈ムカデに牙によって信太郎の両腕は半ば潰れていたのだ。

 さらに食い込んでくる牙がゆっくりと信太郎の胴体へとめり込んでくる。



「いちち……ちょうどよかったぜ……これが牙ってことはよ~、頭はすぐそこだろ? 近づく必要がなくなったぜぇ!」



 山脈ムカデの牙へと全力の蹴りを放ち、その顎から逃れた信太郎は牙を伝って山脈ムカデの頭へと飛びつく。

 慌てて頭を振って信太郎を吹き飛ばそうとする山脈ムカデだが、もう遅かい。

 信太郎の渾身の一撃を受けた山脈ムカデの頭が文字通り叩き潰された。



「ふぃ~、危なかったぜ……んぉ!?」



 山脈ムカデの頭を叩き潰して安堵する信太郎に、虫の触角のようなモノが巻き付く。これは山脈ムカデの触角だ。

 実は山脈ムカデのような蟲系の魔物は頭を潰してもすぐには死なず、しばらくの間動き回れることが多い。

 それを知らずに油断した信太郎を万力のように締め上げた山脈ムカデは、自分が息絶えるまで信太郎を地面に叩きつけ続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ