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91 腕の十字傷

 結局は腰に手ぬぐいをつけ、僕は皆と風呂へと入った。

 肌を隠す派と、全部見せている派に別れている。


 その中でも、全部見せている派は、マリエル、チナ、クレイ、ミント、あと動けないアデーレ。

 残りは全身を隠すようにして一緒に入っている。

 でも、僕を全身を見る視線は、前を隠している人のほうが刺さるのは気のせいか……。

 不思議な事に誰一人出て行こうとしない。


「ヴェルにい、競争するのだー」


 ミントのほうを振り向くと、湯船で泳ぎだしている。

 ファーの怒鳴り声が聞こえた。


「ミント副隊長、湯船で泳いではいけませんっ!」

「いいじゃない、休日ぐらい。

 それとも泳げないからって」

「泳げますっ! ミント副隊長やマリエル隊長が規格外に泳ぐだけです。

 まったく……もう、他に人がいる場合は駄目ですからね」


 ファーもなんだかんだいって、甘い所はある、文句も言いつつミントの泳ぎを許可したのだ。


 僕はゆっくりと湯船へと入った。

 泳いでいるミントに悪いけど競争は断る。


「二人で泳ぐには狭いからね、競争はしないよ」

「なのだ?」

「それに、お風呂はゆっくり浸かった方がいい」

「わかったなのだ、一人で泳ぐのだ」


 泳がなかった理由はもう一つある。

 競争したとして、僕は腰布一枚だ。

 ミントは全裸。

 お湯の中で目を開けたとして、どっちが前にでも、いい結果はない。

 見えてしまうか、見られてしまうか。


 湯船で一人瞑想をする。

 色々騒ぎはあったけど、こうして湯船に浸かるとそれも忘れそうだ。


「ヴェルさんの回復を侮ってました、これであれば、少し待てばよかったですね」


 直ぐ近くで声がし、僕はまぶたを開ける。

 タオルで前を隠したファーが湯船に入ってきた。


「そうですね、すみません」

「いいえ、ヴェルさんが悪いわけでは……。

 マリエル隊長は知ってらしたかも知れませんけど」


 ちらっとマリエルを見ると、フローレンスお嬢様のタオルを奪い取ろうとしていた。

 何をしているんだか……。

 僕もファーも特に他に喋らない。

 肩まで浸かりお互いの心労を無言でねぎらった。

 ファーが曇った眼鏡を拭いて掛けなおす。


「本当あなたは不思議な人ですね」

「え……?」

「マリエルが言った、篭手の力の継承……。

 恐らくですが、あれは私が言ったんですね」


 僕はファーを見つめる。


「代々伝わる秘儀で、マリエルには教えた事は無いのです。

 もう一人の私が貴方を信じた。

 そして、短い時間ですけど、ヴェルさんを見て信用するに値する人物と思いました」


 僕はお湯の中で泳ぐミントを見ながら、

「そんなに買いかぶっても何もないですよ。

 逃げたんです……」

 そう伝えた。


 あの時、皆が死んだ。

 だからどうしたというんだ。

 あの時自分一人で生きていける選択肢はあった、ただ、第七部隊、いやマリエルが好きだから死んだ事実から逃げた。


 バッシャアアアアン。


 僕の顔、いや頭からお湯が振ってくる。

 口に入ったお湯を思わず飲んでしまった。


「ごぼっ」

「マリエル隊長っ!」


 お湯を拭うと僕の隣には全裸組のマリエルが居た。

 勢いをつけてお湯へと飛び込んだのだろう、子供かっ!。

 僕の肩へと手を回してくる。


 だから、そういう事をするからフローレンスお嬢様が怒るんであって……。

 マリエルは僕の考えを読んだ。

 指をパチンと鳴らす。


「ナナ、コーネリアっ! フローレンスちゃんを押さえ込んでいてっ! 丁寧に洗っておいて」

「「うわ」」


 僕とファーの非難の声がかぶった。


「マリエルおねーさまの命令、完璧にやりどけます! フローレンス……逃がさないですわ!」

「ご、ごめんなさいっ! 隊長命令なのでっ!」

「や、わたしたち友達でしょ、でしょ!? いやああまって、そこはっ」


 見無かった事にしよう。

 僕ら二人に聞こえる程度の声で話してくる。

 

「二人とも、何くらーい顔をしてるのよ。

 最後だけ聞こえたけど、逃げて上等。

 逃げ分以上に巻き返せばいいのよ」


 凄く簡単に言い放った。

 ああ、やっぱりマリエルはマリエルなんだなと認識する。

 僕が深く考えすぎなのかもしれない。

 

「僕は先にあがらせてもらいます」

「もっと目の保養していけばいいのに」

「…………目の保養をしに来たのでなく体を洗いに来たので」

「それもそうね、帰り道わかる?」


 分からないはずないと思いつつも、大丈夫ですと答えた。

 脱衣所で一人着替えをする。

 疲れた……。


 宿に戻り残っていた聖騎士達と軽く挨拶して、部屋へと戻った。


「巻き返せばいいのよ……か」


 僕にとっての巻き返しとはなんなんだろうか。

 マリエルも生きているし、フローレンスお嬢様も無事だ。

 僕が一週目に対して、マリエルは一週半って所、聖騎士達の力を消す毒の事も知っている。

 あれ……、実は全てかなえ終わっているんじゃ?。

 突然左腕が痛みだす。

 黒篭手をつけていた場所で今は何もつけていない。


「ぐ…………」


 左腕に十字の傷が浮かび上がり血が出て来た。

 世界がぼやける。

 魔力の消失!? 今日はこれで体の自由が効かなくなった……、いやでも苦しいけど動く。

 オオヒナの世界へ連れて行かれたような感覚、でも僕の腕には黒篭手はない。


「おさまった……?」


 左腕を見ると、古くから在ったような傷が出来ていた。

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