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31話 暴虐のアリス5


無防備な空見の首にアリスの手刀が迫る。

 だが攻撃直前に、花火が弾けるような音と共に、アリスは身をひるがえし、空見から距離を取った。

 そしてゆっくりと振り返ったアリスはプリプリと怒っていた。



「危ないなぁ~。だぁれ? 銃を撃ってきたのは?」



 アリスが空見への攻撃を中止したのは、誰かが銃撃してきたからだ。

 再び銃声が響く。

 アリスの死角から薫が銃撃をぶち込んだのだ。



「……なんで躱せるんだよ」



 苦々しい顔つきで薫は吐き捨てる。

 後ろに目があるかのように、アリスはわずかに身を反らして銃撃を避けたのだ。



「それ銃でしょ? まっすぐにしか飛ばないならよけるのも簡単だよ~。あっ、そうだ。久々にアレやってみようかなぁ! ねぇ、避けないから撃ってみてよ」


「舐めやがって……!!」



 額に青筋を浮かべた薫は撃鉄を起こし、拳銃の引き金を絞る。

 心地よい反動と共に、銃声が響く。

 その直後、薫はまさかの出来事に驚き、呆然とする。

 アリスが銃弾を摘み取ったのだ。



「懐かしい~。昔、銃弾を摘み取る訓練やってたこと思い出すよぅ!」



 絶句する薫は魂でも抜け落ちたかのようにぼんやりしていた。

 隙だらけで立ち尽くす獲物をアリスが見逃すはずもない。



「これ返すね~」


「あぐっ!?」



 薫は腹を抑え、血を吐いて倒れる。

 アリスが指で弾いた銃弾が薫の腹に着弾したのだ。



「コレ指弾って技なんだけど、思った方向にうまく飛ばないんだよね~。頭を狙ったのにぃ」



 アリスは残念そうな顔で薫に近づくが、はたと足を止める。



「そうだ! 練習しちゃおっかな~。ヒマだし」



 そういうとアリスは、周囲の地面にめり込んだ銃弾や、折れた剣を回収すると、薫の正面に立った。

 その距離は10メートルほど。



「いっくよ~!」



 可愛らしい掛け声と共に、アリスは指弾を放つ。



「ぐがっ!?」



 狙いは外れ、指弾は薫の肩に命中した。



「あ~!? もうちょっとだったのにぃ! 」



 アリスは折れた剣を素手で引きちぎり、たくさんの小さな破片にすると、手のひらにそれを握りこむ。



「どんどんいくよ~!」


「ぎっ!! あづっ!? ぐぅっ! や、やめっ……!!」



 アリスの指弾が、薫の肩や足、腹へと突き刺さっていく。

 薫は小さく体を丸め、必死に頭や心臓を守ろうと、両腕で指弾をガードする。

 だが20発目の指弾が薫の腕に命中すると、力が入らなくなった両腕は、だらりと垂れ下がった。

 薫の手足は真っ赤に染まり、あらゆる箇所に金属片が深く突き刺さっている。



「うん! 狙った所にいくようになったよ~。これで頭を狙えるね!」


「ぁ……」



 苦しげにあえぐ薫を見て、何を思ったのか、アリスはくるりと振り返り、まだ無事な冒険者へと笑いかけた。



「ねぇ、おじさんたち。ジャマをしたくなったらいつでもどうぞ~」



 その笑みに冒険者たちは震えあがる。

 とても薫を助けに行く気概はなさそうだ。

 それどころか、そっと逃げようとしている冒険者もいる。

 遠く離れた城門付近に、兵長のソルダートが見えるが、市長と揉めているのか、すぐにこちらにはこれなさそうだ。



「かわいそう~! 誰も助けてくれないみたいだよ。残念だったね~」



 恐怖一色に染まった薫の表情に、アリスの瞳に嗜虐の炎が宿る。



「さようなら~」



 愛らしい声と共に放たれた凶弾。

 それは風のように割り込んできた人影に、甲高い金属音と共に打ち落とされる。

 防いだのは空見だ。



「あれぇ? お兄ちゃんさっきの人だよね~。致命傷だったはずだけど……」



 不思議そうにアリスは首を傾げる。

 だがすぐに「なるほど!」と手を打つ。



「回復魔法だね? 珍しい~。あれ? それで強いお兄ちゃん治せばよかったのにぃ」



 アリスの言葉に空見が晴れ晴れとした微笑を浮かべる。

 一仕事やり遂げた男の顔だ。



「ああ、治しているよ。僕以外の人がね」



 その直後、背後で大地が揺れ、地響きが轟く。

 振り返るアリスの目には、血まみれの信太郎が立ち上がっていたのが見えた。



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