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89 力比べ Ⅱ

 はぁはぁ……。

 気付けば僕の息が荒かった……。

 気持ちを落ち付かせる為に深呼吸をする、僕の周りには練習用ではない矢が地面へと大量に刺さっていた。

 刺さるだけならまだ可愛いほうで、地面がえぐれている物もあった。


 僕の見つめる先には、空になった矢筒を見てため息を出すアデーレが見える。


「降参です……」


 アデーレが膝から崩れた。

 いつの間にかきていたミントがアデーレを押さえようとするが、身長差のあまり潰れる。


「あーちゃん、つぶ、つぶれるなのだっ!」

「すみま……せん、一歩も……動けそうにありません」


 直ぐにチナとクレイが動けないアデーレへ肩を貸していた。

 アデーレが僕の方へ顔だけを向けた。


「ヴェ……ルさん……完敗です」


 事前に用意されていた担架に乗せられている、大事はなければいいけど……。

 一歩間違えば死ぬような、練習試合はやっと終わった。

 前を向くと潰されていたミントが、手足を動かして準備体操をしている


 …………。


 ………………。


「無理」

「何がなのだ?」

「いや、ミントもしかして僕と戦おうとしてるよね?」

「一緒に遊ぶのだ!」


 パンパンパンと手を鳴らしてマリエルが割って入る。


「ミントそこまでよ、どうみてもヴェル疲労してるじゃない」

「なのだ……?」

「そうですね、体を動かしたいなら私が付き合います、というかミント付き合ってください」


 ファーも会話に入ってきた。


「やったなのだっ!」

「でも、少し矢を片付けてからにしましょう」


 ミントはファーの言葉を聞いて、刺さっている矢を回収し始めている。

 マリエルとファーが僕の横へ来て、マリエルのほうが先にねぎらいの言葉を伝えてきた。


「おつかれさまっ!」

「どうも……、練習試合と聞いていたんですけど、殺されるかと思いました」

「途中からというか、最初から? アデーレ本気だったわねー」


 他人事のような言葉に肩を落とす。

 ファーが一歩前にでて、僕へ口を開く。


「肩を落とさないで下さい。

 今日ほど自分が副隊長だったのを恨めしく思った事はありませんね。

 一対一であの戦い、私が出ればよかったと思います、ミント副隊長もそうだとおもいますよ」


 少し遠くから、ミントがファーを呼ぶ声がする。

 いつの間にか刺さっていた矢は回収されたらしい。

 

 マリエルに引っ張られてよろよろとしながら場外へと行く。

 場外では、担架に乗せられたアデーレが看病されていた、チナとクレイの顔が暗い。


「すみません隊長……」

「別にいいわよ、その分はカバーするから」


 話がわからないので、マリエルの顔を見る。


「肩の筋がきれたんでしょ。

 本気になった実力は一に、二クラスなんだけどね。

 その分回復能力が少し足りないのよ」

「ご、ごめん。

 無理をさせたみたいで」


 僕はアデーレへと謝ると、アデーレは淡々と話す。


「いいえ、私が無理をしただけです。

 それにしても、最後の四連影矢まで防がれるとは思いませんでした……」


 影矢か、一本の矢の影に隠れるようにして打つ二本打ちとおもったけど、アデーレはそれを目に見えないスピードで放った。


 三本目までは体が自然に動いた、四本目は予想外で無理やり弾いた、正直記憶にあまりない。

 素早く肩を動かしての二回攻撃というのか、僕から見たら一回の動作に見えたけど。


「あれは死ぬかと思った……」

「ご冗談を、ともあれこの怪我は自身の未熟さです、お気になさらないでください」


 アデーレがチナとクレイに肩へ包帯を回してもらっている。

 チナが僕を見てきた。


「オレがいう事でもないけど、アデーレもそういってるし」

「いやー、本当にかませ犬になった……。

 全力を出していても君には勝てそうにないよ……」


 すこししょんぼりしている二人と会話しながら、ファーとミントの試合、いやマリエルから言わせると訓練を見る。

 細かく動くのかファーで、ミントも素早く動くが少し振りが大きい。

 二人とも、ギリギリの攻防で先ほどから切り傷が……、聖騎士の力なんだろう直ぐに塞がっていく。


 暫く続いた所で、ファーが転んだ。

 ミントは持っていた剣をファーの胸付近で止める、そして突然笑いだした。


「勝ったなのだー!」


 大きく叫ぶと凄い喜んでいるのかわかる。

 二人が歩いてくる。

 ミントは嬉しそうで、ファーは少し悔しそうだ。


「おっつかれー、さて……じゃぁ皆で温泉でもいきましょうか」

「そうですね……」

「温泉、温泉ー!」

「隊長、私は……」

「アデーレはオレ達二人が手伝うから」


 なんでだろう、温泉と聞いていやな記憶しかない。

 フランと出会い、その後裸で怒られた記憶だ。

 少し休みたい。


「僕は遠慮しておきます」

「ヴェルいいたくは無いけど、ちょっと匂うわよ。

 もちろん、私は何時までもクンカクンカしていいんだけどー」


 慌てて自分の衣服の匂いをかぐ。

 確かに汗臭いのが取れていない、着替えたばかりなのに今の練習試合でさらに汗をかいた。


「マリエル……、一応聞くけど男女別だよね?」

「一緒のほうが良かった?」

「そんなわけないっ!」


 僕が叫ぶと、マリエルは眉を八の字にしている。

 ファーが僕へと助け舟を出してくれた。


「ご安心ください。

 ヴァルさんが来たという事で、一人用の施設を借りました」


 その言葉にほっとする。

 しょうがないわねーというマリエルの言葉、僕はベンチから一歩立とうとして、足が崩れた。


 全身に力が入らない……。

 あれ……なんで……毒!? いやでも、僕が毒なら一緒にいた聖騎士達も回っているはずだし。


 マリエルの棒読みな声が聞こえる。


「たいへーん、限界以上の力を出したのね。

 魔力の供給不足って奴かしらー。

 これじゃ一人で温泉いけないわねー」


 計られた! マリエルは僕がこうなる事を知っていたような口ぶりだ。

 だからアデーレを対戦相手に選んだのかっ。


「マ、マリ……エ……ルっ!」


 思わず叫ぶと、ミントが既に決定事項として喜んでいる。

 叫んだはずの声も小さく耳に届いていない。


「ヴェルにいと一緒おふろなのだー!」

「い、いけませんっ! 男女一緒になどっ!」

「でも、匂いするし体拭くっても脱がさないといけないなら、まとめて入ったほうが早くない?」

「そ、それは……」

「それに私が密室で体拭いてもいいんだけど、ファー怒るじゃない」

「それは当然です! 何をしでかすかっ! …………仕方がありません……まぁ皆さんがいいなら」


 僕の意志はまたまた無視されそうです……。

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