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20話 鬼熊ロースの焼肉



「みんな! 旨い肉料理ができたぜ!」



 食堂で合流した仲間に向かって開口一番、信太郎はそう告げた。



「信ちゃんが作ったの? 嘘でしょ? ちゃんと火は通した? 指とか切ってない?」


「まさか生肉じゃないよな?」



 マリは驚愕に目を見開き、ガンマは身構えた。

 2人の目つきはどんなヤバいモノを作ったのかと訴えている。



「ちげぇって! トニオのおっちゃんが作ってくれたんだ。先に味見したけどマジうめぇぞ!」


「トニオさんが? ああ、ビックリしたなぁ!」


「なら安心だな」



 トニオはかなりの腕前で素材の良さを活かした調理法を好む料理人だ。

 この2ヵ月間、マリ達は彼の料理を食べ続けてきたからその腕前は知っている。

 彼の作った料理なら間違いはないはずだ。

 マリ達は胸をなで下ろす。

 ヤバいものを食べさせられることはなさそうだ。

 そんな2人の安堵を知らずに、大皿をテーブルに置いた信太郎はきょろきょろと辺りを見渡す。



「小向とエアリスは?」


「風呂入ってるぞ、2~30分で来るだろ」


「う~ん、待ちきれないし先に食おうぜ。たくさんあるし。これ、熊ロースの焼き肉だってよ。うまいんだぜ!」



 大皿の上には脂の乗った熊肉の焼肉が所せましに敷き詰められている。

 信太郎はその中で一際大きな塊を手に取り、かぶりつく。

 そして一噛み毎に幸せそうな顔を浮かべる。



「お、おい。そんなに旨いのかよ?」


「じゃあ私も」



 それに釣られたのかマリやガンマも熊肉へと手を伸ばす。

 2人は一口サイズに切り分けると鬼熊の肉を口へ運ぶ。



 炭火風味な香りと程よい歯ごたえ、口の中に脂の甘みがじわりと広がってくる。

 きめ細かい肉質に柔らかな舌触り。

 とろけるような食感。

 咬む度に甘い香りとジューシーな肉汁が口いっぱいに溢れる。



「うわ! すげぇな!」


「お、美味しい!」



 地球でも中々にお目にかかれない肉に思わず歓声を上げる。

 珍しくマリまで肉料理に夢中になっていると、食堂の入り口の方から引きずるような足取りの2人組に気付いた。



「お! 空見と薫の兄ちゃんじゃねーか! うまい肉料理があるぜ!」



「ああ……」


「……おう」



 ケガはなさそうだが空見と薫は全く元気がなく、足取りもふらついている。 

 心配したガンマが口を開く。



「ずいぶん疲れているみたいだがどうした?」



「この2日間ずっと歩くか戦っていたんだ」


「寝てないんだよ、俺ら。何か食ったらすぐ寝るわ」


「じゃぁこれ食えよ! マジでうめぇぞ!」



 フォークに肉を突き刺し、信太郎は空見達の口元へ突きつける。

 すると珍しく空見までも少し迷惑そうな表情を浮かべる。



「ちょっと信太郎君、せめて胃に優しそうなものを……」


「お前さ、ちょっと近すぎ……ちょっ、フォーク刺さるっつーの!」



 やがて観念したのか、空腹に負けたのか2人はフォークを受け取り、肉を口へ運ぶ。



「あ、美味しいね」

「……うまい」





 うまいうまいと連呼しながら肉を頬張る信太郎たちを、物陰から覗くものがいた。

 料理人のトニオである。

 彼は自分の料理が客に受け入れられるかチェックする癖があった。

 今回の料理も問題なさそうだ。

 常設メニューに鬼熊の肉料理を入れよう。

 トニオは静かにそう決めた。



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