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14話 新たなる脅威2



 ガンマがこの世界に転移した時、3人の男と一緒だった。

 石井マモルと粕森、葛谷の3人だ。

 簡単な自己紹介を終えて、「お互いに能力を明かして協力しようぜ」とガンマはそう切り出した。



「お前アホか?」


「は? どういう意味だ」


「能力は俺たちの生命線だぜ? 簡単に明かしちゃ危ねえだろが。

 俺は1人でやらせてもらうぜ」


「あ、俺も1人でやるわ。むさい男と組んでられねーし」



 葛谷と粕森はそういうと遠くに見える町へと歩いていった。

 その時、ガンマはあまり疑問に感じなかった。

 確かにそういう考え方もあるかと自分を納得させた。

「一緒に組もうぜ」と言ってくれた転移者の石井マモルとはすぐに仲良くなった。

 愛煙家で同じ大学だったなど共通点が多かったおかげだろう。



 マモルと共にギルドで冒険者として活動している時、何度か葛谷や粕森を見かけることがあった。

 1人でやるといったのだ。

 かなり強力な能力を手に入れたのだろう。

 そう思っていたが2人は全く依頼をこなしている様子はなかった。

 葛谷は品定めでもするような視線で冒険者達を見つめ、粕森は毎日違う高ランク冒険者へと声をかけていた。

 すれ違った時に確認すると粕森の冒険者プレートは最下級の青銅のままだった。

 高ランク冒険者が青銅級の冒険者と組むはずがなく、いつも迷惑そうに追い払われていた。



 不審に思ったが何か事情でもあるのかもしれない、助けが必要なら向こうから来るだろうとスルーしてしまった。

 あの時に“鑑定の魔眼”を使っていればあの事件は避けられたかもしれない。

 今はそのことを心から後悔している。



 数日後に再開した時、彼らは高ランク冒険者の仲間になっていた。

 特に粕森はなんと銀等級のパーティに加入していた。

 あれほど邪険にされていたというのにやけに仲が良さそうだった。

 そして会う度に彼らの勢力は増えていき、そのパーティメンバーの誰もが粕森や葛谷に忠実な臣下のようだった。



 さすがにおかしいと思ったガンマは“鑑定の魔眼”で彼らを調べ、そして驚愕した。


 粕森 星夜 

 洗脳系能力者:あらゆる生物を洗脳し、自分に忠実な部下にできる

        ただし転移者や転生者、英雄には無効


 葛谷 真

 催眠系能力者:あらゆる生物の認識を歪め、操れる

        即効性はないが転移者や転生者、英雄にも有効



 ガンマ達はすぐにこの事をギルドに報告した。

 この国では人の心を操る魔道具や術の行使は重罪とされている。

 ギルドも彼らの様子に異常を感じていたようで、すぐに確認に動いてくれた。

 だがそれはあまりに遅すぎた。



 葛谷は催眠能力を悪用し、定期的にギルド職員から情報を抜き出していたのだ。

 ギルドの動きに気付いた葛谷はすぐに姿をくらませた。

 どうやらいつでも脱出できるように準備していたらしい。



 逆に粕森の方は完全に無警戒で冒険者ギルドへやって来て、待ち構えていた高ランク冒険者にあっさりと取り囲まれた。

 粕森の洗脳した冒険者は手練れ揃いだが、依頼を受けた冒険者は格上の金ランクだ。戦いは一方的で、すぐに終わるかと思われた。



 洗脳した仲間の多くが倒され、命の危機を感じた粕森は最悪な手段を使ってしまった。彼は町全体を覆うように能力を使ったのだ。

 その結果、洗脳された街の”とある人々”は、狂戦士のように暴れ狂う。

 さすがに町一つ覆ったせいか力は分散され、精神力の弱いものしか洗脳できなかったが。


 だがそれが逆に冒険者や兵士を苦しめることとなる。

 精神力の弱い者、つまり幼い女子供や老人が狂ったようにお互いに殺し合いながら、冒険者ギルドへと雪崩込んで来たからだ。



 いかに高ランクな冒険者でも町中で起きる暴徒に対応できるはずがない。

 しかも相手の多くは幼い女子供だ。

 ようやく混乱を収めた時にはおぞましい程の死体の山が築かれていた。




 誰もが呆けた様子で突っ立っていた。

 それも仕方ないことだろう。

 多くの修羅場を潜ってきた冒険者でもここまでの惨劇は見たことがないのだから。



 平和で活気のあった町が今では見る影もない。

 辺り一面が真っ赤に染まり、大通りには所狭しと死体の山が積まれている。

 死体のすべては悪鬼のような形相だ。

 その中にはガンマやマモルの見知った顔もいくらか混じっていた。



 それは小さい露店のおじさんで、よくサービスしてくれた人だった。

 息子が結婚したと、孫が出来たと嬉しそうに話していたのをよく覚えている。

 今、彼の首には包丁が根元まで突き刺さっている。

 抱き合うように死んでいるのは彼の奥さんだ。

 肩から胸にかけて斧で断ち切られていて、斧の柄の部分を握っているのはおじさんだ。

 おそらく狂わされてお互いに殺しあったのだろう。



 彼らの息子夫婦は逃げられたのだろうか。

 祈るような気持ちでガンマは周囲を見渡すが、すぐに目を閉じた。

 視たくない光景が見えたからだ。



 この日、生まれて初めてガンマは人を殺したいと思った。

 そして町の惨状を目に焼き付け、恩人たちの死体の前で誓ったのだ。

 あの男だけは絶対に地獄へ叩き込んでやると。



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