11話 VSゴブリン部隊1
「凄いっすね、この森」
「ああ、こんな良い所中々ないよ」
「景色もきれいでピクニックとかしたいですね」
「住みてぇくらいだな!」
「アンタたち、気を引き締めなさいっての」
のほほんと森を見渡す信太郎たちにエアリスのツッコミが入る。
信太郎たちはエアリスのガイドで森の奥深くへと来ていた。
その間、何度も迂回はしたが一度も戦闘にはなっていない。
エアリスとマリのおかげだ。
彼女たちは無駄な戦闘を避けるため、あるコンボを生み出していた。
マリの幻影魔法『イリュージョン・ベール』で敵の視覚を誤魔化し、エアリスの無音魔法『サイレント』で自分たちの出した音だけを消す。
このおかげで多くの見回りのゴブリン部隊をやり過ごすことができた。
「この状態でゴブリンに奇襲しかけた方がいいのでは?」という空見の意見をエアリスは却下した。
かなり繊細な魔力操作が必要らしく、接触されるか、術者が他の魔法を使おうとすると解けてしまうらしい。
薫を見つけるまでは無駄な戦闘をすべきじゃない。
わざわざゴブリンの警戒度を上げる必要もないだろう。
それ以外にも、エアリスはこの森で戦いを避けたい理由があったのだが。
考え込むエアリスの耳に聞き覚えのない音が聞こえた。
「今の音って銃声っすよね」
「薫だ!」
この辺りで銃を持っているのは薫しかいない。
信太郎たちは銃声が聞こえた方へと走り出した。
◇
ひっきりなしに響く銃声を頼りに走ると、少し開けた場所に出た。
大きな川が森の中を突っ切るように流れていて、その向こう岸でゴブリンたちが何かと争っているのが分かる。
遠目で分かりづらいが、視力5.0を超える信太郎の目には、複数の冒険者たちの中に薫がいるのがはっきり見えた。
「間違いねぇ! 薫の兄ぃちゃんだ!」
「小向君! マリさん! 魔法で援護を……!」
友の危機に空見が悲鳴のような声を上げる。
「任せて下さい! 小向君、いくよ」
「了解っすよ! 魔法でゴブリン吹き飛ばしてやるっす!」
マリと小向は上級魔法を打ち込もうとするが、エアリスに制止される。
「攻撃魔法は使っちゃダメ!」
「な、なんでっすか?」
「さっきここの精霊に聞いたけど、この森に住む大精霊ヤバいらしいの。
下手に魔法使って森を破壊したら危ないわ!」
気配から察するに、この森に住む大精霊はエアリスと同格だ。
彼は自分の住処を人とゴブリンの争いの場にされ、かなり苛立っているらしい。
ピリピリとした気配から我慢の限界は近そうだ。
「じゃあどうするんすか!? このデカい川渡るの時間かかるんじゃ……」
「大丈夫よ。おバカ……じゃなかった。シンタロー、アンタの出番よ」
「お?」
◇
「不味いぞ! どんどん集まってくる。大丈夫なのか!?」
「大丈夫さ! 俺のバリアがある。もう少し時間をかければガンマの魔眼で一網打尽にできる」
ゴキブリのように至る所から現れるゴブリンに薫はキレ気味だ。
銃弾をお見舞いしているが、減るよりも加勢してくるゴブリンの方が多い。
そんな薫を元気つけようとするのはガタイの良い男だ。
彼の名はマモル。
信太郎たちと同じ転移者だ。
黄色のガチャを引いた彼の能力は『バリア』。
その名の通り防御系の能力であり、先ほどからゴブリンの猛攻を防げているのは彼のおかげだ。
「あと一時間で能力が使用可能になる! 何とかしのいでくれ!」
「バリアはそんなに持たんぞ!?」
「どうにかしろ、この中二病が!」
「うるせーよ! 能力の名前がそれっぽいだけだろうが!」
薫の罵声にやせた男が叫び返す。
彼も転移者で、名前はガンマという。
マモルと同じ大学生で手に入れた能力は『七つの魔眼』。
彼の能力は使用条件や一日の使用回数が決まっていて、後先考えずに使うとあっという間に不利になってしまう。
今のこの状況のように。
(クソ! どうする? 川に飛び込むか? 流れは速いしどうにか……いや、ダメだ! ここはゴブリンの土地だ。絶対に先回りされる)
必死に打開策を考えるガンマ。
ふと気づくと敵の猛攻が急に止んでいた。
「攻めてこないな?」
「……もしや俺のバリア切れを狙ってるのか?」
「いや、何かを警戒しているみたいだよ」
マモルにそういうと薫は油断なく辺りを見回す。
戦闘音を聞きつけ、他の魔物が来たかもしれないと考えたのだ。
その直後、凄まじい速さで何かが飛んできた。
それはゴブリン部隊と薫たちの真ん中に轟音と共に着地し、周囲には土煙が舞う。
「うおっ!?」
「な、なんだ! 新手か!?」
まるで戦車の砲弾が直撃したかのような衝撃だ。
ゴブリン部隊と薫たちは武器を構えて土煙を注視する。
そこから出てきたのはお気楽そうな表情の男だった。
「お! やっぱり薫の兄ちゃんだ。助けに来たぜ!」




