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38話 覚醒のベヒーモス



「『キュアポイズン』!」



 毒で苦しむ信太郎へと、マリは毒を消す魔法を唱える。

 だが、信太郎は相変わらず苦しそうにうめき続けている。



「そんなっ! どうして!?」



 何故か効果が出ないことにマリは焦る。

 そんなマリを嘲笑うようにゴースがささやいた。



「小娘。上級魔法の使い手のようじゃが、ワシの呪毒は簡単には消せんぞ」


「そんな!?」



 上級魔法では治せない毒にマリは歯噛みする。

 そんなマリの前へと信太郎がゆっくりと歩み出た。



「マリ、危ねぇから下がってろ」



 そういってゴースへと突進する信太郎だが、いつもの力強さをまるで感じない。

 容易くその突進を受け止められ、ゴースの剛腕で顔を殴り飛ばされてしまう。



「ほっほう! どうした小僧? もう限界か? 存外にだらしがないのぅ」


「ちっくしょ……!」



 慌てて起き上がろうとした信太郎の頭に、ゴースのサソリ尾の一撃が迫る

 それを信太郎を紙一重で避け、背後に飛びずさった。

 だが、いつの間にか目の前にいたゴースの追撃を受け、信太郎は大地を転がっていく。

 ボロ屑のように大地を転がり、それでも気合を振り絞って意識を保つ。



 信太郎は、血と砂利の混じった唾を吐き捨てながら立ち上がる。

 その瞬間、腕に耐えがたい激痛を感じる。

 骨は折れていないが、筋を痛めた可能性がある。



「化け物のオッサン、アンタ今まで手ぇ抜いてたな!」


「ほっほぅ! もうワシも歳でなぁ、油断させた獲物を楽して狩りたいのよ」



 悪びれない様子でゴースは笑う。

 この怪物は、わざと手を抜き、互角の戦いを演じていたのだ。

 周囲に毒をばらまき、獲物を弱らせる時間を稼ぐために。

 まんまとそれにハマった信太郎は、出血に加えて全身に毒が回り、まともに体が動かせない。



 ――このままじゃ勝てねぇ。



 信太郎は覚悟を決めた。

 本当の力を――ベヒーモスの力を完全に解き放つ覚悟を。

 おそらくだが、この力は制御できない。

 この能力を使えば、信太郎は力に呑まれ、狂戦士の如く敵と味方の区別なく暴れまわるだろう。

 だが、これ以外に勝つ方法は、仲間を、マリを守る手段はないと信太郎の直感が囁く。



「マリ、離れて……いや、俺から逃げてくれ」


「信ちゃん……?」



 いつもと違う雰囲気になった信太郎をマリは怪しむ。

 一秒ごとに別人に、信太郎の気配が人ではなくなっていく。

 怖くなったマリが声をかけようとした直前、信太郎から目に見えない力が溢れた。

 火山でも爆発したかのような勢いで、力の波が溢れていく。

 マリどころか、あのゴースですらも力の波に押され、後ずさる。



「ぬおぉっ!? な、なんと、ここまでの力を隠していたとは……!」



 予想外の力に、ゴースはうろたえる。

 その瞬間、信太郎は吠えた。

 人から発せられぬはずの怪物の咆哮が、大気を揺らす。



「ぬうっ!!」


「っ!?」



 ゴースは怯み、マリは恐怖で腰が抜けて尻もちをつく。

 信太郎の声はもはや人ではない。

 その雄たけびを聞いた全ての生物に恐怖の感情が宿る。

 魔獣の王にして、終焉の獣ベヒーモス。

 一度怒れば目につく全てを破壊しつくす。



 信太郎は体を焦がすような熱が全身に広がるのを感じ、全身の筋肉が膨れ上がるのを知覚した。

 火山の噴火のように、力が一気に解放される。



「グルガァッ!」



 信太郎が大地を踏みしめた瞬間、爆音と共に彼の姿が消える。

 直後、ゴースの目の前に迫る信太郎。

 獣のように歯を剥き出しにした、信太郎の剛腕がゴースへと直撃する。

 地を揺らす一撃で、ゴースの骨が砕けた。



「ぐうぅっっ!? こ、小僧ぉぉぉっっ! 舐めるなぁっっ!!」



 殴り飛ばされたゴースは、空中で反転し、サソリ尾を突き出す。

 それを避けずに受け止めた信太郎は、ゴースの尾を握りつぶし、強引に引っ張る。

 その瞬間、ゴースの尾は根元からもぎ取られ、その苦痛にゴースが絶叫した。



「があぁぁっ!!? お、おのれ……!」


「ゴアアァァッツ!!」



 もぎ取った尾を投げ捨て、信太郎は大地を揺らすほどの雄叫びを上げる。

 骨が砕けたのをゴースの顔面に、情け容赦なき追撃を叩き込む。

 ゴースの右前足を食いちぎり、残る手足を何度も何度もグチャグチャに踏み砕く。



 もうなにも考えられなかった。

 ただ怒りのままに、暴れ続けた。



 数十秒後。

 尾をもぎ取られ、手足を潰されたゴースが苦し気にうめいていた。

 それを見た信太郎は、満足そうに喝采の声を上げる。

 何もかもが圧倒的過ぎた。



 これが魔獣王ベヒーモスの本当の力だ。

 神様ガチャによって、この能力を得た時から信太郎には何となく分かっていた。

 この力は自分の手に余る。

 本気で使えば我を忘れ、周りを巻き込んでしまうと。

 だから信太郎は『これまでずっと力をセーブしてきた』のだ。

 リミッターを外し、ベヒーモスの能力を全開に使用した信太郎にゴースが勝てるはずもない。

 そのはずだった。



「……小僧、凄まじい力じゃな。じゃが、ワシには分かるぞ。その力、長くは使えぬな?」



 血ダルマでふらつきながらも、体を起こしたゴースは断言する。

 信太郎の拳は肉が裂け、血が噴き出していた。

 強すぎる自分の力に耐えられなかったのだろう。



「まともに戦えばワシの負けじゃが、持久戦ならどうかのぅ? ちぃとばかし自信があるぞ、ほれ!」



 その言葉と共に、温かい光がゴースを包み、潰されたゴースの体が急速に再生していく。

 それを見たマリが目の色を変えた。



「うそ! 回復魔法!?」



 ゴースの能力は『捕食した人の能力を奪う』ことだ。

 その内の一つがこの回復魔法だ。

 今まで食い殺してきた転移者の数だけ、ゴースは特殊能力を持っている。

 その力を活かして、時と状況に応じて戦い方を変えられるのがゴースの強みだ。

 ゴースが狙うのは持久戦。

 信太郎が自滅するまで生き延びればゴースの勝ちだ。



「では行くぞ、小僧。ワシが粘り勝つか、貴様が自滅するかが先か。勝負といくかのぅ!」




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