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33話 マンティコアのゴース



 ≪お待ちなさい。アリス≫



「あれ、その声はトードスのおじ様? どうしたの~?」


「お? なんだこれ? みんな聞こえてんのか?」



 その場にいた人々の脳内に声が響く。

 どこか陰鬱な印象を受ける男の声だ。



 ≪彼らへの試練はこれで十分でしょう。残りは魔物に任せて帰還するのです≫



「ええ~! でもぉ、お兄ちゃんたちだとここの魔物全滅するよ?」


 ≪大丈夫ですよ、アリス。今追加の魔物を送りました≫



 その瞬間、中空に黒い穴が空いた。

 直径は5メートルほどで、生きているように動き、見ているだけで、気分が不安定になってくる。



「お? なんだこれ?」


「門だよ~。強いお兄ちゃんには転移門やワープゲートっていった方が分かりやすいかな~」


「天丼やゲップ出ーろ……?」


「強いお兄ちゃん、耳や頭は大丈夫~?」



 どうやら本気で心配している様子のアリス。

 そんな彼女の背後にある転移門から何かがはい出してきた。



 頭は耳まで裂けた老人顔で、口にはサメのような歯がずらりと並ぶ。

 胴体はライオンで、背中から蝙蝠の翼とヤマアラシのような黒い棘がびっしりと生えていた。

 尻尾は長く鋭いサソリの尾だ。



「老人の顔にライオンの胴体、サソリの尻尾……。マンティコアか!?」



 ガンマの声に反応したのか、尻尾をくねらせるマンティコアは、信太郎達へと邪悪な笑みを向けた。

 その醜悪さにガンマや空見は声を失う。

 中途半端に人に似ているせいか、余計におぞましい。



「ゴースお爺ちゃんだぁ! 久しぶりだね~」


「相変わらず可愛いのぅ、お嬢ちゃん」



 アリスは醜悪な怪物と親し気に話す。

 声だけを聞けば、孫と祖父の会話に聞こえる。



「しゃべるのか!?」


「え、そいつアリスのジーちゃんなのか!? どっか悪いのか? 何喰ったらそうなるんだ?」



 流暢に人の言葉を話し出した怪物に、空見やガンマが目を剥いて驚く。

 信太郎のみ驚くポイントが違うが、余裕がないのか空見達は気にせずスルーした。

 さらにマンティコアの背後から、新手の怪物が2匹現れる。



 雄獅子・山羊・ドラゴンの3つの頭、胴体からは竜の翼と蛇の尾が生えている。

 信太郎でも知っている有名な怪物だ。



「お! 俺知ってるぞ。たしかキモイラって奴だ!」


「キマイラね」


「キマイラじゃぞ。間違える奴初めて見たわ」


「お? そーなのか。すまねぇ」



 敵と味方からツッコミが入り、一応頭を下げる信太郎。

 そんな信太郎を見つめながら、アリスはマンティコアのゴースへと警告する。



「ゴースお爺ちゃん。あのお兄ちゃん、馬鹿っぽいけどすっごく強いから気を付けてね?」


「ほっほぅ! お嬢ちゃんがそこまでいうとは。久々に楽しい狩りになりそうじゃのぅ。では、またの。お嬢ちゃん」


「うん! またねぇ、ゴースお爺ちゃん」



 アリスはそういうと、黒い門――≪転移門≫へと飛び込んでいった。

 その直後、転移門は最初からなかったかのように消えていく。

 残されたのはマンティコアのゴースとキマイラ2匹。





「空見の兄ちゃん、あの顔だけジーさんの相手は俺がやる。

 みんなはマリと一緒にキモイラって奴らを頼む」


「キマイラね。一人でやれるのかい?」


「アリスほどじゃねーと思う。だけど危ねー気がする」



 信太郎と空見の会話を聞き、ガンマは思考を巡らせる。

 なにしろ信太郎の動物的直観はかなり当たる。

 ならばマンティコアはかなりの強敵とみて間違いないだろう。



(出血で疲弊した信太郎は勝てるのか……?)



 心配するガンマだが、キマイラ自身もかなり強敵だ。

『鑑定の魔眼』によると、キマイラの体毛には『物理半減』と『魔法半減』の効果があるらしい。

 マンティコアのゴースなど鑑定不能だ。

 おそらく何らかの能力で鑑定を阻害しているのだろう。



(弱い奴から倒すべきだ)



 方針を決めたガンマは傍らの空見へと話しかける。



「空見、キマイラを速攻で倒して信太郎に加勢しよう」


「この状態の信太郎君を一人で戦わせるのかい……?」


「空見の兄ちゃん! 俺は大丈夫だぜ」



 ガンマの方針に空見は不満そうな表情を浮かべた。

 信太郎は元気そうにしているが、顔色と荒い呼吸を見れば、空元気だと誰でもわかる。



「ふむ。作戦会議は終わったかのぅ? ではそろそろ始めぬか? そちらにも援軍が来たようじゃしのぅ」


「援軍……?」


「援軍? ジーさん、難しい言葉知ってんなー。どんな意味だっけ?」



 ゴースの言葉にガンマは首を傾げる。

 兵長のソルダートが動いたのだろうか、そう思って城門を見ると、よく知った顔が、親友の顔が見えたことに驚く。



「マモル!」


「ガンマ! 遅くなってすまねぇな。腕利きを揃えてきたぜ!」



 そう言ってバリア使いのマモルは得意げな顔をみせた。



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