82 一人の少年の死
僕は一人で城の中を探す、時おり顔無しとすれ違うが、お互いに無言だ。
あっちも僕の姿を見ても何も言わないという事は、フローレンスお嬢様はまだ見つかってないのだろう。
外に出てないか確認するのに、一般兵の出入り口へと来た。
何人かの兵士が馬を世話していた。
僕の顔を見ると中年の兵士が走ってきた。
「能力者のヴェル君だったね」
「知っているんですか……?」
「そりゃ、こないだの試合は見させてもらったよ。
年甲斐もなく興奮した、君だったら直ぐに隊長クラスになれるだろうし、今日は城の見学かな?」
「ええっと……」
僕は事情を説明する。
フローレンスお嬢様が行方不明になり、何か気になった事はなかったかなど。
「うーん、あいにくと今日は外回りの日でね。今馬達と戻ってきた所なんだ。
でも、鍵が無いとこっちの出入り口から出れないし、誰か出れば直ぐ外にある門兵に捕まるから来てはいないと思うよ」
来ていないか……。
行き止まりだから戻ろうとする、でも、よく見ると隠れるように別の道が続いている。
「こっちの道は?」
「ああ、使い古した道具を保管してる物置があるだけだ。
担当者が居なくて封鎖してるんだ」
何かに気付くように言葉をとめる中年の兵士。
「いないと思うけど……そこもみるかい?」
「いいんですか?」
「いいさ、俺にも娘がいるんだが、万が一行方不明となったら同じ気持ちになるとおもう。
それに万が一そこに入って、怪我して動けない可能性もないわけじゃない……、何かあったらすぐに呼んでくれ」
鍵を受け取り一人で向かう。
中年の男性達は馬の世話があるらしいし全員で行く事もない。
道を塞ぐようにつんである大樽を動かして一人で進んだ。
立ちくらみがして、壁に背中をつける。
さっきから足元に力が入らない。
ふと廊下に飾られている花を見た。
ヒメランカの花だ……。
昔クルースに騙されて取りに言った花。
結局僕からフローレンスお嬢様の誕生日プレゼントとして渡して喜んでいたっけ……。
探そう、誰かに連れ去られたのは明白だ。
問題の部屋が見えてきた。
扉の前に立つと中でゴソゴソと音がしているのが聞こえた。
誰も居ないはず……。
扉の鍵は南京錠と教えられている、その鍵は壊され床へと落ちていた。
「ごほっ……あのー……誰かいるんですか?。
…………フローレンスお……嬢様?」
先ほどまであった物音が止まった。
ネズミの仕業だろうか? いやネズミなら鍵は壊さない。
扉を開けた。
室内の空気が外に流れてくる、その匂いは何か生臭い。
物置の中は棚が沢山あった。
壁にかけてあるランタンに火をいれその中をしらべる。
奥のほうへいくと壁に寄りかかっている人影が見えた。
「フローレンスお嬢様……?」
ランタンで照らしていく。
可愛らしい小さな足が見えてくる、なぜか裸足だ……。
ピクリとも動かない。
ゆっくりとランタンをあげると、破かれた服と、そこから見える裸体……。
確実に生きているとは思えない濁った目……。
「げふっ!」
背中から胸に衝撃が走った。
刺されたっ、それは直ぐにわかった。
僕の胸から剣が飛び出ているからだ。
「ふう、なんだお前ざんすか……」
「マキシ……ム?」
「これだから平民はざんす、様をつけろ様を! たっくざんす」
「なん……」
「冥土の土産ざんす、お前はこの女を無理やり襲い、われに返って自殺した。
そういう筋書きざんすよ……。
たっく、平民の癖に目が覚めたら暴れまわって、楽しむ前に殺してしまったざんす」
僕は力を込めて剣を抜こうとする。
両手から血が出るも構わない。
「ああ、その剣は能力者殺しの液体をぬってるざんすよ。
本当はあの仮面の男に使うつもりだったのに、本当平民は空気がよめないざんすね」
言葉通り剣が抜けない。
マリエルの力を継承した能力者の体が傷を治そうとするも、白く煙がでるだけで血は止まりそうになかった。
「まてよ、コイツを人質に取ればマリエルもいう事を聞くざんすかね。
前々から味わってみたい思ったざんすよ……」
くだらない言葉が耳に入る。
同じ人間か……?。
「……す……。
おま……だけ……は……」
「おい、死ぬなざんす。
剣を抜くから死ぬのは待つざんすっ!」
僕の体から剣が抜かれた。
支えを失った僕は地面へと倒れる。
床に付いた顔で前を見ると、フローレンスお嬢様の顔が虚ろにみえた。
この男だけは殺す……。
倒れたまま、腰にある剣を掴む。
チャンスは一度だけ……。
「ほれ、起きるざんす」
マキシムの手が僕の腕を掴んだ。
今しかない。
僕は渾身の力を込めて切りかかった。
ガキン。
血溜まりで足がもつれた。
外した……。
そのまま、床へと倒れる。
「ぼ、ぼくちゃんの顔に傷が。
な、なにするざんすかっ!」
ズン、ズン、ズンズン!
僕の背中に何度も剣がささる。
「ぴゃけ……っ」
突然、マキシムの声が聞こえ、背中の攻撃が止んだ。
僕の顔と同じ位置にマキシムの顔が並んだ。
最後の力で仰向けになる、大きな影がランタンの光で出来ていた。
「か……お、かお……な……しか」
もう言葉が上手くでない。
「フローレンスは?」
「てお……く……れだ」
「そうか……」
影は淡々と僕の答えを聞いた。
「俺はなぜ間に合わない……」
間に合わなかったのは僕も同じだ。
「それ……ぼ……じだ……」
だめだ、もう声もでない。
恐らく死ぬだろう、そんな予感がした。
僕の意識がもちそうになかった…………。




