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98 番外 彼女が出会う人 Ⅰ

 頭がガンガンする……。

 わたし、世界一可愛いフローレンスはベッドの上で頭をおさえる。

 ベットの周りには水だとおもっていたお酒の空き瓶が並んでいた。

 少し頭を抑え、鏡台で髪を整えると食堂へ降りる事にした、だって宿なんだし引きこもる事も出来ないしー。

 

 階段の途中で副隊長のファーランスさんがわたしに気づき、近寄ってきた。

 微笑みが綺麗な人なんだけど、ちょっとだけ怖い。


「おはようございます」

「お、おはようです」

「お一人ですか?」

「えっ」


 うん、ヴェルは居ない。

 マリエルさんの所へ行かせたのはわたしだ。

 小さく頷くわたしと、それ以上何も聞かないファーランスさん。

 はぁ……気の利く女性ってこういう人なんだろうなぁ。


「では、フローレンスさんを村まで送りましょう」

「え、送るっても近いし別に」


 だって馬で半日もかからない。

 わたしだって乗れる事は乗れる! たぶん……きっと……、ヴェルが近くに居た時は大丈夫だったんだって。


「いえ、送らせてください。

 それに、人質に取る場合もありますので」

「あっ……。そんなにやばいの?」

「念には念にという事で、ナナ。コーネリア」


 呼ばれてくる二人。

 どっちもわたしと年齢が近いのに立派な友達。

 その事をお風呂でナナっちに言ったら、あんたのほうが立派よと胸を見て言われた。

 ちょっとだけ嬉しいけど、胸が大きくても振られたら意味無いじゃないと、今は思う。


「うわっ、目まっかよ」


 思わず声がでた。

 だって、ナナっちの目真っ赤なんだもん……。


「ふ、フローレンス目が赤いわよっ!」

「え、ナナこそっ!」

「べ、別に赤くないですしー、そ、そう興奮して寝れなかっただけ。

 全然、おきたら……おきたら隊長が居なくて……泣いたんじゃ……」


 首を下に向けはじめた。

 コーネリアさんが、よしよしと背中をさすってる。

 あー……、そういえば皆には残るっていってたっけ、あの人。

 コーネリアさんが、私の顔を見てそっとハンカチを渡してきた。


「あ、あの。

 フローレンスさんも目に涙が浮かんでいます、これ使ってください」 

「へ? あ、ありがと」


 涙を抑えて鼻をかむ。

 あっ……。

 鼻水までつけてどうする、わたし。


「ご、ごめんなさい、鼻までっ」

「大丈夫です、変えのハンカチはまだ数枚あるので」


 天使のような子。

 村に戻ったらお気に入りの奴で未使用があったはず、それで代えそう。


「では、三人は裏口から出てってください。

 二人は昨日の命令が届く前に、フローレンスさんを護衛しながら村に滞在という事になっています。

 あの馬鹿、もといマリエル隊長じゃありませんけど、こっちはこっちで徹底的に応戦しますので」


 ファーランスさんが、わたし達に微笑む。


「あの、話し合っていたんですか……?」

「何をです?」

「マリエルさんに置いて行かれたのに、笑っていられるなんて……」


 思わず聞いてしまった。

 だって、周りをみると落ち込んでいる人と、落ち込んだ人を慰めている人にわかれているし。


「そ、そうよ! コーネリアも、おねーさまが行くって知っていたら教えてくれてもいいじゃないのっ! 親友でしょっ!」


 ナナっちも、隣にいるコーネリアさんと、ファーランスさんを交互に見る。


「どうでしょう、直接話し合ったわけではないですね。

 おそらく、マリエル隊長なら帰ってこないだろうと思ってましたけど。

 大体いつもそうなんです、こういう時に、あの人は勝手に行動して、尻拭いをするのは何時も私です。

 第七部隊設立の時も、何も相談しなく直で城へ乗り込みましたし。

 ああ、そうそう休暇申請の時も、突然に……」


 ファーランスさんが笑顔で、恨みを言い出し始めた。

 止まらないし、怖い。


 助けを求めて横をみると、ナナっちもコーネリアさんも、周りを見て同じく助けを求めている。


「っと、ふくたいちょうー。今後の事をきめましょうっ!」


 ファーランスさんの背後から、腕を回す人、ええっと……名前は覚えてない。


「クレイさんっ!」


 コーネリアさんが、そう名前を呼んでいる。

 そう、そんなような名前だったわね。

 しょうがないじゃない、年上の人で、からみがないんだし。

 手を振られて、任せとけと合図をしているので、私達は裏口から宿を出た。

 

 馬は二頭で、わたしとコーネリアさん、それとナナっちが乗る。


「急ぎましょう。

 全員が全員、私達の味方ではないと聞いています」


 コーネリアさんが現実を言ってくる。

 わたしとしても、宿の人などに迷惑はかけたくない。

 カタリナの町の正式門ではなく、裏道から抜けるらしい。

 人目を避けるように移動する。

 ヴェルと一緒に入った温泉施設の近くから細い道を入っていく。

 小さな、といっても私達が通るには十分な鉄格子が見えた。

 ナナっちが鍵を外すとゆっくりと外していく。


 私達と馬が町の外へ出ると、最後にナナっちが元に戻しておしまい。

 かなり遠回りして村に戻るらしく、恐ろしく時間がかかると途中で言われた。


 かっぽ。

 かっぽかっぽ。

 かっぽかっぽかっぽ。


 いい加減馬の音だけ聞いていると、洗脳されそうになる。


「ねー、コーネリア。

 この辺ならもういいわよね」

「そうですね……、大丈夫と思います」


 と、いうのは。

 喋りの事。

 馬に乗りながら喋ろうとすると、大声になる。

 なので、町からかなり離れるまでわたし達は無言で移動した。

 わたしはコーネリアと喋ろうと思えば喋れたけど、ナナっちがかわいそうなので、それはしてない。


 それから、わたし達は喋りながら歩く。

 話題はもっぱら恋愛話だ。


「で、コーネリアさんはどうなのよー?」

「え?」

「え、じゃないわよ、コーネリア。

 フローレンスは、ヴェルに振られた、あたしはマリエルおねーさまに振られた。

 あとは、コーネリアの好きな人は誰なのよっ、って話じゃない」

「私は特に好きな人は……」

「一人ぐらいいるでしょー!?」


 コーネリアさんはわたしをちらっとみて、前を向く。

 なんなんだろう?。


「いえ、別に……。そ、そうだお昼にしませんか?」

「話題それたー」

「で、でも朝食も取ってませんし……」


 その言葉で、わたしとナナっちのお腹が鳴る。

 もう、強烈に……。

 確かにお腹は減った。

 馬を適当な木に繋ぎ、私たちは食事を取る事にした。


 そして、私は一人もっと森の奥へといく。

 なぜと思うかもしれないけど、だって……聞かれたら嫌じゃないの。

 全てを終えて、手を洗う。

 幸い小さな川があったのでその辺は問題なかった。


「どうせなら、何か食べれる実ぐらいほしいかも。

 えーっと……、なんだっけかな。

 そ、そう確か赤い実は食べれるとか何とか……」


 森の中を見渡す。

 黄色い実や赤い実などが成っている。

 適当に進むと、わたしは盛大に転んだ。


「いった……。もう木が何かに…………」


 途中で言葉が止まった。

 だって、わたしがつまずいたのは木ではなく、血だらけで黒髪の男性だったから。

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